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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~真夏のファントム後編~

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本のまじないの様あったが、ないよりはましだろうと考えた。
だが、内容を知られるのは恥ずかしい。
皆を避けているのは自分なのだから、想っている事を知られるのは都合が悪い。
書き終わると紙を折り、決して開けないように言ってナスティに渡す。
開けたら効力がなくなるからと言って。
本当はそんな事もないのだろうけれど、と一人心の中で言う。
「これは?」
とナスティが問う。
「ほんのお守り代わり」
短く答える。
「ありがとう」
とナスティがうれしそうに微笑む。
お礼を言われるほどじゃない、と言って今度は本当に部屋を後にした。
部屋に帰ってため息をつく。
こうやって人の世話を焼くことは嫌いではない。
が、そこで示される好意は苦手だった。
今、喜ばれてもいつか自分は皆を裏切る。
亜遊羅はすべての悪を退治するというわけには行かないのだ。
いざというときは悪であっても見過ごして歴史を動かさなくてはならない。
その結果、間違いなく彼らと意見をたがえることが分かっていた。
きっと刃を向けることにもなろう。それがどれほどつらいことであっても。
すでに自分は幾度となく彼らに刃を向けている。
もう、嫌だよ・・・。
また一筋、悲しみの涙が頬を伝った。

当麻はただじっと亜由美の去っていた方を見ていた。
先ほどまで亜由美はひょうきんとも言える態度で皆と接していた。
だが、その胸の奥底にたとえ様もない悲しみが渦巻いていたのが突然、感じられた。
ナスティにお守りと称する紙を渡して礼を言われたときにふっと瞳によぎったもの。
あれは苦しみと悲しみだった。
出て行く後姿に声のかけようもなかった。
まるで一人にして欲しいと言っていた様だったからだ。
俺ではお前の役には立たないのか?
当麻の胸にも悲しみが去来していた。

「ナスティ、大丈夫か?」
征士はナスティに問う。
ナスティは大丈夫、と元気に返事する。
二人は今、言われた小山に登っていた。
征士は片手に退魔の太刀を持っていた。そして空いた片手をのばすとナスティが登るのを手伝ってやる。ナスティの柔らかい細い指を手に感じて征士は少し不安になる。ナスティは姉たちと違ってか弱い女性だと思っていたからだ。だが、そのナスティの瞳の色はあくまでも力強い。不安に思う必要などないのだ、と征士はまた思う。
ナスティと純の純粋な気持ちがかつて命の勾玉を出現させたと聞いている。
彼女の力がきっと私には必要なのだ。
本の三十分ほど登ったであろうか。
頂上にたどり着く。
「ここのどこかしら?」
ナスティが周りを見渡す。
征士にはわかった。
嫌な気配が漂ってくる。
「あそこだ」
と征士は指差した。
そこは何か祠のような空間があった。
「ナスティ、道具を。ナスティはここで待っていて欲しい」
いざというときには助けを借りることになろうが、それでも好きな女性を危険にあわせる男がいるだろうか?
そう言う征士にナスティが首を振る。
「心配してくれるのはうれしいけれど、あゆが言った通りなの。好きな人の役に立ちたいし、
一緒にがんばいたいわ」
ナスティは必死に訴える。
征士の役に立ちたい。側にいて力づけてあげたい。足手まといなんて言われたくない。
ここでただまんぜんと征士が戦うのを見ているだけなのは嫌だった。
「お願い」
ナスティが願う。
その言葉にしばし逡巡していたようだったが、征士は頷くとナスティの手を力強く握った。
「何かあったら、すぐに逃げるのだぞ」
「ありがとう。征士」
そう言ってナスティは征士の頬にキスをした。
征士の顔がほんのり赤くなる。
「行こう」
短く言って二人は祠に入っていった。

その頃、五月と亜由美、そして当麻と伸は同じ部屋にいた。
当麻は亜由美から離れようとしないし、亜由美は五月と離れようとしない。
残った伸も別行動する気はなかった。
自分抜きで事が運ばれているのはやや気に食わなかったが。
突然、天井がパシッ、と鳴った。
五月がびくりとする。
亜由美が大丈夫、と言ってなだめるが、その音は次第に激しく、強くなっていく。
亜由美にはわかっていた抵抗しているのだ。相手が。
きっと掘り出しにかかられてこちらにも手を出してきているのだと。
あまりの激しさに怯えて五月がしがみつく。
正直、心霊現象と言うものは亜由美も苦手だ。
自分が相手するのは亡者や鎧武者や鬼、妖怪のようなもの。
普段はいわゆる純粋な幽霊といったものとは無縁だったからだ。
たとえあったとしても関わり方は直接的だからこのような間接的に行動に出られるとひどく怖い。
怯えそうになる自分の心を叱咤する。
自分がしっかりしなくてどうするのだ。
ここには対応できる人間は自分しかいない。
だが、だんだん、恐怖がせりあがってくる。
亜由美は思わず、五月の背中に回した手をぎゅっと握り、目を閉じた。
その亜由美の肩に手がまわされ、五月ごと抱き寄せられた。
はっとして目を開ける。
当麻だった。
大丈夫だ、俺が着いている、と優しい声でささやく。
ありがとう、そう言って亜由美は涙ぐむ。
自分がこういったものが苦手なのを当麻はしっかり覚えていたのだ。
そこへ、かすかな声が亜由美の耳に届いた。
”・・・ら・・・ゆら様。あゆら様”
「誰?」
自然と声が出ていた。メガネをはずし、目を凝らす。ぼんやりとしたものが形を取る。
応じることで姿がさらに見えやすくなるのだ。
”私はこの伊達家の先祖霊のひとつ。ずっとこの家を守護してきました・・・。この家が今、危機にあることは知っています。でも、あれに圧迫されてなかなか手助けすることができませんでした。あなたがいろいろなさってくれたことでようやく、私も力を発揮することができます。ひとつお願いがあります”
「どんなお願い?」
”私は一人ではこの屋敷を出れませんが、伊達家の人間についてならでれます。五月に征士の元へ向かわせてください”
「そんな事・・・」
腕の中で五月は震えている。諸悪の権現のところなどどうやって行かせられるだろうか?
”刻は一刻を争います。お願いします。五月に導きを与えてください”
その言葉に亜由美はとっさに判断を下していた。
五月の名を呼ぶ。
「あの人が見える?」
顔を無理やりあげさせて、五月に問う。
五月ははかなげにたたずんでいる女性を見た。
怖い気はしない。不思議と暖かい。
うん、と頷く。
「彼女は五月ちゃんのご先祖様。あなたについてなら外へ出られるのですって。今、きっと征士達は苦労している。彼女はその征士を助けたいって。五月ちゃんにできるかな?
もちろん、私も着いて行くから」
五月はその言葉に驚いていた。
怖がってばかりいた自分に何かができる。
五月は一も二もなく頷いていた。
「それじゃぁ。心を開いて。そう。心を穏やかにして。彼女を受け入れて」
五月の背中がふい暖まった。
彼女がついたのだ。
亜由美はそれを確認すると五月と一緒に立ちあがった。
「私、五月ちゃんと行って来る。当麻と伸はここで待ってて」
そういう亜由美に当麻が苦笑いをする。
さっきまで怯えていたのにもう大丈夫そうなふりをしている。
本当はまだ怖いのに。
だが、一度戦いに赴くと決めた亜由美ほど強いものはいない。
その意思力には敬服する。