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筒井リョージ
筒井リョージ
novelistID. 5504
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鳥籠

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中に入ると、我愛羅が踏み台に使った椅子や箱などから上手く降りられなさそうにしていたので、その小さな体を抱えあげるようにして降ろしてやった。我愛羅はちいさく「ありがとう」と言い、照れた様子だった。
「私はテマリ。あんたの姉さんだよ」
するとビックリした瞳が私を見上げた。
「…………姉さん………僕に姉さんが?」
「そう。私のほかにもう一人弟が、……あんたの兄さんだね」
「………………兄さん………………」
まるで信じられないというふうに私を見つめ返した。
「ねえ、あんたここに独りでいるの?」
周りを見渡すと、ずいぶん広い部屋だった。簡単に片付いているところを見ると、誰かが面倒を見ているようだ。
「うん、……気がついたらずっとここに居るよ」
だろうね。と聞こえないようにつぶやく。
きっと、生まれてからずっとここに閉じ込められているのだろう。この広い部屋のまん前には、一枚で出来た大きな窓が目に付く。きっと強化ガラスの類だろう。鍵や継ぎ目など一つもなく、窓から見える景色から察するとかなり高いことが伺える。こざっぱりしていて穴という穴が見当たらない。空気が澄んでいることから、どこかに通気口があるようだが目に付かないところに設置されているらしい。
唯一の出入り口の扉も、外側に限られた人しか通れないような結界がはってあった。どうやら中に居る我愛羅も従順そうだし、ここに来る人間もほとんど居ないのだろう。
つまりここは完全なる檻なのだ。
「ねえ、本当にあんた父さんから何も聞いてないの?あたしたちのこと……」
しょぼんとして我愛羅は「うん」とだけ答えた。
「わたしたちはさ、三人とも年子だからあんたとは二つしか違わないんだ」
「としご?」
「うん。一歳しか年の違わない兄弟のこと」
ふうん、と面白いことを聞いたという風に我愛羅がうなずく。まだ何も知らない小さな子供だ。なぜ父はこの子をこんな所へ閉じ込めているのだろう。
「それにしてもさ……」言いながら、部屋にころがったぬいぐるみを拾い上げる。
「あんたなんでそんな面白いことしてんの?目の周り真っ黒に塗って、ほんとパンダさんみたい」
「べつにこれは遊んでるわけじゃ…」
我愛羅の小さな手が片目を覆う。そのしぐさは何だか妙に子供らしくない。
「たぶん…………眠らないからだと思う……」
「眠れないの?何日?」
「…………ずっと…………」
耳を疑った。まさか冗談だろう。
「何言ってんだよ。そんなこと出来るわけ無いだろ?」
「…………………………」
まるで影が落ちたように沈んでしまった我愛羅のようすは、嘘を言っているようには見えない。
「………………いつから?…………」
「…………もうずっと…………」
「…………そんなの、死んじゃうよ……」
我愛羅は答えなかった。ただじっと下を見つめている。
「でも、ほんとにまったく寝ないなんて……」
「…………怖い……怖い夢を見るんだ。眠ると必ず見る。どんなのだか憶えてないんだけど、凄く怖くて、目が覚める前に、ものすごい音と悲鳴が聞こえるんだ。それで、目が覚めると凄い気持ち悪くて…………だから、眠るのは……嫌い…………」
私は言葉を失ってしまった。そんなに怖い夢を毎日見て、それが嫌だから眠るのを止めたというのだろうか。
「それでも、どうしても我慢できないほど眠たくなるときがあるよ。そういう時が一番怖い」
「ね、今日はまだ誰か来るかな?」
突然話の方向を変えられて我愛羅は戸惑っている。
「……た、たぶんもうこないと思う、けど」
それを聞いてテマリはいたずらっ子の表情を覗かせる。
「よかった!実は私のトコも今日は誰も来ないんだ」
にっこりと笑うと我愛羅のそばによった。
「ひとりぼっちで寂しいとそんな夢を見るんだよ。今日はあたしが一緒にいてあげるよ。ね!そうしよう!」
「え?で、でもほんとにだいじょうぶかなぁ……」
「いつも何時ぐらいに人が来るの?」
「いつもは、お昼くらいだけど……」
「じゃあ大丈夫だよ。あたしも学校あるから、九時ごろには行ってなきゃだし」
心配そうに見つめる我愛羅と目を合わせ、うふふと企みがばれないと過信した笑みを見せた。

この部屋はとても便利だった。たいていのものは揃っているし、何日か放って置かれても支障がないほどの食料もあった。なるほど、ここは飼いならされた鳥籠か。
我愛羅とはいっしょにお風呂に入って遊んで、適当にご飯を食べて、眠りにつけるまでベッドで取り留めのない話をした。今日あったばかりの弟だが、とても可愛く思えてきていた。
カンクロウとも一緒に寝たことあったなぁ。と小さなころを思い出す。
「眠れそうかい?」
「うーん、まだわかんない」
「ゆっくりでいいよ」
うん。と小さく頷いて柔らかい枕にほほを埋めた。ここからは見えないけれど、月が出てるのだろう。白い光が二人を覆う布団の上を静かに照らしている。
「なんか、ドキドキする」
布団の端を弄びながら我愛羅が言った。
「誰かと一緒に居るなんてホントに初めてだし…言いつけを破るみたいでドキドキする……」
ふふ、と恥らいながら笑った。月明かりのせいで、より一層白く見える我愛羅の顔は、何だか悲しいほどに儚げだった。
「………夢……見ないといいなぁ……」
つぶやきは、月光に吸い込まれたのかか細くテマリの鼓膜を打つ。
「昔さ、ホントにうろ覚えなんだけど、母さんが一緒に寝てくれた事あったんだ。私さ、結構怖がりでさ、影が怖いとか言ってさ。でも、そうやって泣いても、母さんがそばに居てこうやって手をぎゅっと握ってくれるだけで、私は眠れたんだ」
そう言いながら、我愛羅の小さな手を握る。そこから伝わる体温が心地よい。
「きっとさ、安心するんだよ。だから今日は私が手を繋いでてあげる。そしたら怖くないだろう?」
きっと大丈夫。そう言ったテマリに安心したのか、我愛羅はため息をついた。
鼓動の音と体温が近くて、しだいにまどろみを誘う。お互い、どちらが先に眠りについたのか分からない程に。



「どーして駄目なの!」
眉間に刻まれるしわがいっそう深くなる。テマリの不機嫌さは、最高潮に達していた。
アカデミーから帰るといつもと勝手が違っていた。いつもは身の回りの事を世話する者が部屋の片付けなどをしてくれて、ちょうど入れ違いに帰る頃だ。今頃は好きな書物を読みながら、筆記試験に備えているはずだった。
だがそんな落ち着ける時間も、今の現状ではありえるはずも無い。
扉の向こうには父が居たのだから。

「何度も言わせるな。アレに近づくんじゃない」
「だからどうして駄目なのか、理由を教えてください!私には父様の言うことが分かりません!」
思い切り反発してしまった。いつもはこんな事恐れ多くて言ったことも無いのに……。
自分の手足が震えているのがわかる。もう怯えているのか、憤りなのか分からない。
そんなテマリを見て、彼は少し困惑したような表情を見せたがそれも一瞬で、すぐに険しさを取り戻した。
「私はお前たちの為を思って言っているんだぞ。理由なんか分からなくていい。二度とアレに近づくんじゃない。わかったな」
その一方的な父親の言葉にテマリはどうしようもなく悲しくなった。
作品名:鳥籠 作家名:筒井リョージ