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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 3

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「ナルーっ、リンーっ、麻衣ちゃーんっ」
遠くから手を振りながら、まどかさんが走ってくる。
あたしたちの目の前で止まると、息を切らしながら顔を上げた。
あたしは急いで自分用のアイスティーをカップに注いでまどかさんに差し出した。
まどかさんはそれを一気に飲むと、はあ、と、息をついた。
「どうしましたか、まどか」
リンさんが自分の座っていたところにまどかさんを座らせる。
「ありがと、リン」
白いハンカチで汗を拭いたまどかさんは、嬉しそうにナルとあたしを見た。
……ん?あたし?
「ナル!かねてから申請してた、特別実験室の許可が下りたわ。今日の午後から優先的に実験室を使って良いそうよ」
「やっと申請が降りたか。麻衣、午後からはお前の能力測定だ。それも公式のものだ。お前ほどの多重能力者は現代にはいない」
「ナル、一人だけいます」
リンさんの声に、ナルは小さくため息を漏らした。
「あいつか。あれは別物だろう。人間とカウントするべきじゃない」
「ナル……その言葉、そっくりそのままあの人に伝えますよ」
リンさんの言葉に、ナルは苦虫をかみつぶしたような顔をして
「言い過ぎた。頼むから伝えないでくれ……あれが切れると困る」
と、正直に謝った。
珍しい。
それに、二人が言っている、『あの人』、『あれ』とは一体誰のことなんだろう。
考えてるうちにまどかさんは立ち上がった。
「麻衣ちゃんはあの子とは初めてなのね。とってもいい子よ。優しすぎて悲しい位。今日の実験を見に来るって言ってたから、きっと会えるわ。とっても綺麗な子だからすぐわかるはずよ」
まどかさんはそう言うと、また、中庭を歩いて行ってしまった。


「麻衣、まずはこれからだ」
実験室のガラス越し、何もない場所に机が一つ。
ナルは谷山さんの車椅子を机に付けると、机の上に数枚の紙を置いた。
実験室の沢山のカメラが谷山さん一点にフォーカスを合わせる。
「このテストをとにかく解くんだ。分からなければ飛ばしていい。点数でどうこうなるものではないし、気楽にやれ。ちなみに麻衣の母国語は日本語だから、テスト用紙も日本から取り寄せてある。周りに集中力を削るものは無いし、研究員もガラスの外だ。何もかもお前の好きなようにしていい。いいな?」
谷山さんは不思議そうに、伏せられたテスト用紙とナルの顔を見比べている。
いきなり実験でテストを受けるとは思ってもみなかったのだろう。
《時間は?》
「特に指定はしない。確実に解けばいい」
《わかった》
ナルがデータ処理のブースに戻ってきて、実験の開始のベルが鳴る。
谷山さんはペラリと問題用紙を返して少し目を見開いた。
それでもすぐに笑顔になって、微笑みながら問題を解いていく。
彼女はイギリスに来る前から、休みの時間帯になると、いろいろな分野の本を読み漁っていた。
彼女が笑っているのは、きっとこのテストがIQテストであることに気づいたのだろう。
あの人と揃いで買った腕時計が時間を刻む。
谷山さんはよっぽど集中しているらしく、一度も顔を上げない。
そして彼女の手元を映すカメラには、彼女の書いた答案が映し出されていた。

「ふぅん、随分といい人材じゃないか」
聞きなれた愛しい声に、私は振り返った。
そこには私の思ったとおりの人がいた。
キラキラと光る銀の絹糸のような長い髪。
高い身長、女性にしては少し落ち着いた感じの中性的な声。
ふわりと漂う甘い花の匂いに、思わず立ち上がって抱きしめたくなる。
「奏」
ナルがちらりと振り返る。
「何をしに来た」
ぱこん
場違いな音が響き、その場にいた数人が振り返る。
「なにをする」
「御届け物だよ。彼女のものだけど、お前が一番心待ちにしていたものだろう?ボク直々に持ってきてあげたんだから、感謝するべきだよね?」
奏の手から黒い筒を受け取ったナルは、中身を見ると瞠目した。
「とれたのか……!」
「それも全会一致だそうだ。彼女はいい存在だね」
奏は抱えていた大きな紙袋を、ナルに押し付けると、IQテストを受けている谷山さんをガラス越しに見て、笑みを浮かべた。
「すごいな……IQ180超えか。これは事故に遭った時に、命を守ろうとした副産物だな。それに多重能力者だって?ボクと同じ能力者がいてくれて嬉しいよ」
「お前はけた外れだろう?」
「酷いこと言うなー、ボクだって人間だよ?ただちょっとたまに、人間超えちゃってるかなーとか思うけど」
奏はそう言うと谷山さんを見て、
「あ、終わった」
そう呟いた。
そしてふわりと実験室の強化ガラスをテレポートですり抜けて、谷山さんの元へと向かう。
銀の髪と白い白衣が、コツコツと革靴が床にあたるたびに、ゆらりゆらりと揺れた。
「初めまして。谷山麻衣さん……いや、君は今日、この場から、Dr.マイ・タニヤマだよ」
私とナルが実験室に入る。不思議そうに奏を見上げていた谷山さんは、ナルと私に気づいて、ふわりと微笑んだ。
《こちらの方は?》
「自己紹介がまだだったね。ボクは奏。奏・セレーネ・林。セレーネ博士って言われることが多いけど、どっちかっていうと奏って呼んでほしいな」
《奏……さんですか?》
「そ。そのほうが好き。ついでに、興徐と結婚してる。つまり女ってわけ」
《リンさんって結婚してたんだ》
「ええ。結婚してもう六年になりますか。私の大切な人です」
私は奏の近くに寄って、そっと彼女の肩を抱く。
抵抗もなく寄りかかってくる彼女。コトンと頭を私の肩に寄り掛けて、私たちだけのラインを繋ぐ。
『興徐の意地悪。帰ってきたのにボクを抱き締めに来てくれなかった』
『すみません。イギリスに来てすぐに、実家に挨拶に行っていまして。挨拶だけで帰ろうとしたのですが、やはり引き止められました。これでも急いだんですよ?早く貴女に逢いたかったから。でも、ケンブリッジに帰ってきたら、今度はナルに仕事をどっさりと。家に帰るのが遅れてしまいました』
『淋しかった』
『私も、です』


「麻衣、これを」
気がつくとナルが黒い筒と、紙袋を谷山さんに渡すところだった。
奏を見下ろすと、奏は楽しそうにそれを見ている。
「奏、あれは?」
「すぐわかるよ。ほら」
谷山さんのほうに目を向けると、筒の中から一枚の証書を取り出して、それを広げていた。
《ロンデンバーグ財団……博士号、教授資格……?!》
「ここに来る前に論文を提出しただろう。それがロンデンバーグ財団の目に留まって、今回の授与につながったそうだ。後で見せてやるが、既にイギリスでは製本されて出版されている。初版は既に完売で、増刷の準備をしているそうだ」
なんとなくは分かっていたが、博士号の他に教授資格も取っていたとは、さすがの私も驚いた。
奏は特例で14のときに準教授として活動していたが、ナルが教授資格を正式に受けたのは20になってから。
つまり、谷山さんは年齢的にはナルを追い越してしまったわけで。
そして同時に、10代で博士号を取った天才が全員そろったことになる。
「今回、麻衣が博士号を取ったことで、10代で博士号を取得したのは、僕、奏、麻衣の3人になる。麻衣、これから忙しくなるぞ」
《ナルぅ……これ、返しちゃ駄目?》
涙目でナルを見上げる谷山さん。