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GILIV-LT01. Abandoned ground

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そのまま戻ってこなかった」
 本来ならば民だけが使うはずの転送魔方陣を禍に逆に使われた事で、怪我人搬送先の医療テントや、
中央区の管制エリアにまでその被害が及び、更に戦闘要員の薄かったことが被害の数を拡大させたのだ。
「お二人は三禍孤児だったんですね」
 セキが、アンバーとオーカーに視線を向けながら、呟いた。オーカーが頷く。
「うん。お父さんも、お母さんも、三禍の後しばらくしてアカウントの消滅と死亡通知が届いて、
……お墓もあるんだ。たまにお参りに行くんだよ、僕たち」
「……三禍孤児には、戦災手当てがあったはずです。確か、受け入れ先も」
「俺達もさ」
 セキの言葉をさえぎり、アンバーが独り言のように呟く。
「中央区の親戚から、引っ越してくるように言われてんだけど、なんか、ここ離れがたくってさ。
ほら、二人の墓もあるし、ずっと、暮らしてた土地だし……」
「兄ちゃん……」
「本当に……なんでこんな事になっちまったんだろって、思うよ」
「そうだな……すまない」
 はは、と乾いた笑いを浮かべたアンバーに、ジャウロがポツリと言葉を漏らす。
 ノアが成り行きを見守るように、うつむき表情の隠れたその顔を眺めた。
「あはは、なんでジャウロが謝るんだよ。そりゃあ同じ子族だけどさ、そいつの被害被ったのは同じじゃん。
悪いのは、三禍の戦いなんか始めやがったその長だって……」
「ロウが、しんだんだ」
「?」
 さえぎるようにポツリと呟かれた言葉に、アンバーはユニーを見返した。青い大きな目が重なる。
「ユニー、よせ」
 止めようとするジャウロの手をすり抜け、ユニーがアンバーの前に立つ。
今にも泣きそうに大きな瞳を揺らめかせ、言葉を続ける。
「ジャウロのシンユー。サイゴまでむらをまもってた。いもうとのシャオルも、サンカでずっとめがさめない。
……ジャウロもたくさんなくした。ジャウロのせいじゃないのに、たくさんなくしたんだ」
「……そっか。ごめんな。思い出させて」
 よしよしとその頭をなで、アンバーが困ったように微笑んだ。テーブルを見回す。
一呼吸置いて、わざとらしい位に叫ぶ。
「悪い! せっかくのメシなのに辛気臭くなっちゃったな! えっと、三禍から今まで旅してたって事は、
ここにくるまでに色々あったんだろ? 面白い旅の話とか、聞かせてくれよ!」
「はい! ユニあるぞあるぞ! きくか? きくか?」
 その空気にあわせるように、手を上げはしゃぐユニーに、オーカーが身を乗り出す。
「あ、僕聞きたい! お話して、ユニー!」
「面白かったらスープおかわりだぜー」
「わあい! じゃあとっておき! とっておきはなすぞ!」
「ユニー、あんまりはしゃぐと落っこちるぞ」
 ジャウロが苦笑する。どことなく力のないそれを見て、ノアが僅かに眉をひそめ、ため息をついた。


-----


「あのさ、ちょっといいか?」
 夕食の後、何か手伝うことはないかと、家の裏手で薪を作っていたジャウロの元へ、アンバーが声をかけた。
作業を一旦中断し、振り向く。
「ああ、どうした? 薪ならもう少しで……」
「いや、違うんだ」
 声が僅かに硬い。その違和感に眉をひそめつつ、ジャウロは言葉の続きを待つ。
「俺に、/slingで剣を出すやり方を教えて欲しいんだ」
「!」
 /slingは、石の武器を召喚する精製の術だ。石剣や石槍、矢じりを作り出すものもいる。
だが、精製を行うためには鍛錬が必要であり、レベルが低い者は只の投石にしかならない。
「剣を取って、どうするんだ?」
 そう問うジャウロの声は穏やかだったが、アンバーは、挑むように言葉を重ねた。
「俺、強くなりたいんだ。出来るだけ、早く」
 沈黙。表情が、何より如実に告げる事実を覆せるように、畳み掛けてアンバーは続ける。
「この先、今日みたいなことがまた起こるかもしれないしさ。頼むよ、ジャウロ。俺、強くなりたいんだ」
 ジャウロが、ひとつ息をついて持っていた薪割用の鉈を切り株に置いた。が、
「剣を、持っても」
 搾り出すように吐かれた言葉は、アンバーが願うものではなかった。
「守れないものもある。……中央に呼ばれてると言ってたな」
 ジャウロがアンバーを見る。問いには頷きつつも、納得のいかない様子で目を逸らすアンバーに、
ジャウロは言葉を続けた。
「三禍以降、通常のゲートでは中央区に行くには1〜5までのゲートを順に通って行かなくてはいけない。
でも、そういう事情なら直通のゲートが特別に用意されていたはずだ。今からでも迎えに来てもらって、
二人で中央に移った方が」
「嫌だ!」
「……」
 闇を割くように、大声が響く。それでもまったく動揺を見せないジャウロを睨み付け、アンバーは更に叫ぶ。
「そんなの、逃げじゃないか! 俺は、強く……」
「剣だけじゃ」
 もう一度、静かに声は響く。ゆっくりと、何かを噛み締めるように深く。
「守れないんだ」
 それでも諦めきれないアンバーは、ジャウロに詰め寄り、その上着の裾を掴んだ。
薄汚れた埃の匂いが僅かに鼻につく。
「三禍の戦いの途中で、中央の姫様は攫われたんだろ!? またあんな戦いがあったら?
中央だって安全じゃない!」
 振りほどこうとはせずに、ジャウロは黙ってなすがままに聞いていた。
そんな様子に、苛つきを隠そうともせずにアンバーが叫ぶ。
「強くなんなきゃいけないんだ! どんなやつでもぶっ倒せるように。
……父さんも母さんも死んで、俺達を守ってくれる人はもういない!」
「……」
「もう、いいよ!」
 癇癪を起こした小さな子供のように腕を払い、アンバーはジャウロに背を向けた。
ジャウロの手が一度伸ばされ、届く前に諦めたように下ろされる。
 一度だけ立ち止まり、アンバーがぽつりと呟いた。
「あんた達だって、いなくなっちまうじゃないか」
 遠ざかる足音を聞きながら、ジャウロは地面に視線を落とし、独白のようにうめいた。
バンテージを巻いた手を握り締め、目を閉じる。
「……剣、だけじゃ」
 ぽたりと落ちるのは赤だった。指の隙間から流れたそれが、地面を僅かに染める。
「守れなかったんだ」
 月が隠れ一瞬だけ完全な闇になる。あざ笑うような強い一陣の風が、一人残された戦士の傍を通り過ぎた。

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 一時訪れた全くの暗闇に剣を止め、ノアは後ろを振り向いた。
「誰だ?」
 声と共に、剣を軽く凪ぐ。空気を切る音がした。がさがさと、茂みの中からアンバーが姿を見せる。
「……」
「どうした? 喧嘩でもしたか」
 聞けば、恨みがましい目でアンバーがこちらを見た。
「聞いてたんだ」
 非難を含んだ口調にフンと鼻を鳴らし、ノアはやれやれとため息混じりに言葉を次ぐ。
「あれだけ大声だと嫌でも聞こえるさ」
「……そうやって」
 アンバーの目線が、ノアの鉄剣へと注がれる。黒い細身の刃が月明かりを受け、鈍く輝いていた。
「あんた達は戦ってるじゃないか。どうして俺は駄目なんだよ」
「……僕も、教えないぞ」
 面倒だからな。そう言って、ノアはまた剣を振り始める。空を凪ぐ音だけがしばらくあたりに響き、
やがてアンバーがゆっくりと口を開いた。