艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:ケッコン
翌朝。
「提督さん!時雨ちゃんがおしゃれっぽい!」
何の事かと思ったら、素敵な指輪をしているのだという。「羨ましいかい」とは聞けなかった。頷かれてもどうしようもない。
ともあれ、夕立のように無邪気な子達は、指輪の深い意味を考えないだろう。
指輪の深い意味が分かる子達がどんな気持ちになるかは、少し不安だった。僕から彼女達への信頼はもちろんあるが、彼女達から僕への信頼が裏目に出て、時雨に嫉妬したりしないだろうか。
結論から言うと…悪い予感は当たらなかったが、不安自体は正しかった事になる。指輪について深い意味が分かる子達は、ニヤニヤしながら詳細報告を求めてくるのだ。「機密情報を無用に詮索してはいけません」と何度あしらったか。
僕はその日ずっと悩んでいた。課題のことだ。
会議や作戦などで時雨と顔を合わせても、普段通りでいられた。…例の子達も冷やかしたりせず、ニヤニヤしてこちらを見るだけだったのはありがたい。出来ればニヤニヤが無ければもっと良い。
課題の答えは、今夜までには時雨に伝えたい。
なぜ時雨を選んだか。なぜ時雨でなければならないのか。
時雨にしか無い、他の子には無い魅力。それでいて、時雨には無い、他の子にしか無い魅力を上回るもの。
可愛い?それはそうだが、他の子に無いとは言えない。
性格?落ち着いていて、それでいて時に見せる子供っぽさ、というのは魅力的だが、僕の好みの問題だ。他の子の性格だってそれぞれ個性的で良い。
僕の好みの問題。そう言ってしまえば終わりだが…いや、それが全てなのかもしれない…本当に、それでいいのだろうか?その事を時雨に伝えて、それが答えだと言って…それでいいのだろうか…。
午後の演習の間にもそれを考えていたら、那智に叱られた。
「貴様、浮かれるのはいいが任務は真面目にやれ。」
「え?いや、ちゃんと監督してるよ。」
「心此処に在らず、といった風だ。公私の区別はして欲しいものだな。」
すっかり見抜かれているようだ。那智だから説教も二言三言で済んでいるが、これが妙高だったらと思うとゾッとする。
確かに、自分の悩みに時間を割きすぎていた。ちゃんとしなければ。
「那智、どうしました?」
噂をすると、那智が演習を中断した事に疑問を持ったか、妙高が現れた。なんとも怖い。
すると、僕の思考を察知したように、那智が言う。
「なに、提督に新兵装の感想を訊いていただけだ。足柄が退屈するからもう戻るぞ。」
「そうでしたか。提督、私達にも後で総評をお聞かせくださいね。」
こうして見ると、彼女達だって十分な魅力を持っている。那智は厳しいが、たまにこうして見せてくれる気遣いで、厳しいだけの人ではないと分かる。妙高の説教の長さも、僕や周りを思っての事と思えば嬉しくさえある。
彼女達の誰だって、艦としてだけでなく女性として、素晴らしく魅力的だと僕は思うのだが。その一方で、それでも時雨しかいないと感じる僕もいて…。
「提督?何か気掛かりでも?」
「…阿呆か。もう私は擁護出来んぞ。」
うっかりまた考え込んでしまった。まさか「那智と妙高は素敵な女性だなと考えていました」なんて正直に言うわけにもいかない。演習中に何を考えているのか、と妙高の説教が始まってしまう。
「大丈夫、ちょっと考え事をしてただけだよ。ほら、足柄が呼んでる。」
「そうですか。では、失礼しますが…体調不良なら言ってくださいね?」
妙高は僕を気遣いながら演習に戻っていった。その無垢な優しさは、心が痛むから勘弁してほしい。那智の視線も痛い。
暇そうに新兵装の試し撃ちをしている足柄と、それを見てハラハラしている羽黒が見えた。そこに戻っていく妙高と那智。
…よし。真面目にやろう。総評が適当になってはまずい。那智に呆れられるし、妙高に説教をされるし、足柄に文句を言われるし、羽黒が泣くし。
作品名:艦これ知らない人がwikiの情報だけで時雨書くと:ケッコン 作家名:エルオブノス