艦これ知らない人がwikiの情報だけで金剛書くと:改二
少し歩いた所に、小高い丘がある。海の見える丘。鎮守府に近いことから、一般の人からは「艦隊の見える丘」とも呼ばれて、たまに僕らの演習をそこから見学する人たちもいるようだ。
丘のてっぺんには東屋というか休憩所があって、簡素な木造の屋根と椅子、テーブルが備えられている。ここなら敷物がなくても紅茶が飲めるだろう。
「さあ、提督。金剛のお悩み相談の時間デース!」
すっかりティータイムの準備が完了すると、金剛は僕の横に並んで座り、楽しそうに言った。聞いて楽しい悩みではないのだが…というか、ほとんど金剛についての悩みのようなものだ。それを金剛に話すには、かなりオブラートに包む必要がある。
紅茶を注ぐ金剛を見ながら、僕は意を決してひとつ言葉を置いてみた。
「金剛。僕の悪い部分ってどんなのがあるかな?」
きょとんとした顔が返ってくる。
「悪い部分?ですカー?」
「うん…どんな些細な事でもいい。金剛に対してって事じゃないんだ。僕の弱さ、間違い、改善点。そういうものかな。」
難しい質問だと思う。答え自体ではなく、答えるのが。仮にも提督に対して、そう簡単に「ここが悪い」とは…。
「すぐ落ち込むところデース。」
あ、はい。簡単に言いますね。
「提督は自分の事を考えすぎヨー。自分はこれでいいのか悪いのか、皆にどう接するか、とかネ。提督としてはホントはたくさん考えて決めた方がいいのデショー、けど、提督はそれ向いてないデース。優柔不断だからネー。」
「…はっきり言うなあ。」
「合ってるデショ?」
返す言葉もない。まるっきり、その通りだ。
さっきの僕にだってそのまま当てはまる。余計な事を考えすぎて、金剛を心配させた。何も得ることもなく、ただ「考えただけ」。何も考えない方が良かったくらいだ。何も考えず、黙って金剛のティータイムに付き合えば良かったのに…。
「提督ぅー。」
金剛の細い指が、僕の頬をビシッと突いた。爪は綺麗に切り揃えられているので痛くはない。
「言ってるそばから、また考えすぎネー!」
「…ごめん。」
「提督は考えすぎて、暗くなるヨー。だから落ち込んで、周りの子たちも気を使うネ。私みたいに、思ったように行動してれば誰も気を使わないデース!」
自分が奔放だという自覚があったのか。わざとそういう風に振る舞っている、とでも言いたげな発言に思わず笑う。金剛の場合、自分の生きたいように生きてきたらそうなった、というだけじゃないのか。
「そもそも、自分の悪いところなんて気にするから落ち込むのヨー?どうしてそんなの気になるですカー?」
金剛はそう言って、本当に不思議そうな顔をする。
「うん…どうしてだろうね。やっぱり、考えすぎるからかな。」
そう誤魔化した。
奔放な金剛には分からないのだろう。人は、相手から見た自分の悪いところを直したいものだ。相手に好かれたいから。嫌われたくないから。
僕は提督として、金剛に好かれる必要はない。けれど僕は僕として、金剛に嫌われたくない。だから、金剛から見た僕の悪いところが気になるのだ。
金剛は、落ち込む僕が嫌だと言った。だから、落ち込まないよう気を付けよう。
それで何が変わるわけでもない。ただ…嫌われなければ、これからも金剛は僕をティータイムに誘ってくれる。それだけでいい。そのささやかな楽しみのために、僕は頑張ろうと思う。
「…提督。」
ティーカップを持った金剛が、口も付けずにカップを置いて、僕を見た。
真剣な眼差しに怯む。騒いでいない金剛は、真面目な顔の金剛は…それだけで英国淑女としての風情を十分に持ち、ティータイムを楽しむ女性を題した一枚の絵画になってしまいそうな可憐さを有して見えた。
「私も、お悩み相談してもいいですカー?」
先ほどとは別の意味で怯む。金剛からそんな風に言われるとは思わなかった。だいたい、悩みがあったのか。
しかし、僕も金剛に聞いてもらったのだ。快く聞くのが当然だろう。
「いいよ。どんな悩みだい?」
今度は僕が笑みをもって、真剣な眼差しの金剛の悩みを聞く事にした。二人で深刻な顔をしていては、事実以上に深刻な事のように思ってしまいかねない。話す方は真剣に、聞く方は少しの余裕を持って。
作品名:艦これ知らない人がwikiの情報だけで金剛書くと:改二 作家名:エルオブノス