二人の歩き方
メイクモデル
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メイクを人にされるのは
緊張するので好きではないが
初めてではない。
むしろツル、カメ、ゆゆかの三人には
おもちゃのように遊ばれ
よくメイクされる。
化粧ばえするのでやりがいがあるんだそうだ。
「これはやりがいあるなぁ!
ツルッツルだ!」
講師は20代?30代だろうか。
ちょっとチャラそうな男。
すずめのなめらかな肌に触れ、
嬉しそうにしている。
「なっ!」
馬村はその光景を見て
ムカムカした。
ツルのためだと思うと
腕をとって連れて帰ることもできない。
救いは、触れられて褒められて
ゾワゾワ悪寒を感じているだろう
すずめの表情だった。
「くそっ!」
他の男の手で顔をはさまれている
アイツの姿なんてみたくない。
馬村は目を逸らす。
そんな馬村の苛立ちも知らず、
講師の男はツルに教えながら
すずめにメイクを施していく。
「はい、こんな感じで。
女優とか他の誰かになろうとする
メイクが最近は流行ってるけど
僕が大事にしてるのは
その人の良さを引き立て活かすことなんだ。」
そう言って見せたすずめの顔は、
素晴らしく美しかった。
ゆゆか達にいつもされるメイクも
美しく見えるが、
さすがプロのメイクでは、
骨格などを最大限活かされて
より自然な美しさが
場の空気を圧倒していた。
馬村も息を呑んだ。
俺の好きになった女は
こんなに美しかったっけ。
「すごい!すずめちゃん!
めちゃめちゃかわいーよ!」
カメがはしゃいでいる。
「ありがとう!
おかげですごい勉強になったよ!」
卒業したら、メイクアップアーチストの
方向に進みたいらしいツルちゃんは、
プロの技を教えてもらって満足気だ。
よかった、役に立てて。
「いやぁ、ホント肌がキレイだね!
おじさん、口説いちゃいそうだよ。」
とニコニコと講師がリップサービスらしいことを言う。
「はぁ。」と気のない返事のすずめに、
「これからどんどん綺麗になりそうだねぇ。
僕の手に委ねられる気ないかなぁ。
さなぎから蝶に変えてあげられるのに。」
ゾワワワワッ!
「いえっ結構です!!」
駄目だ!苦手だ、やっぱり。こういうの。
美容関係の男の人って、
なんでこんなにゾワゾワすることを
平気で言えるのだろう。
ホントか嘘かわかりゃしない。
すずめは慌ててその場から離れ、
キョロキョロ馬村を探す。
体験授業は再開し、
もうお役放免になったみたいで
ホッとする。
「あっ!いた!」
馬村の姿をみつけ、
さらにホッとする。
そして「馬村!」と駆け寄った。
「いやー参ったよ。
ツルちゃんのためとはいえ。
待たせてごめん。行こうか?」
とニッコリ笑うすずめ。
ヤバイ、これ。
ダメだろ、こんなん。
いつものすずめは誰もその良さに
気づかないけれど
馬村には馬村フィルターがあって、
かわいくてしょうがないと思っていた。
でも趣味が悪いとか
マニアックとか言われようと
誰にもわからなくてよかった。
むしろ誰にも気づいて欲しくなかった。
だけど講師が施した化粧のおかげで、
馬村フィルターを通したすずめが
全ての人間にさらけ出されたような気になって
馬村は気が気でなかった。
誰にも見せたくない!
とっさにそう思い、
すずめの手をひいて
どんどん歩く。
「馬村?!どうしたの?」
「帰るぞ。」
「えっうん。」
急に不機嫌になった気がして、
化粧が似合ってないのかな、
とすずめはガッカリした。