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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第一話「ラピス・フィロソフォラム」

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ときわ町西部、商業地区と住宅街の中間地点。 そんな新興住宅地にごく最近作られたのが、トーリス達が住むここ、方円状に居住棟が並ぶ、近未来的な外観が特徴のときわハイツである。 この集合住宅は、商業地区や市役所、小中学校などの重要施設へほぼ直通するようなルートに作られた連絡通路が何本かあり、通勤通学ラッシュや、帰宅ラッシュの時間帯は何かと人通りも多くなるが、この半端な時間帯では人影など影も形も無い。 今ここに居るのは、学校へ急ぐ中学生二人だけのようだ。
 「今何時?」
 「十時二十九分」
フェリクスは問い掛けにぞんざいな答えを返す。
連絡通路に時計は無い。 その上彼は手ぶらだ。 宿題を片付ける気は無いのか。 中学一年の晩夏、親友は夏休みの宿題に殆ど手をつけずに、何処かへ行ったり遊び呆け、泣き付かれ結局、自身も手伝って何とか宿題を片付けた苦い失敗。 不意にそれを思い出し、トーリスは溜息を漏らした。 約束の時間に間に合わないのは分かっている。 しっかり謝って、もしローデリヒが許してくれたなら、フェリクスも勉強会に付き合わせよう。
そう思案した矢先、ついてきていた足音が突然、止まった。
 「…トーリス」
振り向く。 目を見開き、あたりを見回している。 トーリスは彼の心情を察した。
何かを考えている。 少しの戸惑い。 そして警戒―

「!?」
異常はすでに起きていた。 ガラスとコンクリートで組み合わさったグレーの道筋に、極彩色の何かが亀裂を入れ始めた。 あまり興味も無い美術で習った、前衛芸術か、あるいはそういう何がしか。 どうであれ非日常のそれは破砕音と共に、日常を無感情に剥がし取っていく!
 「に、逃げ、フェリクス、逃げよう!」
フェリクスの腕を強引に掴み走る。 前へ、前へ! 出口はもうすぐのはず、だが行けども行けども近づかない!鞄の中から警告のように光が放たれるがトーリスはそれに気付かない。 扉は見えている! 見えている筈なのに、それなのに! 今も、灰の日常は古いモザイクの如く音を立て崩れていく…! 背丈を超える絵筆が転がり、青い薔薇が鉄格子に絡み咲き乱れ、顔を塗り潰された肖像画達が、どこのそれとも付かぬ言葉で一斉に語りかけて来る…
出口の扉も砕け落ち、二人は完全に、非現実に落ちていた。

 仰ぎ見る。 もう、上にも下にも、あの見慣れたグレーは一欠けらも残っていない。 何処まで落ちてしまったのだろう。 それとも自分達は何かの切欠で、別の世界にでも飛ばされてしまったのか…。
 「―リス、トーリス、しっかりしろし、トーリス!」
親友の声。 トーリスは暈けた思考を振り払う。 駆動音と共に、西洋風の古びた石畳はゆっくりと彼ら二人を乗せて前進していく。 進行方向には、―遥か遠くに、純白の布に包まれた、頭のない巨大な人の型。 腕と思しき部分と胴体は繋がっておらず、それは長方形型の大きな何かを、何かしらの決まった間隔で振り下ろしている。 古びた動く歩道は先頭の人型に向かって階段状に駆動していくが、縦数メートルはあるカーテン状に赤い布が垂れ下がり奥の様子は伺えない。 白と赤、随所の煌びやかな金、そして僅かな黒で占められた空間は、不気味さと、不出来ながら歴史ある絵画のような。 言葉にし難い慟哭を強かに主張する。
 「トーリス!」
フェリクスはすぐそこにいた。 息のかかりそうなすぐ傍に、まるでトーリスを守るような体制で、辺りの奇妙な造形物に目を凝らして。 その表情にはトーリスの知る怯えた彼も、余裕もない。 まるで、姿形だけが親友にそっくりな別人を見ているような気分だ。
 「何、なんなんだよ、ここ」
顔を叩く。 じわりとした痛み。 生憎夢ではない。 夢だろうと現実だろうと、ここに用は無い。 早くここから出なければ。 肩にかかった鞄の紐をかけ直し、半ば強引にフェリクスの手を引く。
 「! 駄目だし、まだ動いちゃ」
 「こんな所早く出ないと! 待たせちゃうだろ?」
頑なに動かない親友。 こんな所に彼を一人には出来ない。 力づくで立たせよう。 乱暴に左の腕を伸ばす。
そこに、何かがぶら下がった。

 「痛っ!」
思わず小さく叫ぶ。肘の内側と手首の間辺りに、上下二つに並んだ― 子犬に噛まれた時のそれに似た噛み傷。
「…! 離れろしっ、このっ!」
噛み付いた犯人をフェリクスが裏拳で払いのける。 西洋仮面に何枚も翼を生やしたような異形。 混色を失敗した絵具のような、一見汚らしい色彩だが、真珠のような淡い光沢を放っている。 大きさは足から膝程も無い。 奇妙な事に上下にたった一本ずつ、小指の爪程もない牙が顔を出していた。
 「なに、この」
化け物。 そんな表現を吐き出そうとした瞬間。
左から、玩具の間接を、無理な向きに曲げた様な。 厭に軽い悲鳴がした。
腕が、動かない。 力が入らないのではない。 今も全力を振り絞り動かそうとしている。 そのはずだ。
真横に左腕は伸びている。 いや、伸びているのではない。 肩から先が真横に伸びたまま、いくら動かそうとも動かない。 ピンで留められたかのように固定されている!
 「!? あぁあぁあああああ!!」
異形は一匹だけではなかった。 何匹、いや何十匹ものそれが、肉に群がる獣のように、彼らの周囲から湧き上がり、瞬く間に視界は化け物達で埋め尽くされていた!
 「ちっくしょう! どれだけ居るんよ、どれだけ喰ったんよ…!」
フェリクスもトーリスも死に物狂いで異形を払おうとするが、撥ね退けては次が現れ、それを退けてはまた次が、
視界は一向に開けない! 次を退ける前にまた次が! 片腕の自由が利かないトーリスは先に絵具崩れに呑まれ、意識の外で噛み付かれた…

「―っ あ…?」
右足、外膝。 小さな穴が穿たれ、僅かに血が零れ落ちる。 全てが大きく傾いた。 左腕のそれと、全く同じ小さな軋み。 目を向けずとも、何が起こったのか。 其れだけは判った。 右足の自由も奪われ、 均衡が失われた今、最早トーリスの身体は、立ち上がる事すら出来なくなっていた。