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ゴーストハント 車椅子麻衣シリーズ 始まりの時 3

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ナルはため息をついて、こつんと谷山さんの頭を小突いた。
「それぐらいで気後れするんじゃない。それを燃やしたところで、お前が博士になった事実は変わらない。それどころかこれからは、自分の研究をするために出資してくれる、パトロンだってつくんだ。もちろん奏にだってパトロンはいるし、自分の研究室も持っている。いつかは麻衣も同じように、研究室を持って部下を使う立場になるんだ」
《あたしは日本支部の調査員で――》
「僕はいつかこちらに帰ってこなくちゃいけない。そのときお前を一人にすると思うか?」
《それって……》
ナルは谷山さんの車椅子の肘掛の部分に手を置いて、自分から谷山さんに近づく。
そして、触れ合う唇。
まったくのお子様のキスだったが、谷山さんは真っ赤になっている。
「お前はどこにもやらない。僕だ――」
「はーい、そこまで」
パンパンと手をたたきながら、奏が笑顔でナルの言葉をさえぎる。
もちろん睨むナル。
奏はそれをものともせずに、二人に近づく。
「ナル、谷山さん?こーんなカメラいっぱいのところで、ラブシーンは研究員の目の毒だよ~。とりあえずカフェで話しようか」
「まだ実験が――」
「ナール?そういうお前が、彼女の集中力を途切れさせたんだろう?ちょうどティータイムだし、お茶でも飲みながら話をしようじゃないか。ねぇ?谷山さん」
《マイでいいです……》
まだ幾分赤い顔をしている谷山さんが奏を見上げて言う。
奏は上機嫌で
「じゃ、ボクのことは奏って呼んでね?マイ」
そういうと谷山さんの車椅子の後ろに回りロックを解除する。
「じゃ、いこうか」
「僕は見世物になるつもりはない」
「それじゃあ、特別に我が家にご招待しよう。いいよね?興徐」
私を振り返って楽しそうに言う奏。
普段はあまり人を入れない私たちの家に、奏自身が招待しようと言うのだ。
よっぽど気に入ったらしい――谷山さんを。
「ええ。貴女がいいのなら」
「じゃ、決まり!お茶とお茶菓子くらいは出せるよ。もちろんナルはブラックティーだよね?」
「……当たり前だ」
しぶしぶ奏の言葉に従うナル。
イギリスでナルがかなわない女性は、まどかとルエラ、そして奏なのだ。
「マイもいいよね?ボクたちの家に招待するなんて、めったにないんだから」
そうそう、と奏が付け足す。
「マイは、動物は好き?」
《はい》
「それはよかった。うちにはたくさんの動物がいるんだ。とっても楽しい体験ができるよ」
あのことか。思わず額に手をやる私。奏の癖である動物集めが、私のいない間にエスカレートしたらしい。
なぜ『生き物』ではなく、『動物』なのかは部屋につけばおのずと分かる。
私たちは、はしゃぐ奏に導かれ、我が家へと向かった。


ロックを解除し、私がドアを開ける。
まず家に入ったのは車椅子の谷山さんと奏。
次にナル、最後が私。
オートロックなので鍵をかける必要はない。
カラカラと音を立てて車椅子が廊下を進めば、まず始めにミルクティー色の毛玉が2つ出てくる。
「エチェ、ミーナ、帰ってきたよ~。お客様もいっぱい。よかったね~」
車椅子の車輪に両側から近づくウサギ2羽。
好奇心旺盛なこの2羽は、今にも車椅子の車輪に飛びつきそうだ。
「エチェ、ミーナ。車椅子は足の不自由な方の足の代わりです。おもちゃではありませんよ」
2羽をすくい上げるように抱き上げる。奏はどんなに忙しくても2羽のブラッシングを欠かさない。
おかげで服には一本の毛もつかない。
2羽は聞き分けがいいので、私の腕の中でもだらりと体の力を抜いて、毛皮よろしく足をぶらつかせている。
《ウサギ?》
のけぞるような形で谷山さんが私の腕の中を見る。
「そ。エチェとミーナって言うんだ。ボクがいるときは家でお留守番。長期の調査とか、論文の締め切りが近くて相手ができないときは、このフロアーの一番日当たりのいいところにある、ガーデンで放し飼いにしてる。ふたりは元々実験に使われそうになってた子達で、ボクが気づいて保護したんだ。遺伝子操作をされて生まれた子達だから、知能が高くて、人間の言葉も完璧に理解するんだよ。寿命も長いし、もう8歳になるけどまだまだ元気」
奏は笑いながらリビングへと車椅子を押す。
落ち着いた色合いのリビング。
これは結婚前から変わっていない。
「ナル、マイをソファーへ。興徐はエチェとミーナ離して、奥のドア開けて。マイ、好き嫌いはない?」
《え、あ、無いです》
「んー、もっと気楽に話していいんだよ?敬語も要らない。それに、ここでは英語しゃべんなくっていいからね。ボクも、興徐も、ナルも、数ヶ国語使いこなせるから」
いきなり英語から日本語に切り替わる会話。
奏らしいと言えばそれだけだが、初めての人間にとっては少々忙しないだろう。
私は奏に言われたとおり、奥のドアを開けに行く。
そしてドアのノブに触れて思わず固まった。
何かがいる。
かなりたくさん。
かすかなドアを引っかく音。
……パンドラの箱、いや、パンドラの扉か。
「奏、あれは安全なものですか?」
お茶の準備をしている奏に確認しに行く。
奏はスコーンを焼きながら答える。
「うん、大丈夫。みんないい子だよ」
「ちなみに頭数は」
「18。エチェ、ミーナ抜く」
18……。思わず逃げ出したくなった。
「ほーら、開けてやって。みんな知らない人の匂いで、テンション上がってるんだから」
私は意を決してドアを開けた。
ドアが半分ほど開くと、半透明な多種多様の動物が、勢いよく私の体をすり抜けていった。
「――っ!」
何度繰り返してもなれないこの感覚。
害は無いと言っても、霊が自分の体をすり抜けるのだ。
なれるわけがない。
「わふっ」
声を聞いて顔を上げると、嬉しそうに尻尾を振っているセント・バーナード(これも霊)がぽつんと座っていた。
「ベン、貴方だけです。おとなしくしているのは」
疲れきった私。ベンはのっそりと私のところへ来て、たしっとしゃがんだ私の肩に前足を置いた。
……犬に慰められる私。
いい加減にしてほしい。


《え?え?え?!なにこれ、なにこれ?!》
麻衣がたくさんの元生き物、現、霊である動物に囲まれている。
霊視能力の無い僕でさえ、多少向こうが透けて見える程度で生きているものと遜色ないのは、奏が張った結界のおかげだろう。
「んー?うちのペット‘S。ここで散々遊んで満足したら、勝手に浄霊していくんだよ。一番古株は今、興徐を慰めてるセント・バーナードのベンジャミン。ベンって呼んでる。あの子はちょっと特別で、居心地がよくなったから浄霊しないタイプ。元は調査に行ったゴーストハウスで、首輪をつけられたまま放置されて、餓死しちゃってた、かわいそうな子なんだ。かなり虐待されてたみたいで、最初は大変だったよ」
今は一番ほんわかさんなんだよね。
奏はそう付け加えながらスコーンとジャム、クローテッドクリーム、そして人数分の紅茶を持ってキッチンから出てきた。
《ひゃっ、なになに?!》
麻衣が肩をすくめて自分の頭の上を気にしている。
奏は麻衣の頭の上に落ちた何かをすくうと、溜息を吐きながらそっとそれを撫でた。よくよく見てみると白い文鳥だ。