魔法少年とーりす☆マギカ 第二話「ホープ・ダイヤモンド」
辺り一面の麦畑。 淡い金色の所々に向日葵と亜麻の青い花が咲き、眩い光が彼らを出迎えた。 何処かから聞こえる軍楽太鼓の音色。 それは牧歌的な風景を彩っているかのようで、青空に点々と浮かぶ赤い染みと、田舎道に整然と並ぶステンドグラス状の、桜に似た作り物の樹木達が、この世界の虚栄や虚飾。 そう言った何かを粛々と伝えているかのようにも聞こえた。
「「「Ваші речі не потрібно. Мої речі не передаються.」」」
奇妙な斉唱。 何を言っているかは分からない。 しかし歓迎の挨拶では無い事は彼らにも理解できた。
やがて農道の果てから不格好な、…双頭の鷲に、強引に人間の身体を組み付けた様な、下半身の無い民族人形が現れた。 上半身は武術的なステップか、或いは舞踊の一環か。 それらは一定の拍子に合わせて身軽に跳ね回り、高速で彼らの前に迫り来る。 取り出した卵の宝石を掲げ、朝のそれよりも鮮明に、トーリスは祈った。
『俺に力を。 気色悪い化け物達から、トモダチを守る力を!』
守護石は応え、帯状の輝く緋は彼の身体を覆い尽くし、制服を戦いの為の衣裳に作り替えた。 やがてシャープ記号型に姿を変え、再び、守りの宝石は彼の喉元右に宿る。 緋が首元で煌めいた。 既にフェリクスは鷲の頭に啄まれ始めていた。 無力な白い腕に刻まれる引掻き傷を数えるより前に、爆発的強化の円陣は画かれ、緋は尾を引いた。 騎兵槍の如き突撃が双頭の一角を蹂躙する!
『フェリクスの傷を治して』
その身を案ずるより前に、魔法少年は緋の光を友人に向けて注ぐ。 痛々しい裂傷は自然と塞がれていき、十秒と経たず傷跡諸共消え失せた。
「トーリ、ス」
擦り傷だらけの緋の戦士を目前に何を思ったか、金髪の少年はただその名を呼ぶ。 双頭の群れは殆ど無傷だ。
意識の外で塞がる自身の傷に気を逸らす間もなく、緋の魔法少年は鷲の軍勢に改めて突撃する!
渾身の右ストレートと共に槍を発射! 衝撃で仰け反るも双頭は三連を回避! 別の個体に左ストレート! 仰け反るも双頭は三連を回避! トーリスは身体を捩り右からの回転蹴りも見舞うが致命打は無し! 全力のコンビネーションを続けるが何れも有効打は入らない。 双頭の化け物が身軽に往なしていくのだ! 驚くべき速度で、人形の腕に生える翼状の鋭利な刃が容赦なく少年を撫で切っていく! 頬、額、四肢胴体、身体中を負傷しては修復され、負傷しては修復され。 緋の尾は短く途切れ始め、霧状の僅かな出血が散り、刻まれた麦穂は淡い黄金となって宙を舞い… 青と赤の晴れ空は、徐々に赤の率を増している様に思えた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第二話「ホープ・ダイヤモンド」 作家名:靴ベラジカ