ガンダム 月の翅
「…何、これ」アラウダはぽっかりと口を開けた闇に震えた。
「ここには文明の墓があります。」セルムはそれだけ言うとレーダーで周辺を探りながら虚空の中へ船を沈めて行った。
穴の底に着く寸前、船は再びホバリング状態になった。セルムが船のライトを辺りにかざすと光が一気に弾けた。穴の壁は鍾乳壁と化しており、一度光を当てれば乱反射してあたりがしばらく明るくなった。空洞はそのまま前方に下るように続いていた。メイたちは息を飲んだ。よく見れば鍾乳壁は一面残骸が凝固して出来ていた。
「文明の墓場はここだけではなく世界中にあります。ここはその一つなんです。」
壁には建築物や施設の内臓的な部分が剥き出しになっており、美しくも気味の悪いものであった。前方へ下ると壁の景色の、模様の移り変わりがあった。壁の中身は奥へ行くほど古いものになっていた。
「あれは…?」
「モビルスーツ、マン・マシーンなど呼び方はありますが、旧時代の戦争の道具です。ここには人々の過ちとされたもの達が捨てられてきたのです。」
「墓場というよりゴミ捨て場ね」
セルムは船を止め、前方の巨大な施設だったものを照らした。
「旧世紀、第一次西暦時代末期の負の産物、原子炉です。」
「何です?げんしろ?」
「この時代の人間は毒をエネルギーとして使っていたのです。やがて手に余って使えなくなり処分に困った人々は、このように、地下深くに埋めるということで解決した気になっていました。」
「じゃあ毒が漏れてたり充満してるんですか!?」アラウダが声を荒げた。
「いえ、もう何千年も昔の話ですから・・・さて、ビームシールド展開、気圧維持装置作動、皆さん、衝撃に備えてください」セルムは全砲台を前方上方へ向けると一斉射撃をし、原子炉もろとも壁を破壊した。途端、墓場全体が震え洪水が押し寄せ、地底は深海と化していた。
「ここ、海の下だったんだ」「このまま進みます」
鍾乳壁の輝きも消え、明かりは地底艦のライトのみとなった。あたりは再び静寂に包まれた。
「何も見えないや…」
「クソッ、さっきから!」アキラ達が景色を眺めている中カントはイラついていた。
「あんた、何やってんの」、メイは銃を突きつけた。
「頭がザラザラするんだよぉ!さっきからなぁ!!」そう言うとカントは一人づつ睨みつけていった。突然、地底艦が揺れた。
「なんだ!?」「後ろから!?」たった今破壊した文明の墓のある方向からだった。
「あたしはベルポットに乗る!誰か一人タイヤ付きで!!」「私が行きます!!」
メイはヴェルポッドに、アラウダはタイヤに入りながら移動する変わったモビルスーツで迎撃へ向かった。
「私に従ってください。」アドネスクから地底艦へ移った2機はセナに従い地底艦のドックに取り付けられていた耐重水圧スーツを纏った。