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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~道しるべの星おまけ~

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タオルケットはちゃんと二人分用意してあった。
当麻はもう一枚を自分のひざにかけて亜由美の顔を見下ろす。
「とーまはおねむしないの?」
「俺は腐るほど眠ったから大丈夫だ」
答えると亜由美が困ったような顔をする。
当麻が亜由美が口を開こうとする寸前に先読みしていってしまう。
「別にお前にいやいや付き合っているわけじゃない。実際、まだつらいしな・・・って、お前なー」
当麻がこめかみをおさえる。
「何言ってもそんな顔されたら何も言えないだろう?」
亜由美は泣きそうな顔で当麻を見つめていた。
ごめん、と亜由美が呟く。
「また巻き込んじゃったね。当麻には関係ないことなのに・・・」
悲しそうに呟く亜由美に当麻は言う。
「俺が首を突っ込んでるの。何度言えば分かるんだ? それにお前が関係することには俺も関係するの。
それに天青って俺の前世なんだろう? しっかり関係あるじゃないか」
亜由美は決まり悪そうな顔をする。
「当麻や皆には悪いと思ったけど、当麻に天青の事を知らせたくなかったから。
昔の別の人格なんか思い出しても嫌な思いするだけだから。
当麻はそのままの羽柴当麻でいて欲しかったから」
亜由美の言葉を聞いた当麻がなんとも言えない顔つきで亜由美をじっと見る。
亜由美として生きてきたこの少女が亜遊羅として覚醒した事がどれほど亜由美に苦痛をもたらしたか。
自分には前世の記憶などない。今回の事で得たのもただの情報だ。
自分が他の誰かであったという実感はどこにもない。
それを持つと言うことはどういうことなのだろう?
当麻は思い巡らす。
真剣な亜由美の顔が一転して明るくなる。
「って言っても私が亜遊羅である事は嫌じゃないけどね。当麻を守る力を持てたし、ってやっぱり面倒に巻き込むことが多いけれど・・・」
守る力・・・、当麻はその言葉をかみ締める。
「守る力、俺も欲しいな・・・」
ぽつりと当麻が呟く。
「持ってるよ」
亜由美がにこりと笑って言う。
「物理的な力を持っているかではなくて、心の力を当麻は持っているよ。
当麻は闇に落ちかけた私の心を何度も救って、今も守ってくれている。それで十分だよ。
当麻達はもう戦う力を持ちたくないでしょう?」
それはそうだが、と当麻が一人ごちる。
「戦うための力は欲しくない。戦いは悲しみと憎しみを生むだけだ。
繰り返される悲劇は誰かが止めないと行けない。だが、お前を守るためなら、俺は・・・」
当麻の瞳に思いつめた光が宿る。口を開きかけた当麻の唇に亜由美は手を伸ばして指をあてる。
「ストップ。それ以上は考えちゃ駄目。当麻は今の普通の当麻のままでいいの。
心に無理を重ねちゃ駄目」
当麻が複雑な顔をする。亜由美はそれを見て心を決める。いつ青龍の力のことを言おうか迷っていた。今が言うべきときなのだ。
あのね、と亜由美は言う。
「当麻にはまだ内緒にしておこうと思ってた。でも、いきなり知るよりも今知っておいたほうがいいから、教えてあげる」
亜由美は体を起こして当麻の前に座ると手を取って両手で包み込む。
「当麻は時がくれば四神としての能力が目覚める様になっているの。天青がそうしてくれたの。だから当麻にも守る力があるの。当麻は青龍の力を持っている。時の長の今のたった一人の守護者なの。他の三人はお空にいるから、当麻だけが現世に残っている守護者」
言って亜由美は言葉を一旦切る。
「もし当麻が青龍の力はいらないって思っているなら封じてあげる。誰も戦いたくないもの」
言って亜由美は寂しそうな顔を当麻に見せない様にうつむく。
当麻は片手を亜由美の手に重ねる。
「封じなくていい。その方が俺も安心するから」
「無理しちゃ駄目だよ? 自分の心を偽っては駄目だよ?」
「無理なんかじゃないんだ」
当麻の目に自信なさげな光が宿る。
「正直、ずっと心もとなかった。俺には鎧の力が残っている。だが、それではお前を守りきれない。
守ってやるといいながら結局はお前のお荷物に成り下がっている自分が嫌だった」
亜由美が激しく首を振る。
「お荷物なんかじゃないっ」
最後まで聞いてくれ、と当麻が言って亜由美は口を閉じる。
「だから、自分にお前を守る力が眠っていると聞いて正直うれしくさえ思う。
その力を戦うために人を傷つけるために使うわけじゃない。お前を守るために使うんだ。
喜んでお前の守護者になるよ」
そう言って当麻は静かに微笑む。
亜由美はトルーパーとしての彼らが戦うことにどれほど悩んできたか知っている。
今もその悩みは解決されていない。
その当麻に再び戦う力を与えることは果たしていいことだろうか、と亜由美の心は揺れ動く。
一時の寂しさで目覚めるようにしたのは間違っていたのかもしれない。
自分はいつもこうだ。事態を起こしてしまってから惑って後悔する。自分が嫌になる。
「それに、お前の話じゃ、俺はたった一人の守護者なんだろう?少なくとも一人きりだったお前に仲間が出来たんだ。正確な意味での仲間が、な。俺は今やお前のれっきとした身内って訳だ。お前、寂しがりやだからな。こういう人間が一人ぐらいいてもいいだろう?」
当麻は明るく言って落ち込んでいる亜由美の瞳を覗き込む。
「天青もそれを知って力が目覚める様にしたんだろう? 俺はお前を守るためなら天青だろうとなんだってなってやるさ」
亜由美は当麻が誤解していることに気付いて慌てて口を開く。
「違うの。天青にはならないの。彼は当麻の意識のずっと奥深くに眠ってしまったの。
めざめるのは青龍の力だけ。彼の記憶は戻らないの。だから今の当麻のままで青龍になるんだよ。
青龍の天青でなくて青龍の当麻なの」
そっか、と当麻はどこかほっとしたかのように呟いて納得する。
「やっぱ、「俺」があゆを守りたいからな。俺のままで出来ることならそれに越したことは無い」
「本当に力を目覚めせてもいいの?」
亜由美が不安そうに尋ねる。
「いいといったらいいの。お前も一々悩むなよ。それでいいんだ」
当麻が力強く言って微笑む。亜由美もようやく安心して微笑む。
「あっ、お前っ・・・」
当麻がはっとして嫉妬に駆られた瞳で亜由美を見据える。アイデンティティの問題が頭をかすめて亜由美が亜遊羅でもあることを思い出す。
「お前っ。天青が好きなんだろうっ? 俺と言う者を差し置いてよくもまぁっ」
ストップっ、と亜由美は言っていきなり当麻の唇に唇を押し付ける。それから唇を離して声を上げる。
「今の時代の私が好きなのは当麻なのっ。天青を好きだったのは亜遊羅っ。四百年も大昔のこと持ち出さないでよねっ。今の私はあゆなのっ。当麻がそう言ったんじゃないのよっ」
ものすごい勢いでまくし立てられて当麻は口を閉ざす。
「こういう顔でこういう声でこういう性格でこういう容姿をしている羽柴当麻が好きなのっ。
他の格好してたらだめなの。いい? 今の私が好きなのは当麻だけ」
必死で言う亜由美の顔を見ていた当麻は破顔すると亜由美を抱きしめる。
俺も、と当麻は言う。
「俺も今のお前が一番好きだ」
ほんの少し体を離して当麻は指で亜由美の顔をなぞる。
「こういう顔でこういう声でこういう性格でこういう容姿のあゆが一等好きだ」
当麻はそう言うと亜由美の顔にキスの大洪水を起こす。