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綾瀬しずか
綾瀬しずか
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あゆと当麻~真夏のファントム後編~

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五月はがたがた震えるえて亜由美にしがみつく。亜由美は征士に目配せする。理解した征士が母や弥生に大丈夫だからと言って、部屋へ戻らせる。三人だけになってから亜由美は言葉を発した。
「五月ちゃんは本当に見鬼なのね」
軽くため息をつく。
「”けんき”とは何だ?」
征士が問う。
「いわゆる鬼を見る力。悪いものを見てしまう力ね」
「それならあいにく、私も見えるのだが」
その声に驚いて顔を上げる。
征士が前髪をかきあげ、右目が見えた。
「征士。・・・その目」
「うむ。やはり、わかるか」
征士が前髪をおろす。征士の右目はラベンダー色に輝いていた。尋ねようとして腕の中で五月が怯えているのを思い出す。まずはこの子をなんとかしなくては。ただ敏感なだけなら問題ない。けれど、見鬼として能力を発揮し始めている。
それでは今は守れても、いつかまた怖い思いをする。そうならないためには対処法を知るのが一番だ。五月ちゃん、と亜由美は強く名を呼んだ。
「顔を上げて。今から聞くことを良く聞いて。あれが見える?」
さししめしたところには雑鬼が固まっている。
一旦顔を上げた五月が再び、顔を亜由美の胸にうずめる。
「怖がらないで。あれ、は五月ちゃんに「何も」できない。所詮は目に見えないもの。本当に怖いのは生きている人間。憎悪や悪意で人を傷つけられる人間が一番怖いものなの。
そしてそれを退けられるのも人間 この世で一番強いのは生きている人間なの。わかる?」
そこで一拍間を置く。
「あれは、五月ちゃんに、「何も」、しない。だから怖がらなくていい」
一言一言区切るように言葉を言う。五月の震えはとまったようだ。だが、やはり急に心構えなどできるはずはない。
「ともかく部屋に戻りましょう」
立ちあがらせて歩かせようとするが怯えて動けないようだった。
「私が連れて行こう」
征士が五月を抱き上げようとしたとき、五月が怯えたまなざしを征士に向けた。
いや、正確には征士の肩を見た。亜由美はさっと征士の肩を払う。雑鬼が払われる。五月が驚いて亜由美を見る。
「ほら。こんなにたわいのないものなの。怖がるのもばかばかしいでしょう?」
にこっと笑う。
「だけど・・・確かにうっとうしいわね」
亜由美は静かに目を閉じる。しばらくの後にまぶたをカッと開ける。どぉんという地響きが家を突きぬけた。
征士も五月もぽかんと口を開けている。端正な顔つきの兄と妹が珍妙な顔つきで亜由美はくすりと笑ってしまう。
「何が起こったのだ?」
雑鬼はすべて払われていた。
「ちょこっと気合を飛ばしただけ。もちろん力を使ってなんかいない。征士の得意技と一緒だと思うわ。
ともかく五月ちゃんの部屋に行きましょう。あそこなら絶対に大丈夫だから」
亜由美はそう言うとすたすた歩き始める。征士が驚きを隠せない様子で後に着く。
五月に部屋に入った征士は驚いた。なんと澄んだ清らかな空間だろう? 五月を抱いたまま部屋を見渡す。
「征士にはわかるのね」
五月を降ろしながら征士は亜由美を見る。
「そう。結界を張ってあるの。この部屋の周りだけに、ね。これは最初の晩に張ったの。当麻に釘を刺される前だから安心して。それ以後は何もしていないわ」
言いながら、亜由美も畳の上に座る。征士は五月を抱えるようにして座っている。
「当麻は知っているのか?」
亜由美が頷く。
「それで、征士のその目のことだけど?」
今度は亜由美が尋ねる番だった。
「この目はあゆが見た通りだ。この右目は見えないものを見る。それだけならいいが、時折ラベンダーの色に変わることがあってな。人に知れるといろいろ騒がしいのでこうして前髪で隠しているのだ」
「その前髪の向こうには目玉の親父が隠れているかと思ってた」
亜由美がくすり、と笑う。
「当麻と同じ事を言わないでくれ」
征士が少し不機嫌そうに言う。
「当麻が?」
亜由美が驚く。
「当麻とあゆは本当に思考が似ているのだな」
今度は征士がおかしそうに笑う。
やめてよー、と亜由美がおもしろ半分、嫌がって言う。五月は二人のやり取りにあっけに取られていた。この二人はあれが怖くないのだろうか? 嫌な気を発するあれを。見えないならともかく見えているのに。ぽかんと見上げている五月に征士が微笑む。
「どうした?」
「兄様もあゆも怖くないの?」
「勿論。あんなものなど、所詮大した物ではない。あゆが言っていただろう? 本当に恐ろしいのはああいったものを生み出す人の心なのだ」
五月が亜由美を見ると亜由美も笑って頷いていた。亜由美と征士を見ていると五月の中になぜか急に力が沸いてくる。
「ともかくこの状態を改善しなくちゃね。うっとおうしいったらありゃしないから」
うつむき亜由美が考え込む。
「この結界を広げ・・・られないか」
言いかけて征士が頭を振るのを見てあきらめる。
「私は約束をたがえるつもりはない」
その他に方法は・・・。
「式を配置させてもいいけれど・・・力を使っていないと言ってもわかってもらえそうにないし・・・。やっぱオーソドックスにこれかなぁ」
一人、亜由美はぶつぶつ言う。
「あゆ?」
征士が怪訝そうに問いかける。ふいに亜由美がニッと笑う。当麻とほぼ同じ仕草だ。夫婦は似てくると言うが、そうでなくても長年ともにいるとこうまで似るものなのだろうか?
征士は妙に感心する。
「私が何もしなくても別の人が代わりにしてくれたらいいのよね?」
「私、か? 私一人で結界など張れないぞ」
征士がひるむ。
「できるのよ。道具さえあれば、ね」
亜由美は平然と言ってのけた。

当麻は図書館近くの喫茶店でナスティと昼食を取っていた。サンドイッチをぱくつくがどこか勢いがない。もごもごと食べながら当麻は唐突にナスティに問いかけた。
「ナスティは将来に不安はないのか?」
ぶしつけとも思える質問にナスティは微笑んで答える。
「ないわ。あたしは征士を信じているから」
日本の名門家に嫁ぐことにもなるかも知れない事に不安ではないナスティが不思議だった。自分は亜由美との将来に大きな不安を抱えているというのに。
「それに。今のあたし達はお互いが好き。それで良いと思うの。現在を大事に生きなければ、未来を幸せに生きることなど出来ないわ」
ナスティの何気ない答えが当麻の胸の中にすとんと落ちた。
大事なのは今。今を大事にするから未来がある。
俺とあゆの今を大事にすれば未来は来るだろうか?当麻は物思いに耽りそうなのをあわてて止める。今は人生論を話している場合ではない。
「それで、話は変わるけど、珍しい記事を見つけたんだ」
当麻は記事のコピーをナスティに指し示した。

「ここでいいのか?」
亜由美が頷く。征士は屋敷の一角に四つ目の小皿を置いた。小皿には塩が盛ってある。五月の部屋で亜由美はこう言った。
”急いで塩釜神社から清めの塩をもらってきてくれる?”
征士はわけのわからぬまま塩釜に行き、言われたとおりにした。
その後、戻ってきたら今度は小皿に盛って屋敷の四隅に置くようにと言った。
不思議そうな五月と征士に亜由美はこう言った。
”塩は邪気を払う力があるのよ。本当にオーソドックスな方法だけど。ここが仙台でちょうどよかった。塩釜の塩ならきっと効果あるから”