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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 3

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《青龍招来、急急如律令!》
私も一瞬目を疑った。
谷山さんが剣印で差したところに半透明の龍が表れたのだ。
そして、ぱしゃんという音とともに、虚空から現れた水で火が消える。
《ナル!急いであの席へ!》
私も後を追う。
すると、ドレスの裾を焦がした20代くらいの女性が座り込んでいた。
《ナル、ポケットから上掛けを。それとボーイを呼んで控室とタオルを。着替えもあったら頼んで》
谷山さんは着物の上に羽織る上掛けを、惜しげもなく女性の背にかけた。
《もう大丈夫ですよ?怖かったでしょう……》
谷山さんは車椅子のまま体をかがめて、そっと女性の肩を撫でる。
「あ、貴女は……?」
《正式にSPRへ所属させていただきました、陰陽師のマイ・タニヤマと申します。ドレスを濡らしてしまい、大変申し訳ありません》
「そんなことありませんわ。貴女様のおかげで命が助かったのですもの。貴女は……日本人?」
《はい。お嫌いですか?》
ふわりと微笑んだまま、そっと肩を撫で続ける谷山さん。
ああ、そう言えば私も、日本人が嫌いだなどと、今から考えると大人気ないことを言ったような気がする。
今なら日本人が全て嫌いなわけではないと言い切れるのに。
「いいえ……とてもお美しい方ですのね。そして、とてもお優しい方」
女性はナルを見上げて微笑んだ。
「デイヴィス博士、素敵な方を見つけられましたのね。お似合いですわ」
そこまで言ったところでボーイが到着し、タオルをかけてつれていく。
「まって!着物をお返しにあがりたいの!」
《気になさらないで。また作ればいいことですもの。でも、もし、会ってお話ししたいとおっしゃるなら、Ms.マドカ・モリにお聞きください。わたしはSPR日本支部に勤務いたしております》
谷山さんはまた綺麗にお辞儀すると、近くにいたサー・ドリーと一言二言、話をして、ナルの目配せで、3人でレセプション会場から出た。
その後は予定通り、近くのホテルの最上階で精進料理をいただき、食事が終わった頃に谷山さんが眠そうにしていることに気づいた私たちはタクシーを呼び、部屋へと帰った。


《ここがナルの所属してるところ?》
リンの運転する車で、僕達はケンブリッジのプラット研究所まで来ていた。
今日の麻衣の着物は玄武。
帯は杏子色と帯締めに千草色という色らしい。
黒に映える麻衣らしい色遣いだ。
「ああ。ここに僕の研究室がある。フィールドワークで取れたデータを解析に回して、研究室で上がってきた結果から必要なものをピックアップして、報告書にして上に提出するんだ」
《そんなところにあたしが行ってもいいの?》
振り返って首をかしげる麻衣。
ふわりと甘い匂いがする。
たしか麻衣がこの頃気に入って使っている、香の匂いだったか。
僕はあまり甘い匂いは好きではなかったが、麻衣の着物に焚き染められたこの香りは案外気に入っていた。
麻衣がつけているからかもしれない。
リンに研究室のドアを開けてもらい、ゆっくりと車椅子を進める。
一斉に僕達を見るメンバーたち。
「デイヴィス博士。いつイギリスへ?」
「そちらの女性は?」
僕はそれを完全無視して、チーフルームへ籠ろうとする。
それを止めたのは麻衣だった。
《申し訳ありません。ナルは言葉が足りないから……。わたくし、マイ・タニヤマと申します。先日SPRに正式に登録させていただきました。こちらに来たのは4日前です。少しの間ですが、お世話になりますので、よろしくお願いいたします》
余計なことを。
と思いつつ麻衣らしいと思う。
僕はリンが後から持ってきた日本で取ったサンプルを、真っ青な顔をしながら呆然と見ている研究員に示してこう告げた。
「3日猶予をやる。それまでに解析を」


チーフルームに入り、ドアを閉めると、谷山さんがナルを見上げて珍しく小言を言った。
《ナル、ちょっと厳しすぎ。せめてもう少し猶予あげなきゃ。それにナルも疲れちゃうよ?あたしの前で食事抜いたら怒るからね?》
ナルは眉間にしわを寄せた。
全くナルらしいと言ってしまえばそれまでなのだが。
どうやらナルにも惚れた弱みというものがあるらしい。
「麻衣、お茶。リン、研究員に猶予を3日から5日にしてやると伝えろ。麻衣に感謝しろともな」
それから麻衣を手伝え、とナルはそう私に告げた。


《ねぇ、ナル》
僕はPCの画面を見たまま、自分の力で傍に着た麻衣に答える。
「なんだ、麻衣。今忙しいんだが」
すっと白くて細い指が画面を指す。
《こことここ、入れ替えて、3行上のデータ移し替えて、このデータ反映させた方がいいと思う》
僕は麻衣の顔をちらりと見ると、頭の中で麻衣の言ったとおりのことをシュミレーションしてみる。
……確かに麻衣の言った方が報告書もすっきりするし、分かりやすい。
僕は報告書を打ち直しながら麻衣に問いかける。
「麻衣、どうしてそう思った?」
《だって日本でいろんな勉強したし。もちろん超心理学の本もいっぱい。オフィスの本、三分の二は読んじゃったかな?それに、所長室とか、書斎とかで、ナルの癖見てるもん。ナルはいつも同じところを回りくどく書くの。だから考察が長くなって、少し読みにくくなっちゃうんだよ。ナルの論文にもその癖が出てたから、もっとこうしたほうがいいんじゃないかなって思ってた》
それにリンさんにも教えてもらったし。
麻衣はこともなげにそう言い放った。
「どんなことをリンから教えてもらった?」
んー?
麻衣は少し考えた後、僕が考えていた以上のことを言った。
《えっとねー、オフィスの専用ソフトで画像の処理とか、音声のノイズの取り方だとか、サーモグラフィーの数値の記録の仕方だとか、データの見方だとか、グラフのデータ化とか。あと、データをPCに反映させて、画面上に3D化させることも教えてもらった。機械の整備ができない分、ソフト系を完璧にしてナルの力になりたかったの》
僕は思った。
今の麻衣ならここの研究員以上の働きをするだろうと。
「麻衣、来い」
僕は席を立って麻衣の車椅子を押した。
ドアを開けて、ある意味悲惨なことになっている研究室の、いちばん近いPCへ向かう。
「少し退いていろ」
研究員を一人退かしてそこに麻衣を座らせる。
山積みになっていた資料の中から適当なものを引っ張り出すと、吉見家の事件の温度変化のグラフだった。
「麻衣、これを処理してみろ」
《うん》
麻衣はこともなげに頷くと、グラフのデータをかなりの速さで打ち込み、処理していく。
その速さに周りの研究員たちも驚きを隠せない。
《終わったよ、ナル》
ものの数分で処理を終えてしまった麻衣は、僕を振り返り、ふわりと笑った。
「……完璧だな。リンも余計なことをしてくれる」
そう言いながら、自然と笑みが浮かぶ。
「麻衣、一時間にどのくらい処理できる?」
《リンさんと同じくらい。リンさんが驚いてた》
それは驚くだろう。リンはもう何年も情報処理に従事してきたプロだ。
そのリンと同じくらいの速さで、それも付け焼刃同然の教育しか受けていない麻衣が、情報処理をしているのだから。