艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:ケッコン
僕がなけなしの勇気を振り絞った時の話になる。
夜…フタヒトマルマル。
世間一般には、いい子は寝る時間だなどと言われる時刻。実際、第六駆逐隊の子達などはしっかり就寝している。いい子達である証拠だ。
そんな時間に、僕は時雨を執務室に呼び出した。いい子は寝る時間だが、僕も時雨も第六駆逐隊の面々に比べていい大人なので問題ないだろう。
「提督、時雨だよ。」
執務室のドアをノックする音の後、聞き慣れた声が聞こえた。鍵は開いているが、僕がドアを開くまで時雨は礼儀正しく待っている。
開けてやるために椅子から立ち上がろうとして、僕は少し躊躇った。
これから時雨に渡す物の事を考えると、心が期待と不安でいっぱいになる。自分から望んで指輪を用意し時雨を呼び出したくせに、いざ目前に迫ると…椅子を立つ事さえ一苦労だった。
本当に、現状から関係を変える必要があるのだろうか。
僕は提督として時雨に指示や助言をし、それ以上の頻度で他愛ない雑談をして笑う。時雨は僕と話して笑い、共に雨を眺めて微笑み、僕のからかいで照れる。
その関係は、僕に有り余る充足をくれた。その時間は、僕の人生に深く深く根を張った。今の僕の生き甲斐ですらあり、絶対に無くてはならない。
その大切な関係が、下手をすれば壊れてしまう。それほどのリスクを負ってまで彼女に指輪を渡そうというのは、何より僕との関係を楽しむ時雨に対して、身勝手な自己満足に過ぎないのではないか?
時雨は、僕を提督として…時に友達として、ただ仲良く楽しくいたいだけの相手、と見ているのかもしれない。指輪を渡したら、少なくともその関係はプラスかマイナスに変化する。もしもマイナスに変化し、時雨との関係が「単に指示を出す者と出される者」になったなら…僕は絶望し、時雨も寂しく思うに違いない。
そのリスクを負ってまで、本当に渡してしまうのか?
…時雨を待たせてはいけない。
もう決めた事だ。後に「軽率だった」とひどく後悔するとしても、今は迷ってはいけない。時雨に渡す、とにかくそれだけは決めたのだから。
深く息を吸い、続いて吐ききる。数秒後には迷いは消えた。
待て、震えていたら格好悪いぞ。大丈夫か?大丈夫だ。
声は?出してみようか。「ちょっと待ってね、時雨」。大丈夫、震えていないと思う。
問題ない。ちょっと時雨にプレゼントするだけだ。指輪を渡して、格好いい台詞のひとつも言って、大人らしい余裕の笑みを…。頑張ろう。
作品名:艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:ケッコン 作家名:エルオブノス