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エルオブノス
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艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:ケッコン

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 しばらくは僕の背中に手を回して、固さを失い安心しきった柔らかな体で抱きついたまま、グスグスと鼻をすすっていた時雨。
 僕は子供をあやすように、慎重に丁寧に撫で続けた。伝えたかったのだ。時雨に対する僕の想いは広がりすぎて、どうやったらこの想いを表し尽くせるのか分からない。こうやって、大切にするやり方を慎重に丁寧に探っていく事しか出来ない。こんなような事を、一生かけて続けたい。…そんな言い尽くせない気持ちを、時雨に少しでも伝えたかった。

「…提督の前だと、僕はなんだか無様だ。」

 泣き止んだ時雨は、それでも僕を離さずに、抱きついた体勢のままで呟いた。それから恐る恐るといった感じで僕を見上げて、不安げに…しかし僕の胸にいる安心を体の緊張の無さで示して。

「提督。…僕を見損なったりしてないかな?こんな弱い子だったのか、って…。」

「時雨、君が好きだ。」

「……え?」

 確かにタイミングはおかしかった。質問の答えになっていないし、話の流れとしてもおかしい。
 けれど、もう我慢できなかった。胸の中がその言葉でいっぱいになって、いっぱいなのにまだまだ溢れ続けて、抑えきれない。言葉が、言葉に乗せたい想いが。

「君が好きなんだ。何のからかいも無い。この言葉は、率直な意味で受け取ってほしい。」

「………。」

「…ただ、伝えたかっただけなんだ。胸がこの言葉で詰まって、苦しいほど…好きなんだ。時雨が。」

「………。」

 時雨は、何も言わなかった。何も言えなかったのかもしれないし、何も言いたくなかったのかもしれない。
 再び顔を僕の胸にうずめて、抱きしめる腕に込める力が強まった。僕は慎重に丁寧に彼女に愛を伝えたが、彼女は思うままに気持ちを僕にぶつけてくれた。

 僕もよほど力強い抱擁を返したかったが、僕の愛情は激しいものではない。ただ時雨にいつまでも安心してほしい、そんな想いだ。僕の胸で泣いて、僕の胸で安心してくれたら、僕は満足する。

「…時雨、すまない。僕はこれ以上の言葉を持っていないんだ。好きで、好きで、どうしようもなく愛していて、もう『好き』なんて言葉じゃ足りない…そう思ったって、『好き』以上に僕の想いを的確に表す言葉は無いんだよ。」

「謝らないで、提督。」

 時雨の笑顔は穏やかだった。僕の体が時雨を包む代わりに、僕の心は時雨の笑顔に包まれたような。
 娘を抱きしめる父親のような僕が、母親に抱きしめられる息子のようでもあった。そのくらい、その時の僕らは、愛し愛されるに相応しい対等さを持っていたに違いない。

「提督に好きって言って貰えれば、十分だよ。…ううん、違うな。好きが一番嬉しいんだ。何度も、何度でも、伝えてほしい。」

「…時雨。」

「今、提督の胸にくっついてて思うんだよ。人に抱きしめられると、立ってるより座ってるより寝てるよりも、一番安定する。支えてもらってる。僕の体を全部任せて、心の底から安心できるんだ。そんな風な状態で、一番嬉しい言葉が何度も何度も雨粒みたいに降ってきて…こんなに幸せなこと、ないもんね。」

 時雨はそう言って、幸せそうに僕に体を預ける。

 どうしようもない。僕は、時雨に負けてしまったような気持ちになった。もう僕の言葉では、時雨に対する想いを表しきれない。こんなに…こんなに愛しいことがあるか。好きとか愛しているとか可愛いとかどうとか、そんな言葉達では駄目だった。どんなに言葉を尽くしても、僕の今の感情には足りない。
 体が震えた。不思議そうに時雨が僕を見上げるが、理由を伝えるための言葉が存在しない。震えたら格好悪いと思ったのに…生まれて初めて、本当に感激に震えていた。こんな感情があったという事に、僕は泣きそうなほどの驚きや喜びや幸せを感じているのだ。

「…ああ…分かった。分かったよ、時雨。」

「ん?なんだい、提督。」

「困っていたんだ。時雨に僕の気持ちを伝えたいのに、やっぱり好きじゃ足りなくて…世界には言葉が溢れてるのに、伝えるための言葉が無くて。」

「うん。」

「時雨が、僕の『好き』を嬉しいって言ってくれるのは、僕も嬉しいよ。だけど…勝手かな。それは、僕が時雨に感じてる想いのひとつでしかなかったんだ。それとは別に、本当に伝えたい言葉があるはずだって、必死に探してたんだよ。」

「うん。」

 時雨は僕の胸に頬を寄せたまま、ただ相槌の言葉を返す。そのたびに音が振動となって胸に響く心地よさを感じながら、僕は言葉を紡いでいった。

「時雨…分かったんだ。見つけたんだよ。僕が、君に一番伝えたかった言葉。」

「…うん。」



「僕と出会ってくれて、ありがとう。君に出会わなかったら、全ては無かったんだ。君の姿も、声も、涙も…君の全てが僕の全てだ。だから。」



 鼻をすする音がした。


「だから…好きだよ、時雨。」


 さっきまでの僕は、浅はかだった。気持ちを伝え尽くせないなんて。
 今、僕は全てを伝えた確信がある。本当はもっと相応しい言葉があるのかもしれない。詩人なら、いくらでも言葉を見つけるのかもしれない。けれど、僕は僕の言葉だけで伝えられる全てを伝えたのだ。愛と、感謝を。

「提督…ずるいよ。」

 時雨の声は震えていた。しっかり者のわりに、泣き虫だ。それが僕の前でだけ見せる姿である事が幸せでもある。

「…今度は、僕が『嬉しい』だけじゃ伝えきれないじゃないか。」