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エルオブノス
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艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:ケッコン

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 しばらく後、僕らの長い抱擁が終わった。幸福な時間だったが、永遠には続かない。
 代わりに、僕は僕の本来の目的を目指す。

「時雨。言葉は尽くしたけど、ここに込めた想いも、さっきの言葉に負けないくらい大きいんだ。」

「え?提督、これ…。」

 戸惑う時雨の前で、小さな箱を開いて見せた。
 泣き虫の時雨が再来する。両手を口にあてて言葉を失い、やっぱりどうしていいか分からなくなって、ぽろぽろ涙を零している。

「時雨への気持ちは、どうしたって僕の中に納まりきらなかったから…言葉に込めたり、物に込めたり、だ。」

「…ずるいって…提督。」

 左手の薬指にはめてあげる間も、その後も、時雨は文句ばかりだった。

「さっき、一番嬉しいって思ったのに…今はもっと嬉しい。…ずるい。」

「ずるいかな?」

「だって…こんなに、提督に…こんなに嬉しいことをたくさんもらって…僕、何も返せないじゃないか。ずるいよ。」

「返す必要なんて…。」

「そうじゃなくて、何か提督が喜ぶ事でびっくりさせ返したいんだ。」

 …ああ、なるほど。やられっぱなしだから、何かやり返したいわけだ。
 時雨に対して、いい大人という認識を改めようか。まるで少女のような、例えば暁みたいな負けん気だ。

 ふと、時雨は何か思い付いた顔をした。穏やかでない笑み。これもまた、いたずらを考えた時の子供のような。

「提督、ちょっと椅子に座ってごらん。」

「なぜ?」

「いいから。ほら。」

 何か企んでいるようだが、意に添わない事をしても仕方がない。おとなしく従おう。

 僕の椅子は、座っての仕事が多い事を考慮して、座り心地だけを重視している。移動などの利便性やコストに関しては全く度外視したものだ。浅く座ってデスクに向かっても、しっかり体幹が安定する高さと角度。深く座れば、仮眠できるような柔軟性。素晴らしい椅子だ。

 さて。時雨はまるで僕を椅子に追い込むように、両手で促した。促されるまま、その椅子に深く腰掛ける。
 しかし、僕を追い詰めたはずの時雨は、更に僕の方へ身を乗り出してきた。そのままでは僕が潰れるよ、と笑って冗談でも飛ばそうかと思った直後。背もたれまで追い詰められて、それ以上は下がれなくなった僕の顔を…唇を、乗り出してきた時雨の唇が捉えた。冷たいような暖かいような、ただ間違いのない柔らかさだけは確かに感じて。

 …一瞬か、数秒か。

 その時間感覚の混乱で、僕は思い出した。
 昨日、時雨を「時雨ちゃん」と呼んでからかった事。照れた時雨を見て調子に乗って、額同士を触れさせて、息のかかるような距離で見つめ合って…すると、時雨が無意識のように背伸びをして、僕と唇を重ねて…という事があった。

 そうだ。確かに僕はあの時驚いたし、そう時雨にも伝えた。
 時雨はそれを覚えていたのだ。

「…立ったままだと、不意打ちにならないからね。背伸びしなきゃ届かない。」

「………。」

「…ね。」

 唇が離れても、互いに触れそうな距離で見つめ合った。
 さっきまでの抱擁のような、純粋で澄んだ愛し合い方とは全く違う。情欲的で、暖かさどころではない熱を生む。

 赤くなった僕を見て、恐らく僕より赤い顔の時雨は、しかし満足げに笑う。勝ってないですよ、時雨さん。



 そのまま体勢は、触れ合いつつも互いが安定する位置に移動して落ち着いた。椅子に深く腰掛けた僕の膝に、時雨が子供のように座る。大人なのか子供なのか分からない子だ。

 少し首を巡らして、時雨は僕を見て口を開いた。

「ひとつだけ…聞きたいんだ。今更、こんな事を聞いてもいいのか分からないけど。」

 その言葉は、不安を含むように見えて…と思うが早いか、僕の腕は時雨を抱きしめていた。もはや「時雨の不安」という状況に対する条件反射だ。人前で時雨が不安そうな顔をしたら、どうするのだろう。自分の行動を想像するとちょっと怖い。

 時雨のお腹辺りに回した僕の手を、時雨が「僕は大丈夫」と言うように撫でる。

「提督…どうして、僕なのかな?」

「何がだい?」

「夕立は、可愛いよね。」

「そう…だね。」

 何かの罠かとも思ったが、時雨が夕立をダシにする事は無いだろう。率直に肯定した。

「僕よりも?」

「え?っと…。」

「ああ、ごめん。困らせたいわけじゃないんだ。ただ…どうして僕を選んでくれたのかな、って。」

 時雨の不安そうな表情に、僕は時雨を抱きしめたままでいるのをやめられずにいた。時雨も相変わらず、手慰みのように僕の手を撫でている。

「提督は、誰でも選べたんだ。だって、みんな提督が好きだもの。僕じゃなくたって…僕が最初に、提督に…したから、とかさ?夕立や、他の子が先だったら…どうだったのかな。」

「………。」

「ああ、いや、ごめん。困らせてるよね。何を言ってるんだろう、僕は…。」

 …考えたことがなかった。
 僕は当たり前のように時雨が好きで、受け入れてもらえた事を喜んで…女子のように「運命の人」なんて言葉を信じていたのだろうか。時雨しかいないと思っていた。
 時雨と仲のいい夕立や、他の子達。彼女達全員に魅力的な部分があるはずだ。そこに気付かなかったわけでもなく、しかし「時雨がいるから」というのを理由にしていたのかもしれない。彼女達よりも時雨に魅了されていた自分は、なぜ生じたのだろうか。

「これは、僕の課題だ。」

「課題?」

 時雨に頷いて、僕はごく真剣に、問いの答えを保留した。

「時雨が好きだ。だけど、その根源はどこにあるのか僕にも分からない。」

「やっぱり、困らせちゃったな。どうして僕は…。」

 また自分を責めて暗く俯く。しかし、僕が答えをすぐに出せないのも大きな原因だ。あまり自分ばかり責めないでほしい。

「時雨。」

「ん?」

 振り向いた時雨の唇を、初めて僕の方から奪う。三度目にして初めて男の方から、とはいかにも男らしさの足りない僕らしい。
 せめてもの男としての矜持で、三度目は時間感覚の混乱もなく、確かに数秒。最初の一瞬は時雨に緊張があったが、抱擁の時と同じく、すぐに僕に全て委ねてくれた。



「…提督、そういうのがずるいって…。」

 離れた後、照れ隠しのように文句をつける時雨に僕は言う。

「僕は、さっきの問題の答えを出したい。」

 真剣な言葉と察して、時雨は「うん」と素直に応じた。僕を困らせたくないとしても、僕の強い意思を無碍にはできないのだろう。もう時雨も「いや、いいよ」とは言わない。

「明日までの課題かな。課題というより、責任といってもいい。」

「…困らせたくはないけど、真剣に考えてもらえるのは嬉しいよ。考えすぎて朝の会議に遅れないようにね。」

 時雨は椅子から、というより僕から立ち上がった。続いて僕も立ち上がる。
 数秒見つめ合って、それから時雨が「おやすみなさい」と笑った。僕も「おやすみ」と返した。…共に朝を迎えようとか、そんな提案が出来るほどの男らしさは無い。