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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~真夏のファントム後編~

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「お前が行くと言うのに俺達がここでぼんやりしているわけには行かないだろう? それに時間を急ぐなら、俺達がいる方がいい」
わけのわからない理由を聞かされて怪訝に思ったが、それは外で判明した。
当麻が伸に車のキーを渡したのだ。相変わらず根回しの言い当麻はいざというときのための足として伊達家の車のキーを借りていたのだ。ナスティと伸は免許を持っている。伸が運転すればいち早く現場にたどり着ける。
「ありがと」
亜由美はいつものようにちゃんと考えてくれている当麻に抱きつきたい気持ちを抑えて礼を言う。その瞳は純粋に喜んでいて当麻は喜んだ。が、にやけそうになる顔をひきしめると一行を促す。
「時間がないんだろ?」
一行は車に乗り込んで征士達の元へと急いだ。

征士達は苦戦していた。
祠に入り、気を発する場所に征士が近づこうとしたとき、何かの力で阻まれた。
その上、見えない黒いものが二人を襲う。
ナスティに下がっているように言うと、征士は太刀を振るった。
だが、いくら振るっても沸いて出てくる。
小一時間もしただろうか。
突然、征士の耳に五月の声が飛びこんできた。
「兄様!」
五月が祠に飛びこんでくる。
「五月、近づくな」
そう言う征士に五月がしがみついた。
「兄様を助けに来たの。どうしたらいいかわからないけれど。彼女が助けてくれるって」
「彼女、とは?」
五月とナスティを後ろ手にかばって征士が問う。
その途端、祠がぱぁぁっっと明るくなった。
襲いくるものの勢いが下がった。
「ナスティ! 塩を」
亜由美の鋭い声が響く。
言われてとっさにナスティが塩を巻く。
襲い来るもの力がさらに弱まった。
征士がそれを見逃さず、叩ききる。
ひとつ、ひとつ切る。
今度は沸いて出てこない。
”今のうちに征士”
誰の声だかわからない声が聞こえ、征士はすかさず、土を掘り起こす。
ナスティと五月がそれを手伝う。
いくらか掘ると黒い塊が見えた。
征士はナスティと五月を下がらせようとしたが、ナスティは下がらなかった。征士がナスティを見ると彼女の瞳に力強い光が宿っていた。ああ、この女性だから私は彼女を好きになったのだ、とのんきにも征士は思ってしまう。怖いはずの作業もナスティと一緒なら何でも出来る気がした。
征士といっしょに掘り起こす。
犬の首、だった。
掘り起こすと同時に気が失せた。
呪が晴れたのである。
祠の中に満ちていた光がいつのまにか消えうせていた。
「一体、何が起こったのだ?」
ナスティと征士は顔を見合す。大丈夫か?とナスティに尋ねるはずだったがあまり急なことにおどろいてその言葉しかでなかった。ナスティも同じようだった。
「兄様には見えるでしょう?」
五月が得意げに言う。言われて五月のほうを見ると征士にとって見なれた姿を見る。
「お久しぶりです」
征士が挨拶をするのを聞いて五月が驚く。
「兄様、知って・・・?」
ああ、と征士が答える。
「家を守ってくれている人だ」
”間に合ってよかった。五月とあゆら様にお礼を”
ええ、と征士が微笑む。
ナスティ、伸、当麻がぽかんとしてみている。
彼女達には見えないのだ。
ナスティの名を呼ぶ。
「今、そこに私の家の守護をする者がいるのだ。彼女が助けてくれたらしい」
そうなの、と言ってナスティは見えない人に向かって礼を言う。
「それと、五月とあゆにも礼を言わねばならないな」
征士は五月の頭をくしゃっとなでる。
「助かった。礼を言う」
「やぁねぇ。大したことしてないって。礼は五月ちゃんと彼女にして」
亜由美は手をひらひらさせておどけて言う。
”いえ、あゆら様がいてくれて助かりました”
彼女も礼を言う。
亜由美は居心地悪そうに身じろぐ。
そんな亜由美を彼女は見ていたかというとナスティの方に飛び、ナスティをふわりと抱く。
ナスティは伊達家のものとして認識されたのだ。
ナスティの回りで空気が動く。
”あなたが征士の奥方ね。子孫のことよろしく”
その言葉に征士が顔を赤くする。
ナスティがきょとんとする。
五月が説明する前に征士は五月の口を押さえ、こう言った。
「彼女がよろしく、と言っていたのだ」
ナスティはそう、と言って微笑んだ。こちらこそ、よろしく、と言う。
その様子を征士が嬉しそうな笑みを浮かべて見守る。
五月も心なしか嬉しそうだ。征士とナスティが一緒になるつもりなのを聞いたからだ。
優しいナスティがいずれ姉になると思うと五月は嬉しかった。
欲を言えば、ひとなつっこい亜由美も家族になって欲しかったが、あいにく兄は一人と来ている。母がもう一人男児を生む予定はない。少なくとも征士の妹として亜由美とはつながっていられる。これからもきっと何かと力になってもらえるだろう。先輩としてまた姉のような存在として五月は亜由美を慕っていた。
ナスティ、征士、五月、そして伊達家の守護霊がひとつのファミリーのような空間を形成している。きっと彼らには幸せな未来が待っている。
ナスティ、と征士が名を恥ずかしそうに呼ぶ。
「言い遅れたが、ナスティにも礼を言わなければなるまい。ありがとう。ナスティがいてくれたおかげで心強かった」
征士が微笑みナスティも幸せそうに微笑む。
好きな人の役に立てた。その想いがナスティを幸せな気持ちにさせていた。

その様子を見ていた亜由美は満足そうに微笑むとくるりときびすを返して山を下る。当麻が慌てて後を追う。
「おい」
不安になった当麻が強く腕を掴む。まさかとは思ったが、消えてしまうのではないかと言う不安に駆られたのだ。
「なぁに?」
ひょうきんな瞳の光を宿して亜由美が問う。
「いや、何でもない」
そう言って肩に手を回すといっしょに山を下る。まるで離さないといった風の当麻の様子に亜由美がこっそり苦笑いする。離れる計画ははたしてうまく行くだろうか?
「ナスティと征士、うまく結婚できたらいいね」
ああ、と当麻が頷く。
私と当麻が結婚できない代わりに征士達には幸せになって欲しい。
そう思うも口には出さなかった。
亜由美の胸に切なさが去来する。それを押し隠すように亜由美は明るく声をあげた。
「ねぇ。この間のソフトクリーム屋さんで、ソフトおごって」
「お前、また俺にたかるのか?」
「いいじゃない。リッチな当麻なんだから。今度はストロベリーがいいな」
「俺の財布を考えろよ」
「いいじゃん。ソフト。ソフト」
わざとはしゃぎながら亜由美は山を駆け下りる。
当麻は苦笑いしてそれを追いかけた。

「ところで、ナスティに渡した紙に何が書いてあったの?」
帰りの新幹線の中で伸が思い出したかのように問う。
征士とナスティの絆はより深まったようだった。時折優しい視線をそっと交わしている。
「そういえば、見ていなかったわね」
ナスティも同意してごそごそポケットをあさって紙を取り出す。
「だ、だめー。効力が失せるっ」
あせった亜由美がそれを奪おうとする。
「もう、用はすんだんだからいいんじゃないのか?」
そう言って当麻が亜由美の動きを止める。
「やー。当麻。離して」
もう少しで手にうば返せるところだったのに当麻に止められ、さらに紙切れは征士の元へ行く。
「おもへども 身をしわけねば めに見えぬ 心を君に たぐへてぞやる 伊香淳行・・・?」