十三番隊副隊長・朽木ルキアの休日
「気にすんな。こんな時はお互い様だ。ところでルキア、どっか行きたいところとかねえのか?」
一護は尋ねた。
ルキアは考えこんだ。
「うむ…これといって特には…。それに、尸魂界に戻ったらまだ残っている仕事を片付けねばならぬ。あまり遊んではおられんのだ。」
「でも今日は帰れねえんだろ?だったら思い切り遊んじまえばいいんじゃねえの?」
一護の言葉にルキアははっとする。
(そういえば、このところ仕事ばかりしていてろくに休んでいなかったな…ならば今日一日は…)
「…そうだな。久々に体を休めるのも悪くない。」
一護はニヤリと笑った。そして改めて尋ねた。
「決まりだ。じゃあ、どこに行きたい?」
「ルキア、本当にここで良いのか…?」
「無論だ!」
ルキアの希望の行き先は、町外れの公園だった。
『公園で風を感じながら日の光を浴びる』
これがルキアの望みだった。
「ここの芝の感触が尸魂界のそれと似ておってな。ここは私の安らぎの場所なのだ。普段はほんのわずかに足を踏み入れる程度なのだが、今日は時間の制限なく、くつろぐことができる。最高ではないか!」
言いながらルキアは芝生の上に座り、草木の匂いを感じた。
一護はただ立ち尽くしていた。
(これが『休み』って…あいつどういう性格してんだよ…)
そう思いながらも、吹き抜ける風とやんわり照らす日の光に一護も癒されていた。
(確かに、落ち着くな…)
一護はルキア同様芝生の上に腰をおろした。
するとルキアはすくっと立ち上がり、公園を駆けていった。
「おい、ルキア?」
一護は不思議に思った。
ほどなくしてルキアは缶ジュースを二本もって戻ってきた。
「これは?」
「先日からこの辺りで飲み物をしきりに配る集団があってな。せっかくの機会と思ってもらってきたのだ。懐の深い連中だ。」
「ただ宣伝用に配ってただけだろ…」
一護はそう呟きながらルキアの差し出した缶ジュースを受け取った。
二人で開けて飲む。
ふと一護は、ルキアをじっと見つめた。
「どうした、一護?」
「いや、お前缶ジュースは普通に飲めるんだなって思ってよ。」
「失敬な!これしきのこと、造作もないッ!」
「でも前はパックのジュースの飲み方わかんなくて悪戦苦闘してたじゃねえか」
「あ、あれは、その…慣れていなかったのでな」
「俺にはその二つの違いがよくわかんねえけどな」
一護は笑ってジュースを飲む。
恥をさらされたルキアは反撃にでた。
「慣習を知らぬことは悪しきことではない。それに、それを言うなら貴様も死神になったばかりの頃、『誰かに見られたら…』などと言って柱に隠れながら移動しておったではないか」
「…!ッゲホッゲホッ…」
一護はむせた。
「それは慣習を知ってる知らないの問題じゃねえだろ!」
「私にはその二つの違いがわからんがな」
「てめェ…」
二人は睨み合った。だがすぐに二人とも吹き出した。
「昔の話だ。」
「ああ…」
そのあとも二人は芝生の上で、互いの思い出話を続けた。
夕暮れ―
「よし。そろそろ帰るか。さすがに掃除も終わってるだろうしな」
一護はそう言って立ち上がった。
「…そうだな。妹たちも心配しているであろう」
ルキアはどことなく寂しそうだった。
一護はルキアの様子を見て言った。
「…夕飯、食べに来いよ。ウチの連中、お前のこと知ってるし。」
ルキアの瞳が輝いた。
するとその時、一陣の風が吹いた。
バキバキバキバキッ
同時に地面が真っ二つに割れる。
二人は慌てて飛び退き、そのまま死神化した。
「なんだ!?虚か!?」
「わからぬ!」
言いながらルキアは考えた。
(この感触…恐らく虚に間違いないであろう。だが、なぜ霊圧を探知できぬ?なぜ姿が見えんのだ?)
ルキアは叫んだ。
「一護!敵の姿が見えぬ以上、こちらから近づくのは危険だ。とりあえず退くぞ!」
「ああ!」
二人は走り出した。
だが、その場所が町外れであったことが災いした。
「くそっ!」
「しまった…!」
二人は行き止まりに追い詰められた。
(まずい…!)
その時、耳をつんざく轟音と共に、爆撃と光の雨が降り注いだ。
「!?」
「これは…」
「やれやれ。この程度の虚も退治出来ないなんて、死神失格じゃないのか?」
声のする方を向くと、そこには石田雨竜が立っていた。
「石田!」
「黒崎くん、大丈夫!?」
「一護、朽木」
井上織姫・茶渡泰虎も駆け付けた。
「みんな…これは、一体…」
ルキアも一護もわけがわからない。
「一体どうなってんだよ!?」
するとそこへ浦原がやってきた。
「いやァー、危なかったッスね。皆サン、大丈夫ですか?」
「浦原さん!?」
「浦原、これはどういうことだ?説明しろ!」
浦原は大きく頷いた。
「もちろんッスよ。」
浦原商店―
一護たち一行が訪れると、そこには四楓院夜一がいた。
「夜一さん!どうしてここに?」
「なに。ワシも喜助同様、この計画に参加しておるからの。喜助の説明の補充役じゃ」
「計画?」
夜一は首をかしげた。
「なんじゃ、喜助。まだ話しておらんのか。」
「これからッスよ。じゃ、みなさん、奥へどうぞ」
浦原と夜一は、皆が着席したところで話し始めた。
「そもそもの始まりは、コレがアタシと夜一サンのもとに届いたことだったんス」
浦原はルキアにそれを渡す。
それは、浮竹からの手紙だった。働きずくめの朽木ルキアをどうにか休ませたい。協力してもらえないか――
浦原は続けた。
「それで、朽木サンを尸魂界から一時的に追い払う今回の計画をアタシたちの方で立てさせてもらったんス」
ルキアを適当な名目で現世に送る。現世に着いたら断界を封鎖し、尸魂界に戻れないようにする。というのが浦原の計画だった。
ルキアが言った。
「では、『断界で起きている緊急事態』というのは…」
夜一がニヤッと笑って言った。
「ワシじゃ」
「…」
「体も鈍っておったしの。丁度よい『とれーにんぐ』になったわ。ハハッ!」
浦原はさらに続ける。
「で、朽木サンを現世に招くと同時に、現世で心置きなく『休暇』を楽しんでもらうために、黒崎サンを巻き込んだもうひとつの計画を実行したんス。」
一護は唖然とした。
浦原は構わず続けた。
「しかし、お二人が揃って行動するのは良いとしても、虚や魂魄のことを考えては休みになりませんから、お二人には霊圧探知能力を一時的に封じる薬を飲んで頂きました。虚の姿が見えなかったのは、薬の効果がまだ残っていたからッスね。」
「薬って…」
二人は苦虫を噛み潰したような気分だった。
一護は言った。
「それで虚の処理とか魂葬とかどうしてたんだよ!?」
ルキアも続いた。
「そうだ!!一歩間違えれば取り返しのつかぬことに…」
「まあ落ち着けい」
夜一が言った。
「そのことはもちろん考えておった。じゃから、断界での『とれーにんぐ』を終えたあと、ワシが現世に来るまでの間をこやつらに頼んだのじゃ。」
作品名:十三番隊副隊長・朽木ルキアの休日 作家名:りさやん