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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第一話「ラピス・フィロソフォラム」

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#1 ラピス・フィロソフォラム




それは彼にとって、最高で最悪の目覚めだ。

トーリス・ロリナイティスは、最近まで何の変哲もない中学生だった。
自身が机に突っ伏している事に気付き、彼が身を起こすと軽い金属音と共に淡い茶髪が零れ落ちる。 朝の眩しさが翠の瞳に刺さり、目の周りに蓄えられた濃い隈が露わになった。
飴色の木製家具と素朴なピンクで統一された部屋。 何の変哲もない男子中学生の私室とは趣が違う。 彼には今転げ落ちたパワードリンクの空き缶すら厭に目についた。 ベッドは暫く使われた跡が無い。 部屋の主人が居ないからだ。
彼はおもむろにスマートフォンの画像を開く。 トーリスの隣ではしゃぐ金髪碧眼の少年、フェリクス・ウカシェヴィチ。
フェリクスはトーリスの親友だった。 そして夏休み前日を最後に、忽然と姿を消した。

警察には通報したがつれない応対だと子供ながらにも感じた。 友人が少なかったフェリクスは、クラスメイトの間では元々大して話題に上がらない。 フェリクスの両親には警察から連絡の一つは行っているかも知れないが、海外出張中で少なくとも夏休み中は戻ってこないだろう。 実際はどうであれ、生まれ育った町、今まで必死で手に入れては、少しずつ取り溢す事を繰り返した果てに、ようやく出来た彼の小さくとも重要な社会… その全てに見放されたような感覚。 それを痛いほどに感じ取り、夜まで共働きをしている両親にも頼れず、
弟達の面倒も見なくてはならないトーリスは、結局自分の身をすり減らし、独力で手掛かりを探しフェリクスを見つけるぐらいしか手立てが無かったのだ。
運動部所属でも無い、ただの帰宅部員である学生の体力など、そう長くは持たない。
日毎に言う事を聞かなくなる自分の躯以上に、もし親友が事件か事故に巻き込まれていたら。 そうしたらフェリクスはもっと衰弱してしまっているかも知れない。 どうか無事でいて。 そう願い、気力だけで自身を動かし、何処にいるとも判らない親友の手掛かりと行方を捜す。 元来トーリスはそういう少年だった。
フェリクスが消息を絶ったその日、彼の家に鍵はかかっていなかった。 本来あるべき場所でなく、ダイニングテーブルの上に、家の鍵が無造作に置かれていたのを見つけて以来、何か可笑しい。 そう感じたトーリスは、自身の家と行き来し親友の家に泊まっている。 二人は合い鍵で何度か、相手方の両親に無断で遊びに行ったり、どちらかの家に泊まる事はあったが、自分の為に無二の親友が、何日も何日も自身の家に居座り続けるとは、フェリクスも恐らく予想していなかっただろう。 トーリスは親友を守るためにここにいる。 彼が帰って来たその日、止まった時間を再び共に歩けるように。 ―彼の生きた証、居場所を守る為に。

だが、止まった時間は動きだした。 机の隅に、昨夜は無かったもの。
胡桃大程の、卵の様な形をした緋色に透き通る石。 いつかテレビや教科書で目にした気がする、前時代的な渋い金色で鳥籠に似た形の枠組みに石は組み込まれており、枠自体にも装飾が施されている。 円錐に近い台座で意外と安定しているようだ。 枠組みの頂点には音楽記号のシャープに似た奇妙な意匠がついており、持つと意外と重い。 初めて見る代物だが、強いて言うなら…
宝石。 十代の少年にはそれぐらいしか、目の前の物体を現すに相応しい単語が思い浮かばない。

「お前にやるし。 お土産」
その声をトーリスは知っていた。 振り向くよりも前に、視線が声の主を追う。 自分より一回りは小さい華奢な体格。 草色の瞳にアンニュイな目元。 正中線より少しずれて分けた金髪のセミロング。 彼は確信した。

 「フェリクス…?」
親友の名を呼んだ。 頷くフェリクスを目に、意識するよりも前に。 トーリスは金髪の少年に抱きついた。
尽きた筈の力が、探し求めた存在と共に、見る見る蘇っていく。 まるで奇跡か、魔法のように。
 「トーリス、俺苦しいし」
フェリクスの側からは、表情は伺えない。 だが感情は、痛いほどに身に染みた。 右からは嗚咽が耳に入った。

数時間にも感じた再会だったが、落ち着いてみると時計は十分程しか進んでいない。
 「らしくないし。 お前寝坊しすぎと思わん?」
茶化すフェリクス。 十時十二分。 つい先ほどまで気に留める余裕も無かったが、休みにしろ確かに寝過ぎてしまった。 家の朝食は大きいエドァルドがなんとかしただろうか。

トーリスの心配を大層な着信音が劈いた。 【Der Freischütz】。 主人公とその同僚が、射撃で腕を見せられなければヒロインと結ばれない、と言われ魔法の弾丸を求める。 しかし悪魔に魂を売っていた同僚は、主人公を生贄にしようとして、結局自分が生贄となって死んでしまう。 そんな物騒なオペラの話の、ある一場面に歌われる曲だと聞いている。
無論選曲はこの場の二人の趣味ではない。 躊躇ったが、急いでトーリスは通話ボタンを押す。

《取るのが遅すぎですよ、このお馬鹿さんが!》
おかんむりだ。 聞かずとも相手の苛立ちが滲み出る。 何時の間にかフェリクスはトーリスの背後に隠れていた。 親友の体越しに電話をちらちらと伺う亜麻色。 トーリスは肩を竦めた。
《ごめん、本当にごめん》
《勉強会はどうしたのですか! フェリクスが大事なのは分かりますが、トーリスは自分の人生も大切にしなさい》
声の主、ローデリヒ・エーデルシュタインの声色が少し和らいだ。 夏休み前までは顔ぐらいしか知らず、殆ど他人同然のクラスメイトだったが、フェリクスが行方不明となった時、親友とその手掛かり探しに協力してくれた人物の一人だ。 彼ら、トーリスとローデリヒの間に、他にこれと言った交流は無い。 単に自分の友人がフェリクスと仲が良く、その友人がひどく心配しているから協力している、とローデリヒはかつて言っていたが、トーリスは僅かな対話の中で、少なくとも彼は悪い人ではない。 そう確信している。 こうして勉強会の約束を取り付けるのも、恐らく自分の事を心配してくれたが故の事なのだろうと。
 《学校の図書室で集合、だよね? 今から行くよ》
フェリクスが戻って来た事を伝えなければ。 いろいろと手伝ってくれたお礼もしたい。
 《―出来るだけ急いで来なさい。 それでは》

電話は切れた。携帯を通学鞄にしまい、とりあえず空き缶の始末に部屋を出ようとすると、フェリクスは彼を遮りながら一点を指し、懇願にも見える困惑の表情で叫んだ。
「お守り! 持ってなきゃ意味無いんよ!」
指さす方には先ほどの宝石らしきもの。 トーリスはそれとなしに手に取った。
 「お守り? これが?」
 「お土産だけど! お守りなん! もっと丁寧に扱えし!」