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GILIV-LT01. Abandoned ground

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「別に。俺は/slingの剣の作り方が知りたいんだ。ノアの剣、それ、鉄だろ」
「ああ、それじゃ無理だな。僕はそっちは矢精製専門だ」
 一際大きく弧を描いた後、ノアが鉄剣を収めた。うっすらと滲んだ汗をぬぐう横顔に、アンバーが問う。
「ノアは、弓手なのか?」
「本業は。別に剣の腕が劣っているとは思わないが」
「アーチャーなのに、剣を持つのか?」
「……僕の村は、男は剣、女は弓と決まってるんだ。女は村の守り手だから、外には出られない。
旅に出るなんて絶対許されない」
 だから、とノアは独白のように続けた。射る目線の先は遠い。
「だから僕は「女」を捨てた」
「それで、剣を? どうして?」
 僅かに考えた後、ノアは近くの木に身体を寄りかからせ、口を開いた。気まぐれに風が通り過ぎ、髪を揺らす。
「三禍の前にも、悲惨な戦いがあった。今から二年前の話だ。そう昔の事でもない」
 被害の数はそれほどでもないから、あまり話題にはなってないがな。と、ノアが自嘲気味に笑った。
「僕の村のすぐ近くで、膜翅の禍……蜂共が大量発生した。それ自体は珍しいことじゃない。
だいたい森の禍は本来厭世戦型だ。無理につついて無駄な血を流すよりは放って置いた方がいい。だが……」
 その年は異常だった。森から溢れかえる禍。そして、厭戦型のはずの彼らがついに無差別に民を襲い始めた。
 こうなれば、手をこまねいて殺されるのを待つわけにはいかない。
急遽討伐隊が編成され、その中に、ノアの兄もいた。
「僕はその戦いで兄を失った。……ひどい戦いだった」
 編成された七つの隊のうち、生還者が存在したのは半分以下。
中でも、一番の精鋭だったはずのノアの兄の部隊は、誰一人「まともな死体」としてすら、発見されなかった。
 百を越えるであろう、太く地面へ突き刺さった針が、手を、腕を、頭を、体中を貫き、
その遺体を執拗なほど地へ縫いとめていた。
「蹂躙された兄の死体を見て、僕は、必ず復讐すると誓った。どれだけ時間がかかっても、
あんな風に兄の死体を辱め、
踏みにじった奴を、この手で見つけ出して、必ず殺すと。……そのためには、どんな犠牲も厭わない!」
 どん、と木に拳を打ち、ノアが呻くようにそう吐き出した。隠さない殺意の残る目に睨まれ、
思わずアンバーは後ずさる。ノアが口を開く。
「例えば、お前がもしどうしても両親の敵を討ちたいというなら、僕は別に止めはしない。剣を取り、戦えばいい」
 だが、と、ノアは腰の剣を抜く。すらりと黒く鈍い色で刃が光る。
「だが、一度剣を取れば後戻りは出来ない。守りきるか、あるいは、全てを犠牲にして剣を振り続けるか」
 剣を横に構え、ノアがアンバーを見た。黒い刃に、アンバーの影が映りこむ。
「いずれにせよ修羅の道。お前にその覚悟はあるか?」
「俺は……」
「ただ闇雲に力を欲しても意味はない。お前が力を求める理由はなんだ?」
「そ、そんなの……」
 だが、次の言葉を次げないアンバーに、ノアは少しだけ表情を和らげて、剣を下ろした。
「一度良く考えてみるといい。その理由を」
 刃を鞘に納め、ため息をつく。雲に阻まれまだらに輝く月を仰ぎ、ノアは言葉を続けた。
「ジャウロはあれで、ちゃんと持ってる。……僕から言わせてもらえばつまらない自己犠牲に過ぎないけどな」
「……力を求める、理由」
 もう遅い。僕も休ませてもらう。と、ノアがくるりときびすを返す。
 表情を固めたまま、アンバーもその後に続いた。


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「起きてるか?」
 そう言って、小さく叩かれた扉を見やり、ジャウロは応えを返した。
「ああ。どうした? ノア」
「少し」
 少し話が。と、扉が開き、先で黒色の目がジャウロを映す。
 ジャウロがベッドの端に身をよけたが、ノアは隣には座らず、鏡台の椅子へと腰を下ろす。
「夕食に、アンバーが言っていたことを気にしているのか?」
「……」
 沈んだ表情と沈黙は、同意を示していた。ジャウロが目を伏せたまま、小さく呟く。
「俺が、もし、もっとうまく、あの戦場を把握できていたら」
「ジャウロ!」
 その言葉をさえぎり、がたりとノアが椅子を引いて立ち上がる。険しい表情で、ジャウロを睨んだ。
「もしも、あれが本当に「何かのミス」で起こってしまった敗戦だとしても」
 思い出すのは、むせ返るほどの血の匂い。ほんの数時間前まで、共に言葉を交わした者が、
次々にただの躯に変わる恐怖。喪失。だが、それは、
「それは、本来戦ったもの全てが負うべき傷だ」
 ジャウロがはっとした表情でノアを見上げる。目は逸らさずに、ノアが眉根をひそめて言葉を続けた。
「なす術がなかった」
 己の無力さを悔やむように、ぎりと奥歯を噛み、吐き出すように続ける。
「中央は双姫の片割れを失ったことで未だ混乱が続いている。サーバー1全体を巻き込んだ
あの爆発の正体も不明だし、僕達が束になっても叶わない未知の敵や、三禍の魔物の存在もある。
……今は、お前ただ一人の責とすることで、不安や不満の矛先を集約し、どうにか平静を保っている。
だが、これだけは覚えておけ」
 そこで一旦言葉を切り、ノアはぱしりと言い切った。
「あの戦いに参加した誰も、あの惨禍がお前一人のせいだなんて思っちゃいない」
「!」
 ジャウロの表情が目に見えて歪む。応えを返そうとするジャウロに、ノアは言葉をさえぎって次いだ。
「お前が潰されてどうする。作られた罪に捕らわれて、過剰な自己犠牲なんかされるとこっちが迷惑なんだ!」
 がたりと乱暴に椅子を戻し、ノアはきびすを返す。
「話はそれだけだ。じゃあな」
「あ……ノア!」
 躊躇いがちに投げかけられた呼び声に、扉の前で足を止めノアは振り向いた。
「なんだ?」
「ありがとう」
「!」
 ジャウロの言葉に、ノアが口をへの字に曲げる。
「わざわざ、心配してくれて」
「勘違いするな! 僕は、僕の弱さを他人に背負われるのが嫌なだけだ!
……僕が負けるなら、それは僕の責任だ。お前が何をしようが関係ない」
 機嫌を損ねたようにそっぽを向いたまま、そう早口で言い切るノアに苦笑して、ジャウロが応えを告げた。
「うん、でも、ありがとう。……仲間が」
 古びた床に視線を落とし、苦笑いのまま、小さく呟く。
「いてくれて、良かった」
「そう思うなら、その過度の自虐と自己犠牲をどうにかしろ。お前一人が戦ってるんじゃない」
 扉を閉める直前、聞こえるか聞こえないかの小ささで、ノアがぽつりと呟いた。
「……お前は、優しすぎるんだ」


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「何言ってんだ!」
 まだ早朝の家の中から、怒鳴り声が響いてきた。そのあまりの剣幕に、近くの木々に留まっていた小鳥が、
バタバタと空へ散る。
「何馬鹿なこと言ってんだよ!!」
 声、の主は、アンバーだった。見守るジャウロたちを気にする様子もなく、だん、とテーブルに手を叩きつけ、
向き合うオーカーを睨む。
「だって、兄ちゃん昨日、禍に襲われたんでしょ?」
「だからって! 父さんと母さんの眠るこの場所を離れるってのかよ!?」
 対峙するオーカーは眉を下げ、今にも泣き出しそうな表情でユニーを腕に抱きしめている。
「でも、兄ちゃん……また、禍が来たら」