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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 3

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「日本に居たときと同じ、2時間に付き30分の休憩を守ることを約束しろ。僕も気を付ける。これからお前に温度変化のグラフを集める。それを混ざらないように気を付けながら処理していくんだ。出来るな?」
《うん!頑張るよ》
僕は研究室内の全研究員に指示を出した。
「麻衣に温度変化グラフを全部集めろ」と。


「驚きました。資料を届けて戻ってきたら、谷山さんが温度グラフを素晴らしい速さで処理しているのですから」
リンは麻衣が淹れた紅茶を飲みながら、珍しく笑みを浮かべた。
今はちょうど麻衣の休憩時間。
お茶の時間も重なったので、ちょうど戻ってきたリンと僕と麻衣で、麻衣の淹れた極上のお茶を飲んでいる。
出会った頃はただの色のついた湯でも飲んでいるのかと思った紅茶は、今では麻衣が淹れたもの以外、気に入らなくなってしまうほど馴染んでいる。
「お前が麻衣にいつの間にか余計なことを教えているからだろう?」
《それが役に立ってるんだから、余計なことじゃないでしょ?》
麻衣はそう言いながら、お土産に持ってきたの。
と小さな子袋に入った金平糖を一つ口にいれた。
大きめの巾着袋に詰められた金平糖の子袋。
一つ一つが小さな巾着の形をしているそれを、麻衣は研究員一人一人にわざわざ配った。日本らしい柄の包みはそれだけでもとても評判がよかったらしい。
「麻衣、あとどのくらい有る?」
《残り三分の一。混ざらないように一つ一つ事件ごとに分けて、ROMに焼いて英語で事件名書いて積んである》
リンはそれを聞くとティーカップを置いてソファーから立ち上がった。
「山が崩れて大惨事になる前に、必要な部署に配ってしまいましょう。先ほど見ましたが、谷山さんは仕事が丁寧ですから、元のデータもちゃんと事件ごとにクリップで止めてありました。それも一緒に出せば誰も文句は言わないでしょう。いや……言えないと言った方がいいでしょうか」
《あ、リンさん。さっきのデータの中に、違うのが混じってたの。事件自体がイギリスのだったから、きっと別の研究室のだと思う。今頃、困ってるだろうから、調べて届けてあげて》
「はい、わかりました。ありがとうございます」
リンがデスクに向かった後、アイスティーを飲みながら、最後の金平糖を口の中に入れた麻衣に言う。
「お人好し」
《親切っていうの。困ってる人がいれば助けなくちゃ。ね?》
麻衣は時計を見ると飲み終えた僕達のカップと、自分のグラスをトレイにのせて膝の上に乗せて、自分の力で車椅子を動かして給湯室へ行こうとする。
オフィスでは見慣れた光景だが、ここの研究室では少々問題だ。
電源ケーブルやら何やらで、段差が激しいのだ。
「麻衣、カップとグラスは僕が片づけておく。お前は仕事に戻っていい」
《いやいや、天下のデイヴィス博士にそんなことやらせられませんって》
「お前はここの床を見てわからないのか?お前の力でこの段差を超えていくにはカップとグラスが邪魔だろうが」
《あーホントだ。ガタガタ揺れて、グラス割っちゃったら大変だもんね》
「グラスなんてどうでもいい。お前が怪我をしなければ、いくらだって割ってかまわないが」
麻衣は不思議そうに、落ちてしまいそうなくらい大きな蜂蜜色の瞳で僕を見ると、
《ありがとう、ナル》
と微笑んで、僕にトレイを渡し、またPCの元へ戻って行った。


《ナル、終わったよ》
麻衣がそう言って僕の部屋に入ってきたのは、日が落ちるころだった。
僕は麻衣の言葉に驚く。
あの量のデータを処理してしまったというのか。
普通の研究員だったら3日はかかっている量だ。
「ホントか?」
《ナルに嘘つく理由ある?》
僕は部屋から出て、麻衣の車椅子を押しながら席へと向かう。
最後に打ち込んだであろうROMをPCで読み込み、内容を確認すると、それは完璧に処理されていた。
「この分だと5日も要らないな……」
思わずつぶやくと、麻衣が少しむくれた顔をしていた。
《ほかの人の分の猶予まで減らしちゃだめだよ。ナル、今朝5日ってはっきり言ったんだからね?》
麻衣は一度言った言葉を守らないのが一番嫌いだ。約束を破ろうものなら数日はネチネチ言われる。僕はため息をついて麻衣の頭にポンと手を乗せた。
「わかった。お前の言うとおりにしよう。麻衣、ただしお前は明日休み」
《どーして?》
「お前は他人の心配ばかりして、自分の心配をしないから困るんだ。1日で、プロの研究員が3日かかる仕事をしたんだぞ。自分で気づいていないだけで、かなり疲れがたまっているはずだ。お前がここに来るのは1日おき。休みの日はルエラやまどかが相手をしてくれるだろう。おとなしく休め」
《えー》
「暇なら僕の部屋の本を読んでいても構わない。これでどうだ?」
《……譲歩する。でも、ナルにも条件》
「なんだ?」
《夕食は必ず一緒に食べる事!破ったら、その次の日からずーっと倒れるまで仕事してやる》
ここまでか……。
僕はその提案に乗ることにした。
麻衣がいれば仕事は捗る。
けれど無理をさせてまで仕事をさせようとは思わない。
これが惚れた弱みというヤツか。
「分かった。その代わり、仕事で遅くなりそうなら連絡を入れる。その時は約束を破ったことにはならない。要は僕がその日のうちに家に帰って、食事をすればいいんだろう?」
《その通り。約束破らないでね?》
そう言うと麻衣はちょいちょいと僕を呼ぶ。
どういう事かわからずに顔を近づけると頬に温かいものが触れた。
《約束守ってくれたらご褒美あげる。頑張ってね?》
……たまにはこういう事があってもいいものだ。


「マイ?用意は出来たかしら?」
朝起きて、着物に着替えて、ちょうど休みだったマーティンに二階から降ろしてもらって、ルエラの朝ご飯を食べる。
ナルがいるから野菜料理はお手の物で、ルエラの料理は本当においしかった。
今日はナルと約束したお休みの日で、マーティンの運転でロンドンにお買い物に行く。もちろんルエラの提案だ。
あたしは鏡でどこかおかしいところが無いか確認して、ルエラに返事をする。
《はーい、今行きまーす》
返事をすると、すぐにマーティンが迎えに来てくれた。
「チャーミングだよ、マイ。ナルも隅に置けないね」
「こんな可愛い娘ができるなんて幸せものね、私たち」
思わず顔が赤くなる。
《娘って……まだ決まったわけじゃないのに》
ルエラが笑顔でふわりとあたしを抱き締めてくれた。
いい匂い。
本当のお母さんみたい……。
「ああ見えてナルは、嫌いなものは嫌いってはっきりしているわ。そのナルがわざわざ連れてきた女の子だもの。それにナルはちゃんとgirl friendとマイのことを言っていたわよ?」
イギリスでgirl friendというと、結婚を前提にした付き合いをしている女の子ってことになる。え…?ええ??じゃあナルは自分の両親に、婚約者を連れて来たって言ったの?!赤くなったあたしに、ルエラは優しく微笑む。
「結婚したら、毎朝ナルに階段を降ろしてもらいなさいね?そうすればナルも毎晩帰ってくるし、毎朝マイと一緒に階段を下りてくるんだから、マイが降りてくる時間までちゃんと家にいるわ。本当にマイは私たちの天使ね」
うれしそうに笑うルエラとマーティン。
結婚……かぁ。