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【弱ペダ】会えないあなた

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 『ラブ☆ヒメ』の特別番組があるし、秋葉原でもスペシャルイベントやってるから行かなきゃ。予約してたDVDも発売になるし。そうだ、部活の練習もあるから、午後休みの日にアキバに行った方が良いかな。今年こそ年末のコミイチの企業ブースに挑戦してみようかなぁ。でもすごい人出だって言うし……。限定頒布のドラマCDとかグッズどうしよう。年明けにはキョーガク☆フェスもやるんだよね。マニュマニュのガレージキットとか、ヒメの限定フィギュアも見たいし。『王軍戦記トラコーン』のフィギュアもあるって公式に書いてあったな……。年末結構出費あるし、お年玉で足りるかな。でも展示場結構遠いしなぁ。自転車で行けるように道と駐輪場も確認しとかなきゃ。元旦には今泉くんと鳴子くんと神社に初詣でに行こうって話してるし。友達と初詣でなんて、僕初めてだ。
 指折り数えていると、肩を突かれた。
「小野田、小野田」
 ひそみ声で自分の名前を呼ばれて振り返る。
「どうしたの?」
「あのさ、三年に緑のアタマした先輩いたろ? 小野田と同じ自転車部だよな?」
 巻島さんのことだ。何の話か判らないまま坂道は頷いた。
「あの人、急に来なくなったろ?」
「ああ、イギリス……」
 留学したんだ、と言う前に同級生が勢い込んで続けた。
「それがこの間見かけたやつがいてサ」
「え……」
 まきしまさんが……?
 帰って来てる?
 嬉しかった。会いたかった。何度も手紙を出したけれど、返事は一度もなくて。それでも唯一のつながりのような気がして、出すのを止めると言う選択肢だけは坂道にはなかった。手紙を出すことで会えないことを我慢してきたのだ。帰って来ているのなら会いたい。直接会いたい。
 そして、出来るなら一緒に走りたい。山を二人で自転車で登りたい。
「そーいやお前、見た目に反してケッコー筋肉あるな」
 クラスメイトが坂道の二の腕を掴んで感心したように呟いた。それを聞きつけた周りがマジか、なんて言いながら坂道の腕を代わる代わる触っては、だんだんと声が盛り上がっていく。だが、坂道にはもう彼らの声は聞こえていなかった。
「一年四組!」
 マイクを掴んだ生活指導の先生に大音声で一喝されて、ようやっと我に返ったほどだった。

「残念ながら、そいつぁ嘘だぜ。小野田」
 田所がエナジーバーを咀嚼しながら断言した。部活を引退したが、たまに息抜きだと部室を訪れて練習に参加していく。
「うそ……、ですか」
 一瞬で気が抜けた。どうやら他の部員は知っていたらしい。僅かに呆れたような空気が部室に流れた。
「最初は俺たちも噂を信じちまって、連絡も寄越さねーで何やってんだって思ったけどよ。お袋さんに聞いたらちゃんと向こうに居るってよ」
 田所の言葉を保証するように、部長の手嶋が頷いた。
「お前ががっかりすると思ってな、言わなかったんだ」
「そうですか……。僕すっかり嬉しくなっちゃって」
 終業式で聞いた噂で舞い上がった坂道は、ホームルームが終わるのも待ち遠しく、部室に一番で飛び込んできたのだ。当然ながらそこには誰もおらず、そわそわしながら他の皆を待ち構えて、開口一番「巻島さんが帰って来てるんですよ!」と滅多に出さない大声を出して部員を驚かせたのだった。
「本当に帰って来ていたら、真っ先にここに来てるよ」
 古賀が宥めるように坂道の肩を優しく叩く。
「そうですね……」
 喜びから急転直下、どん底に突き落とされた気分だった。
「だから気にするなって言ったろ」
「練習終ったら一緒にラーメンでも食いに行こか」
 ばちん、と今泉と鳴子が坂道の背中を叩く。自転車競技部に入るまでは、こうやって背中を叩かれるのは嫌いだった。痛いだけだし、叩いてくる人はだいたいが運動部で声が大きくて乱暴で、坂道みたいなまるきり正反対の人間をバカにしているのだと思っていたからだ。ありえないと思っていた運動部に入った今なら少し判る気もするけれど、抵抗がなくなった訳じゃない。それでもこうやって仲間から叩かれるのは嬉しかった。彼らのいろんな気持ちが伝わってくる気がするからだ。時には勇気、そして自分を信じてくれると言う想いが力をくれる。前にそうやって叩かれると暖かい気がする、と言ったら、巻島が「痛いの間違いショ」と照れくさそうに笑ったのを思い出した。今はきっと励まし。そして自分を想い気づかってくれる優しさ。
「うん」
 坂道はそれが嬉しくて、落ち込んだ気持ちを振り切るように笑って答えた。

 一度は振り切ったはずが、ふと一人になるとどうしても巻島を思い出してしまう。帰って来てるらしい、などと言う根も葉もない噂が坂道に与えた衝撃は相当大きかったらしい。
 坂道は溜め息を吐こうとして止めた。秋葉原への道筋は、もう何年も通いなれた道だ。高速道路が頭上を走るこの道なら、ごうごうと上を通り過ぎる車の音で、多少大声で歌を歌っても人に聞かれないポイントだ。行きと帰りにはここで『ラブ☆ヒメ』のオープニングを歌うのが好きだったが、どうしたことか今日は少しも歌う気にならない。
 それならと普段は滅多に歌わない『トラコーン』のエンディングを少し歌ってみたが、それも乗らなくて結局途中で止めてしまった。
「折角ガシャポンもしたのに」
 そこまで言って、何を出したのか覚えがないことに気が付いた。あれ? 僕今日ガシャポンしたんだっけ?
 坂道は慌てて歩道に入って端っこに止めるとカバンを引っ掻き回す。
「ない、ない、ない! ない!!」
 何度カバンを探してもガシャポンは一つもない。
「折角アキバに行ったのに……」
 今日は予約していたDVDとその店限定の予約特典を引き取りに行ったのだ。その後で別フロアの新譜CDとグッズを一回りして、少しでも年始のイベントのために節約しようと決めて我慢した。それでもガシャポンまでやらないことにするのは寂しくて、一回だけなら良いことにしようと心に決めて店を出たはずだ。
 間違いなくその後、ガシャポン堂へ行くはずだ。普段の僕なら。
「そうだ……」
 アキバの街で緑色の髪の毛を見かけたのだ。まさかと思いながらもしかしたらと言う気持ちで追いかけたら、案の定全くの別人だった。コスプレ好きの外国人が奇抜な色にして、衣装を着てアキバを歩いていただけで、坂道が彼の写真を撮りたいのかと勘違いされて、撮ろう撮ろうと肩まで組まれてしまった。それこそ「の……、ノーイングリッシュ! 写真じゃ無くてですねっ! あの、ぼ、僕知り合いと勘違いして……っ! いや、その恰好すごく似合ってます! まさしく本人降臨キター! って感じです! じゃなくて……、す、すみませんでしたぁっ!」と脱兎のごとく逃げ出してきた。
 そのまま恐ろしかったと恐怖に打ち震えながら、自転車に乗ってしまったのだ。
「そりゃないよな……。ガシャポン」
 がっくりとして前カゴに入れたカバンに突っ伏す。そもそも店に立ち寄っていないのだ。ガシャポンなどあるわけもない。
「そういえば……、あの人なんか日本語喋ってたかも……」