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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~真夏のファントム前編~

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小さな声でささやくと亜由美は五月の髪をなでつけ続けた。

翌朝、五月は久しぶりに悪夢にうなされずに起きた。目覚めた五月を亜由美がやさしく見下ろしていた。
「眠らなかったの?」
「さっき、起きたところ」
亜由美が微笑む。
うそ、だ。
五月は直感的に思った。
枕にしわがない。この人はずっと見守っていてくれたのだ。ごめんなさい、と謝罪が口に出る。
「どうして謝るの?」
きょとんとして亜由美が問う。だって、と口を開いたその時、ふすまの向こうから征士が声をかけた。
「五月、あゆ。起きたのか? もう当麻も起きているぞ」
えっ、と五月が驚いて時計を見る。朝食の時間はとっくに過ぎていた。
「さぁ。朝ご飯、食べて仙台案内してね」
亜由美がにこっと笑った。
「それにしても珍しいな。五月が寝坊するとは。夜更かししたのだろう」
征士が微笑む。
五月はそれを見て兄はこんなにやさしげであっただろうかと驚いた。東京での兄はどんな風だろう? ふっと知りたくなった。
「お前んちは異常だっつーの。朝の五時から一家そろって剣道なんて」
征士の家族は一人残らず、剣道をたしなんでいる。祖父は当然の事ながらであるし、父は警察官としてたしなんでいる。
母は師範代であるし、娘の弥生もそれに続く。もちろん、五月も例外ではない。幼いころより竹刀を握っていた。今朝は起きることができなかったが。
朝食を食べる二人を見ながら頬づえをついていた当麻が不機嫌そうに言う。
当麻もそれに付き合わされたらしい。寝起きの悪さを引きずっているのを見ると一目瞭然だった。
「たまには早起きもいいんじゃない?」
昨夜の恨みをはらすかのように亜由美がにんまりして言う。
「お前。喜ぶなよ。せっかくののんびりカントリーライフを何が悲しくて早起きしなくてはならないんだ」
「郷に入っては郷に従え」
征士と亜由美の声がはもった。
「意見が一致したようだな」
亜由美が頷く。
「お前ら〜。結託するな」
五月は三人の会話を黙って聞いていたが、笑いがこみ上げ、声を出して笑った。征士が驚いたように五月を見る。
「ごめんなさい。あんまりおかしかったから」
笑いをこらえて五月が謝る。
「いや、良い。五月も声を出して笑うこともあるのだな」
なにやら征士は感慨深げである。父親の心境だろうか。
「どうしたの? なんだか楽しそうだけど?」
伸が声を聞きつけてやってくる。
「しんー。聞いてくれよぉ。こいつら結託して俺をいじめるんだぜ」
征士と亜由美をびしぃぃっと指差した後、すんすんと泣きまねをして伸にすがる。伸はよしよし、と形だけ慰めてぽいっと当麻を放り出す。
「ぐれてやるー」
ナスティーと言って当麻が出て行く。それを聞いた征士がむっと眉を上げる。
「おい、当麻」
征士が後を追う。
「やれやれ。征士も当麻もこまったちゃんだね」
伸が肩をすくめる。
亜由美は不機嫌そうに最後の白米を口に運んだ。



五月は不思議そうに伸と亜由美を見、当麻と兄の出ていった後を見た。今の会話の中に何か含みがあるらしい。
「食器。僕が洗うよ。あゆは出かける用意をしておいで。五月ちゃんのも洗ってあげよう」
二人分の食器を引き受けた伸は五月に近づくといずれわかるよ、と言った。



五月が伸を不思議そうに見上げる。
しかし伸はそのまま何もなかったかのように食器を運んでいった。

「さーつきちゃんっ。あれ、何?」
亜由美が五月に抱きつきながら聞く。
そういう待遇になれていない彼女は驚きながらも適切な解説をする。
でかける予定などなかった五月は亜由美の気分転換、という強引な誘いの元連れて行かれた。それからずっと万事が万事こんな調子である。亜由美のひとなつっこい態度に五月は面食らいつづけていた。はじめに会ったとき、亜由美はとてもとっつきにくそうに見えたので意外だった。そして厳格な伊達家で育った彼女にとってスキンシップは衝撃的ですらあった。
「あらら。あゆ、五月ちゃんにべったりだね〜」
伸が微笑ましそうに眺める。「おいっ。あゆ」
当麻が亜由美の肩に手をかける。
「当麻はナスティと一緒にいれば?」
ぼそっと言う。そうして五月を引っ張って離れてしまう。
「今朝のこと、根に持ってるな」
当麻が独り言を言う。
「私もだ」
征士が当麻をちろん、と見る。
「おい。勘弁してくれよ。冗談だってば」
「そうか」
そう言う征士の眼はすわっている。
「自業自得だよねー」
伸が追い討ちをかける。
「どうしたの?」
今朝のやり取りを知らないナスティが三人を見渡す。
「なんでもないよ」
にっこり微笑む伸。
「ああ、たいした事ではない」
征士も言う。
うそつけっ。根に持っていると言っただろうがっ。心中で叫ぶも征士にぎろっと睨まれて当麻が黙り込む。ふっと視線をめぐらせたところに亜由美と五月がおらず、当麻は一瞬、動揺した。雑踏の中に見慣れた頭を確認して当麻がすっ飛んでいく。
「おいっ。迷子になったらどーするんだっ」
ぐいっと亜由美の腕をつかむ。
「ふーん、一応は心配してるんだ」
剣呑な雰囲気で亜由美が言う。
「あたりまえだろーがっ」
頭にきた当麻が怒鳴る。
「お前ときたらすぐにどっかに消えちまうんだからっ・・・。そのたびに俺はっ・・・」
「ごめん」
亜由美の瞳に傷つきやすい繊細な光が浮かんだ。
「別にいいけど」
はっとした当麻がトーンを下げる。
「ともかく。俺からは離れるな。いいな」
こくん、と亜由美が頷く。
「よし、じゃ、今度はあっちに行こうか」
表情を元に戻した当麻が二人を視線の先に見つけたソフトクリーム屋に連れて行く。五月はこの二人のやり取りに何か複雑なことがあるんだな、と感じていた。今朝のこともそうだが、年を重ねると複雑なことが待っているらしい。
「ちょっと三人とも!」
雑踏の中に消える三人にナスティが声をかける。
「大丈夫だ。どうせ、この先にあるソフトクリーム屋でも見つけたのだろう」
征士が安心させるように言う。
「当麻も心配性だけど、ナスティも心配性だなぁ」
伸がくったくなく笑う。
「行こうか」
征士が歩き出す。
「やはり、ここにいたか」
征士が三人に声をかけると当麻はんばぁっ、と振り向いた。
「はひ(なに)?」
ソフトクリームを食べながら当麻が問い返す。
「当麻が食べ物を見逃すわけないもんねぇ」
伸が茶々を入れる。
「しゅうはあらふまひ(秀じゃあるまいし)」
「食べてから話せ」
征士が諭す。
「僕も食べようっと。当麻おごって」
伸がにっこり笑う。口止め料だよ、と暗に言いながら。
「しょうがないなぁ」
もごもご言いながら財布を出す。
「私もおごってもらおう」
「おい」
「ここのソフトは美味いのだ。ナスティもどうだ? 当麻がおごってくれるそうだ」
「おひっ」
「そう? じゃぁ、お言葉に甘えて」
伸、征士、ナスティもソフトを手にした頃、当麻は俺のこづかい、と嘆いていた。
口は災いの元である。
しかし、一瞬で立ち直った当麻は征士に言った。
「昼飯、牛タンの店、な?」
牛タンを堪能した後、一向は塩釜まで足を運んでいた。
塩釜神社で一向は休息を取った。散策の後、境内で談笑する。亜由美はにっこり笑うと五月の体を征士のほうに向けた。
「どうした?」