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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 2

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「僕にはあそこまで完璧にはできない。だからよけい、心配した。いなくなるんじゃないかと思った。やっぱりオフィスの中で精神統一はさせられない。家で僕とリンがいるところでやってくれ。心臓が持たない」
そんなに心配してくれてたんだ……。
あたしはそっとナルの後頭部に手を伸ばし、抱き寄せた。
「ま、麻衣?!」
珍しく戸惑ってるようなナル。
自分から抱きしめるのは大丈夫なのに、あたしが抱き寄せるとちょっと照れるらしい。
そんなナルが可愛くて、ちょっといたずらしたくなるのはあたしだけじゃないと思う。
あたしはナルの耳元で、テレパシーで〈好きだよ、ナル〉そう囁く。
「麻衣?」
かすれた空気がのどを通り、ひゅうひゅうと音をたてる。
それでもよかった。
ナルだけに伝えたかったからそれでよかった。
〈大好きだよ、ナル〉
そう伝えた後、あたしはナルを離して壁に立てかけてあった車椅子を開く。
《よ……っと……》
腕の力だけで車椅子に上ろうとする。
「谷山さん、僕達が支えますから……」
珍しくおろおろしながら安原さんが声をかけてくれる。
《それじゃ、ダメなの。何でも自分でできるようにならなくちゃ。一生車椅子なんだから、誰もいない時に車椅子から落ちたときの事、考えなくっちゃ》
それからあたしは15分ほどかけて自分の力だけで車椅子に座ることができた。
「谷山さん」
《なに?リンさん》
リンさんは車椅子からそっとあたしを降ろして、車椅子のロックをかける。
「先ほどのように車椅子が安定していないと余計な力が必要になります。まずは必ずロックをかけて、車椅子を固定して乗ることがコツです。それと谷山さんはまず、全身を乗せる事より、一度腰までを車椅子に乗せてしまうことを考えたほうがいい。そうすればその後は車椅子に乗った上半身の力で下半身を引き上げられます」
あ、そうか。あたしはリンさんの言ったとおり車椅子のロックを確認して背あて側が背になるようにして肘掛けに手をかけた。
思いっきり力をかけて自分の体を引き上げる。
腰が車椅子に乗ったらあとは引き上げるだけ。
するとさっきよりも簡単に車椅子に乗ることができた。
《やったぁ!》
「よかったですね。けれども私たちが近くに居たら、ちゃんと頼ってください。貴女は一人ではないのですから」
《はぁい》
「今日はもう遅い。オフィスを閉めて帰ろう。安原さんもお帰りになって結構ですよ」
「そうですか。ではお言葉に甘えて安原、帰宅させていただきます」
《おつかれさまー》
安原さんはドアを開けると
「谷山さんも無理しないでくださいね」
と片目をつぶってオフィスを出て行った。
「さぁ、私たちも帰りましょう。夕食はなにがいいですか?」
立ち上がってパタパタと埃を落としたリンさんは、床に敷いてあったひざ掛けを手に取って、開けた窓から外に広げて埃を叩くと、元の位置に入れてくれて、縁起のいい笑顔を見せてくれる。
「何でも――」
「いいはダメです。谷山さんは?」
《んーと庶民的なものでいい?》
「ええ。どうぞ」
《わかめごはんと、野菜スティック》
軽く吹き出すナルとリンさん。
頬を膨らませるあたし。
《あーっ笑ったぁ。だから言うのヤだったのにー。それじゃあ、お豆腐のロールキャベツも!》
「仕事ではないのに精進料理ですね」
《いつでも仕事ができるように、毎日精進潔斎することにしたの。だからあたしが料理する時は精進料理だからね?》
「僕たち2人はもともと肉や魚介類は食べないから大丈夫だ。レセプションの時は勧められたら適当にあしらっておけばいい。時間を見計らって僕達は退場して、ドレスコードのある精進料理の店で食事をしよう」
《ドレスコードって?》
「男性はスーツにネクタイ。女性は正装――日本では着物も正装に入りますので谷山さんの服装もドレスコードに入ります。そう言った服装の人間のみしか入れないお店のことです。それではレセプション会場の近くにあるお店を探しておきましょう」
そんなことを話しながらあたしたちは家に帰った。

「ナル、先ほど呉服店から着物が出来あがったと連絡がありました。午後、取りに行きますか?」
10日後、始業してすぐにリンさんが言った。
《あ、リンさん。それって早められないかな?》
首を傾げるナルとリンさん。あたしはGPS付きの携帯を出してぱちんと開く。
《午後に綾子と真砂子が来るの。どーしても自慢したい。それに帯締めなんかをこの前は選んでなかったし。ね?お願い》
ナルは時計を見ると新聞を畳んで立ち上がった。
「今日は依頼人もないだろう。少しの間なら閉めておいても大丈夫だ。今からいこう」
《ありがとう!ナル!》
あたしたちはそういうことで着物を取りに出た。

「素敵ですよ!こんなにお似合いになるとは。一応こちらでも常に何点か、帯や、帯締めなどをご用意しておりますが、ちょうどお客様のお似合いになられそうな品が到着いたしましたので、数点お出しいたしました。お客様は、とても運がよろしいのですね。このタイミングですべてのお品がそろうのは珍しいですよ」
そう言うと店員さんはあたしに和柄の箱を差し出した。
「当店からの贈り物でございます。お仕事でお使いになられるとのことでしたので、あまり派手なものではなく、落ち着いた感じのものをお選びいたしました。お客様の髪はとてもお美しいですし、長さもありますので、カジュアルな場所でも対応できるように、若い方向けの簪もお入れいたしました。どうかお使いください」
店員さんはそう言って箱を開ける。中には控え目だけど綺麗な黒や鼈甲色の髪飾りが数点と、それぞれ青と薄い緑のマーブルと、赤とピンクのマーブルの、トンボ玉のついた二本の簪が入っていた。
《こんなに……本当にいいんですか?》
「はい。当店の着物で美しく装っていただくのが、私どもの喜びですので。どうぞお使いください」
リンさんがお金を払っている間、ナルと外に出ると、ちょうど隣がランジェリーショップだということに気が付いた。
《ナル、ここに居て》
「どこに行くんだ」
《ランジェリーショップ》
無言になる2人。
「いってこい」
《すぐ来るから》
あたしはナルを残してランジェリーショップへと入って行った。

午後になって綾子と真砂子が来る。新しい着物を見た二人は
「綺麗ねー。これって朱雀?」
《うん》
「そんなに華美ではありませんのに金糸と銀糸が際立って、素晴らしいですわ」
《すっごくいい呉服屋さんで、こんなに綺麗にあつらえてもらえたの。ほら、青龍と白虎と玄武。すごく丁寧に作ってあるでしょう?》
畳紙を開いてほかの着物も見せる。
すると幸せそうに着物を見ていた真砂子がこう言いだした。
「麻衣?あたくしにも袖を通させていただけません?」
《ん、いいよー》
その時ちょうど資料室からリンさんが出てくる。
《リンさん仕事忙しい?》
「いえ、今休憩をしようかと。どうしました?」
真砂子が白虎の着物の畳紙を抱えている。
《真砂子が着物着てみたいって。ちょっとだけ資料室で着替えさせてもらってもいい?》