かじみちぱらだいす
だが、もしかしたら、未知子なら患者を助けられるのではないか。
それに、未知子は晶を親代わりのように思っている。だから、あんなに会いたがっていた。晶にしても、未知子に失敗させたくなくて、未知子のためを思って会わないのであって、本心は会いたいのではないだろうか。
もし失敗して命を落とすことになったとしても、その最後のときに一緒にいたいのではないだろうか。
未知子と晶を会わせたほうがいいのではないだろうか。
迷った。
その迷いを見抜いたように、加地は白木看護師長に向けて一喝した。
「すぐに呼んでください!」
そして、白木看護師長はさっきの看護師に対して未知子に連絡するように指示した。
白木看護師長はそのときの加地について、こう語った。
あのときの加地先生はこの私が惚れてしまいそうになるほど格好良かったです、と。
未知子は隣に座っている加地の横顔を眺める。
もしも加地が白木看護師長に未知子を呼ぶように言わなければ、未知子は晶と会えなかったかもしれない。生きている晶と再会できなかったかもしれない。晶を助けられなかったかもしれない。
それを思うと、やはり、正直ぞっとするし、加地に対して感謝の気持ちがわいてくる。だが、この件について未知子は加地にストレートに礼を言ったことがない。なんだか、照れくさくて。
未知子はピンと伸ばした人差し指を横を向いている加地の顔へ近づけ、その頬をつつく。
「なんだよ!?」
眉根を寄せて加地が未知子のほうを見た。
眼が合う。
未知子はにいっと笑う。
それから、言う。
「私、今、すごく幸せよ?」
加地がその眼を大きく開いた。
しばらくその状態で固まっていた。
やがて、その口が開かれる。
「お、俺も」
「でも、さっきのがプロポーズだって認めないから」
未知子は加地の台詞をさえぎって言った。さらに厳しい声で続ける。
「いつか、ちゃんとしたの、してよね」
「……ハイ」
加地はうなずき、うつむいた。さっきの噛んでしまったアレを反省しているようだ。
未知子はそれを眺め、吹き出した。
おかしい。
そして、可愛い。
未知子はまた人差し指で加地の頬をツンツンつつく。
「もう、なんだよ、おまえは!」
文句を言いながら、加地はふたたび未知子のほうを向いた。
加地は未知子の手をつかまえようとする。
未知子は笑ったまま、キャーと声をあげて、自分をつかまえようとする加地の手をかわし、それから逆に、一気に近づいていって、抱きついた。
一緒に歩いて行くひとを、見つけた。