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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 2

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もう来れないと思っていたあたしの居場所。
「仕事はたくさんありますよー。お茶くみとか、お茶くみとか、お茶くみとか。資料の整理もありますし、機材の接続の仕方とかはリンさんに習ってくださいね」
「それは必要ない」
そう言ったのはナル。
「麻衣は師匠に貰った本に書いてあるものを、実践で使えるまで練習するだけでいい」
《気晴らしで悪いけど、お茶くみと機材の接続は習いたいです、所長》
ナルはじっと考え込んでいたけど、ふいに笑みを浮かべた。
「お茶くみを続けてくれるのはありがたい。機材に関して、どこまでやってみたい?」
いきなりのことでちょっと慌てたけど、あたしはできる事をしたい。
《機材の接続と設定の仕方》
ナルはリンさんの方を向いて問いかける。
「麻衣にそれだけのことができると思うか?」
「可能だと思います。接続はコードを見分けられればできますし、ベースに残る機会が増えるでしょうから、設定はおいおい覚えていけばいいのではないでしょうか。それに彼女には霊能力者としての仕事もあります。十分仕事はできると思いますが」
そうか……とナルはつぶやくと、所長室に行って何かの用紙を持ってきた。
「麻衣、高校卒業はしたが、その後の進路を決めていなかっただろう」
《うん……》
ペラリとテーブルの上に出されたのは、金のエンブレムに英字で何かが書かれた証書のようなものと、IDカードと思われるものが一枚。
《これって?》
「イギリスSPRの正式な登録証書」
《……え?》
呆然とするあたしをおいて、ぼーさんたちはそろって証書を覗き込んできた。
「これが?!本当の?!」
「ぼーさん、麻衣の体に負担をかけるな」
「あっ、すまん」
こういう時にちゃんと言ってくれるのがうれしいんだよね。
現にぼーさんの体重がかかってきて、ちょっと辛かったんだ。
《これってあたしのなの?》
「お前以外該当する調査員はいないだろう?」
《だってあたし論文なんて出してないよ?》
「麻衣は調査員。それとイギリスに帰った時、僕の被験者になってくれれば問題ない」
それじゃあ……
「麻衣の就職先はここ。SPR日本支部だ。家の方も問題ない。一年前に言ったとおり、すでにバリアフリーにリフォームしてある。トイレにも風呂場にも手すりをつけて一人でも何とか生活できるようにした。ゲストルームには電動式のベッドを入れた。キッチンも車椅子で動き回れて、危険なことが起きないように調節した」
ナルはにやりと笑って
「返事は?」
そんなのこう言うしかないじゃないか。
《よろしくお願いします》

その後は主に綾子とジョンが作った料理がテーブルに並び、みんなでワイワイ。
綾子はちゃんとあたしたちの精進潔斎を知っていてくれたらしく、野菜料理がテーブルの2/3を占めた。
「どう?おいしい?」
《うん。ありがとう、綾子》
あたしは綾子が淹れてくれたアイスティーのグラスに口をつける。
アッサムだ……美味しい。
いつもならこの辺で出てくるお酒も、精進潔斎しているあたしたちがいるってことで、ぼーさんも綾子も持ち込まなかったようだ。
食べ物も綺麗になくなって、夜も遅くなってきた。
あたしはみんなを見送るってことで、レンタカーを返すついでに車に乗った。
帰りの運転手はぼーさん。
あたしの右には綾子。
左にジョン。
で助手席にナルが座ってる。
「なぁ、麻衣」
《ん?なに?》
「本当にこの仕事続けていいのか?」
ぼーさんが心配してくれてることはよくわかる。
だからあたしは、バックミラー越しのぼーさんに笑いかけた。
《仕事をしてれば怪我したりするよ?現にあたしはこんなになったんだし、怖いとも思う。でも、助けてほしいと思ってる人がいるなら、自分のできる事をしたいと思うのはおかしい事かな?》
ふわり。綾子が抱きしめてくれる。
「バカなんだから……あんたは。まず自分のことを考えなさい。あんたが幸せじゃなくちゃ、周りの人間を幸せにすることなんてできないじゃない」
反対側から温かい手が頭を撫でてくれる。ジョンだ。
「自分のできる事をしようとすることは大切なことです。けど、それは自己犠牲であってはあきまへん。自分も幸せになって道標になる、ゆうのが、本当の救済ではないかとボクは思おとります」
「そーだなー。二人の言うとおり、一番幸せな人間が幸せを分けるってのが、セオリーだよな。自己犠牲なんて受けたほうが後味悪くてたまらねえし。で、麻衣はどうだ?」
《幸せだよ。家族みたいなみんなに逢えたし、いろんなことがあってたくさんの人にも会った。あたしにとっての幸せは誰かに出逢うことなの。だからこれからもこの仕事していきたい》
「そっか。そんじゃあおとーさんもがんばんなきゃなー」
「何を頑張るんだ、ぼーさん」
「そりゃあ……機材運びです」
ナルに睨まれてぼーさんノックアウト。
思わず吹き出したあたしにつられて、綾子もジョンも笑い出した。
賑やかだけど大人な感じ。
そのままみんなの家に本人を配達して回り、東京駅に戻ってきた私たち。
乗用車はぼーさんのだから、ぼーさんはレンタカーを返すために、前にいた車と一緒にレンタカー屋さんへと入っていった。
安原さんが乗用車から出てくる。
真砂子は途中下車。
リンさんは助手席から出てきた。
その後は手続きをしてリンさんが呼んだタクシーにみんなで乗り込んで安原さんを送りつつ、新しい家になるナルの家へと向かった。


ふんわり柔らかいベッド。
ダウンの上掛けはちょうどいい位の温度。
目を覚ますとそこは、見慣れた日本家屋の天井じゃなく、白いナルの家の天井だった。
手が届く範囲内にあるリモコンを操作して、ベッドを起こす。
モーター音で気が付いたのか、ドアのノック音。
返事をすると、ナルがわざわざリビングから、修行時代と同じく、あたしの具合を見に来てくれた。
「大丈夫か?」
そっと髪の毛を掻き上げて、心配そうにあたしの顔をのぞき込むナル。
この一年ずっと同じことを繰り返してきた。
リンさんは、あたしがあんなことになったのが不安なんだろうという。
ジーンを亡くしたナルだ。もう、誰かを亡くすのは嫌だと、無意識にこんな行動をとっているんだろう。
こんな時のナルは、めったにない少し切ない表情をしている。
《大丈夫だよ、大丈夫。あたしはここに居る。いなくなったりしないから》
そこまで言ってやっと安心したような顔をする。
《さーて、顔を洗って着替えなくちゃ。朝ご飯は?》
「リンがチャーハンを作ってる。もちろん精進潔斎は守ってる」
《わかった。着替えるから部屋から出ててね》
半ば強引に部屋から追い出して、あたし用に作ってくれたという洗面所に向かう。
顔を洗ってすっきりすると、今度は服を着替える番。
あたしはいまだに京都の気が抜けなくて、ベッドの上に広げた襦袢に袖を通し、次に白い着物を身にまとう。
体を起こして、PKで自分の体を浮かべて着物の帯を締める。
そして黒地に金銀の糸で刺繍された小袖を羽織って、袖にいれた札を確認する。
そして朝ごはん。
いつもなら朝ご飯はあたしが作るのに、今日はリンさんが作ってくれるって。
なんだか楽しみ。

からからと自分の部屋からリビングへと向かう。