二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 2

INDEX|5ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

ちょうど資料室から出てきたリンさんも、もうすでに内線で内容を知っているらしく、はぁ……とため息をついてあたしのデスクに来た。
「一月後にSPRのレセプションがロンドンで行われます。貴女には新メンバーとして、そして陰陽師として出席してほしいそうです。顔を出して、式神を披露すれば満足するだろうとのことですが……」
《いいですよ。出席します》
こんなこともあろうかと、東京に帰ってきてからすぐにパスポートを申請しておいた。
もちろん使うつもりがあったわけじゃないけど。
あたしがこともなげに頷くから、その場の全員が驚いた風な顔をする。
安原さんがもう一度問いかけた。
「本当にいいんですか?谷山さんの体に負担がかかりますよ?」
《一年前なら断ってました。でも、今は――》
あたしは笑う。
そう、今は。
《お師様に認められた陰陽師の誇りにかけて、出席いたします。お相手にはそうお伝えください》
一番近くにいたリンさんは一瞬瞠目すると、優しい笑顔で、
「分かりました。ではそのように伝えましょう。そのころにはあつらえた着物も届いているでしょうし、修行で会得したその気高い神気も、自在に操れましょう」
リンさんはそういうとナルの方を向いて、ちょっとお小言口調。
「ナル、谷山さんを見習いなさい。先ほどの怒鳴り声はなんですか。貴方はあそこで何を覚えてきたんですか?」
ナルは渋い顔をして所長室へ戻ろうとする。そこにリンさんの声。
「谷山さん、お子様は放っておいて3人でお茶の時間にしましょう」
安原さんもそれに乗って、
「この前ココアクッキーをいただいたんですよ。リンさん、クッキーは引っかかりませんよね?」
「はい。卵とミルクはいいことになっていますので」
がさがさと戸棚を探る安原さん。
リンさんはくるりとあたしの車椅子を方向転換して、給湯室へと向かう。
《ホントに良かったんですか?あれだけナルを刺激して》
テレパシーの音量を調節してこそこそ話す。
リンさんは笑って
「紅茶は4人分お願いします。ナルは天邪鬼ですからそのうち出てきます。あれだけ言われれば、ナルもレセプションに出ざるを得ませんし、谷山さんを守る、なかなかいいボディーガードになると思いますよ?」
《リンさんそのつもりで?》
リンさんはいたずらが成功したかのようにいつもより少し、柔らかい笑みを浮かべた。お茶を4人分淹れて、安原さんが持ってきてくれたクッキーをお茶うけに、給湯室をでると、ソファーにはナルの姿。
思わず笑いそうになる。
リンさんの言うとおりだ。
ナルって相当な天邪鬼。
「ね?居たでしょう?」
リンさんはお盆を持ちながらあたしの横を歩く。
車椅子を押してくれるのは安原さんだ。
《確かに見事な天邪鬼ですね。あ、そういえば》
「どうしましたか?」
《今日の分のノルマこなしてない。とりあえず精神統一だけは今、したいなー》
「ソファーの上ですればいい」
《それじゃあ意味ないじゃん。とりあえずお茶飲んだらあそこで正座2時間しておこうかな……って、え?え??みんな、何で怒ってるの?》
そしたら全員そろって「無茶(するな!)(しないでください!)」って。
《大丈夫だってば。向こうではお湯頂いた後に、広間で正座3時間くらいしてたんだから》
「お前と言う奴は……」
「せっかくお風呂に入って温まっていたはずなのに、肩を冷やして帰ってきたのはそのせいだったんですね」
はぁ……みんなのため息がかさなる。
《え?だってお師様の特別授業で、滝の下にある石に座って滝行したり、水垢離もしたよ?》
『はぁ?!』
みんなの声がかさなる。
「それは……もしかして、本気で谷山さんを後継者にするつもりだったのでは……?」
「あり得るかもしれませんね~」
「1年という期日を決めておいてよかった……。いつのまにか女当主になっていたかもしれないからな……」
わぁお。あたしそんなに期待されてたのかー。
じゃあやっぱり期待に応えるべきだよね。
《これからお茶の時間の後に2時間、正座をさせてもらいます。いいですよね?》
あたしは強い口調で言う。
おや、3人の表情は複雑。
「依頼人が来た時にはどうするんだ?」
《車椅子でお出迎えなんて引くでしょう?あたしは気配を消して正座しながら見てる》
「綺麗な着物なのに汚れてしまいますよ?」
《いつもカバンの中にひざ掛けを持ってます。それを敷いてその上に座れば大丈夫です》
「僕にはよく分からないんですが、気配を消すというのは、入ってきた人間が気づかないほど、すごいものなんでしょうか」
《精神鍛錬の一つです。その場の空気と一体化し、己を無と化す。一般人には場所も存在さえも感知できません》
良いですね?と3人を見回し、あたしは車椅子用に除けてもらったソファーの位置に車椅子を付けてもらって、紅茶とクッキーを1、2枚つまみながらみんなで他愛もない話をする。
こんなことができるようになったのも京都から帰ってきてからだ。
いつものピリピリした空気もないし、ナルも落ち着いてる。
あたしはここの空気が大好きだった。
《さーて、約束通りに2時間ほど修練をさせていただきます。安原さん、車椅子の後ろからひざ掛けを出してもらえますか?》
安原さんは席を立って、車椅子のポケットからひまわり色のチェックのひざ掛けを出してくれる。
《ありがとうございます》
お礼を言って入り口側の角に行ってPKでひざ掛けをカーペットの上に敷いて車椅子から降りる。
みんなの心配そうな視線。
あたしはひざ掛けの上に正座をした。
本来なら脊椎を損傷してるから、背あて無しじゃバランスが取れないんだけど、京都に向かう2週間前から練習して、正座して体を支えることができるようになっていた。
そして、車椅子を折りたたんで壁に立てかける。
購入時に見た、色とりどりの車椅子。
その中であたしは生成りの車椅子を選んだ。
一緒にみんな来てくれて、あーだ、こーだって色々薦めてくれたけど、あたしはこの生成りの車椅子を選んだ。
これならオフィスの壁と同じだから目立たないと思った。
《安原さん、これから精神統一をします。統一できたとき、あたしがどこにいるのかわかりますか?》
「頑張ってみます」
そしてあたしは目を閉じ、音を遮断し、精神統一を始めた。


2時間が経った。
慣れてしまった私には、すでに時計など必要ではなく、ゆっくりと目を開ける。
目の前にはナル、リンさん、安原さんの姿。
「心配……した」
ナルがあたしの髪をそっと撫でた。
「気配を断ってからキッカリ2時間。私とナルには見えていたけれど、完全な無でした。しかし完璧すぎて人形のように見えた――」
リンさんはあたしの背をそっとさすってくれた。
ふわりと紅茶の香りがして、顔を上げると、安原さんが紅茶を淹れてくれていた。
「アイスレモンティーです。」
グラスをそっとあたしの手に握らせてくれる安原さん。
いつもの何か含んだ笑みじゃなく、ほんわかする笑顔。
「すごいですね。そこにいるはずなのに、目を離したら居場所が分からなくなっちゃいました。所長に同じことできますか?て聞いたら、不機嫌な顔で“できない”って言ってました」
ナルが?
《本当?》
ナルの顔を見ると複雑そうな顔で、