鳥籠
「そうやってあの子を誰にも近づけさせずに、あのまま閉じ込めておくつもりなんですか?」
言い捨て立ち去ろうとしていた背中にテマリの言葉が刺さる。その言葉に眉をしかめて父が振り返った。
「そう、出来ることならその方がいい。私は間違っていたのだ……」
扉が開かれる。言葉の意味を理解できずにいたテマリは慌てて声をかけた。
「あ……あの子はいい子です!」
「そうか。だがいつかこの里もお前も喰らうだろう……」
冷たい音を立てて扉は閉められた。
彼は振り返らなかった……。その姿を見てテマリは、ただ呆然とそこに立ち尽くしていた。
それから何度か事情を話そうとそばまで行くのだが、父の目が厳しく、話すことはおろか顔を見ることすら出来なかった。
まるでその鬱憤を晴らすかのように、父が隠そうとするあの子の事を調べた。父の書斎に忍び込んで小さな走り書きにさえ目を通した事もある。
私は子供だったのだ。
私が必死になって調べ上げるその上で、大人たちが密やかに、そして真実を噂していたのだから。私の耳の聞き及ばぬその向こうでは、赤の他人があの子のことを、父を母を私たちを語っている。そのことに気づかなかった私は愚かだ。
今思えば、父が私から隠したがったのは、私に真実を追究され言い咎められるのを微かながらも恐れた為かもしれない。母に似た私に言われるのは一番堪えただろうから……。
そうこうする内に我愛羅のアカデミー入りが決まった。どうやら数ヶ月前からあの部屋を出してもらえるようだったが、やはり目付けのついたもので、私は近づくことを許されてはいなかった。
それでも、あそこに閉じ込められたままよりはいくらかましだろう。私は本当にそう信じていた。
その後、叔父の死が伝えられるまで。
「アイツは化け物だ」
葬儀の中、身知らぬ人が洩らした言葉が離れない。
現在、私たち三兄弟は下忍となり同じチームを組んでいる。
私たちのギクシャクした関係は何一つ変わっていないが、一つだけ言える事は
―あの子は二度とあの時のように笑わない―
という事だ。