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GILIV-LT01. Abandoned ground

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「戦うさ! それで、勝つ。強くなればいい」
 再び叩かれたテーブルにびくりと肩を震わせ、でも、とオーカーは声を次ぐ。
「でも、、兄ちゃ……」
「わかったよ」
 その言葉にほっと息を出したのもつかの間、きっと睨みつけられ、オーカーは今度こそ涙を滲ませた。
「そんなにここにいるのが嫌なら、一人で中央でもどこでも行け!」
「や、やだよ! 兄ちゃんも一緒に行かなきゃやだ!」
 慌ててそう叫ぶオーカーに、真っ直ぐ睨みつけてアンバーが叫ぶ。
「俺はここを離れない! 行くなら一人だ!」
「う……うっ、う〜っ」
 心配そうにユニーがその頬を撫でる。既にぽろぽろと零れてしまった涙が小さな手に拭われ、
それでも間に合わずに床に落ちた。
「兄ちゃんの、ばか!」
 言って、ユニーを抱いたまま、オーカーは部屋の奥へと走っていってしまう。
「オーカー!」
 ジャウロが呼びかけたが、帰ってきたのはばたんと閉められた扉の音だけだった。ノアがアンバーを見る。
「いいのか?」
「ほっとけよ! 俺は、謝らないからな……」

 部屋の中、布団をかぶって泣きじゃくるオーカーの肩に、そっとユニーが寄り添う。
「ううう〜……」
 よしよしと頭を撫でたが、しばらく泣き声は治まりそうにない。ユニーは黙って、その頭を撫で続けた。

「なぜ、そこまでこの場所にこだわるんだ?」
 ジャウロの言葉に、キッと目じりを上げ、アンバーが応えを返す。
「うるさいな! そりゃあ、戻る故郷もないあんたには……」
 瞬間、さすがにそれを失言と気づき、ばつの悪そうにきびすを返し、アンバーが玄関の外へ走っていく。
「〜〜っ!!」
「アンバー!!」
 追いかけ、出て行ったジャウロの背を眺め、先程から沈黙を守っていたセキがやれやれとため息をついた。
「旦那って、余計なことに首を突っ込みたがる人ですよね」
 同意するようにノアがその隣に並び、頭を掻く。
「その割に自分の事に関しては一人で抱え込むけどな」
 その言葉に僅かに目を細め、セキはノアを見上げた。
「お嬢……」
「ん?」
「ホレたんですか?」
「馬鹿言うな」
 心底うんざりとした目でノアにそう返され、ですよねえと言ってセキは壁に身を預けた。


-----


 昨夜と同じ、家の裏手口。薪割り用の切り株に座り込むアンバーに、ジャウロはゆっくりと歩み寄る。
「アンバー……」
「俺だって」
 呟かれた言葉にそこで一旦足を止め、俯いて表情の見えないその横顔を見た。言葉が続く。
「俺だって、中央に引っ越すのが一番良いって分かってる。でも……」
「理由が、あるのか」
 問えば、しばらくの沈黙の後、ある、と応えが返された。
「……父さんと母さんの墓には、何も入っていない。三禍の後、死体は戻らなかった」
「『フラスコの爆発』。1サーバーを全て消し去った黒の光」
 ジャウロが僅かに表情を硬く呟く。声を震えさせ、アンバーが続けた。
「でも、さ。でも、それって、もしかしたら、もしかしたらさ」
「どこかで生きてるかもしれないってことにならないか!?」
 振り向く。泣き笑いの奇妙な表情をたたえ、アンバーは同意を求めるようにジャウロを見た。
「アカウントも、何も、調べてもらっても何も見つからなくて、でもさ、死体が見つかったわけじゃない」
 一度首を振り、何かを払うようにした後、悲痛な面持ちでアンバーは続ける。
「もしかしたらどこかで生きてて、なんかの理由で戻って来れなくて、
でも、明日には元気で戻ってくるかもしれないじゃん! だから俺……」
「すまない」
 言葉はそこでさえぎられた。痛いほどではなく、けれどしっかりと抱きしめる腕を振り解けず、
アンバーは泣き出しそうな目を必死でこらえる。
「三禍の『フラスコ』で消えたのは、死体だけなんだ」
「!!!」
 滲んだ目が見開かれ、水分を含み揺らす。かたかたと両手の指の震えが止められない。
聞いてはいけないと思うのに、真実はさほど待ってはくれなかった。ジャウロが言葉を続ける。
「『フラスコの爆発』が起こった頃、既に三禍の被災者を含めて生存者の避難は全て完了していた。
中央のアカウント管理で確認されている」
 ただ、とジャウロが言葉を次いだ。抱きしめられる手に僅かに力がこもる。
「ただ、死体だけが、間に合わなかった」
「嘘だ……っ。そんなの、何で知って……」
 声が泣き出すのを止められない。途切れ途切れの言葉に、少しだけ時間を空け、ジャウロが応えを返した。
「居たんだ」
「俺はあそこに最後まで居たから」
 肩に手が置かれ、ゆっくりと、距離を離される。伝わるよう真っ直ぐにこちらを見た目を、
本当は逸らしたかったが、どうしても離せなかった。
「黒の光が辺りを包み、目の前で親友の躯は光の塵になって消えていった。周りの他の無数の死体も」
そこで一旦途切れる。搾り出すような声が、一息ついて紡がれた。
「何も残らなかった」
「う……」
 視界が滲む。最後まで寄りかかっていたひとかけらが、がらりと崩れ、それ以上は保てなかった。
「うわあああああああああんっ」
 葬式で泣いた記憶はない。泣くものかと決めていた。こんな悪夢はすぐ覚める。はずだった。
だからずっと待っていた。……それが、何の根拠もない望みだったとしても。
「わあああああああああっ……なんで!? なんでこんな事……うあああああああんっっ!!!」
「……ごめん、アンバー」
 もはや意味を成さぬ悲鳴のような泣き声と、ばんばんと叩く腕を受け止めて、ジャウロが呟く。
 長らく押し込めていた悲しみはしばらく治まらずに、声は周囲に響いていた。

 乾き始めた涙の後をこすり、オーカーはぬくもり始めた布団の中で兄の声を聞いていた。
再び涙が一筋零れる。
 起き上がると、ユニーが心配そうにこちらを見た。大丈夫、と微笑んで胸に抱きとめる。
ごめんね、大丈夫だよ。
 アンバーの泣き声は続いている。もう少しだけ零れてしまった涙を手で拭い、オーカーはベッドを出た。


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「本当は、」
 力なく切り株に腰を下ろしたまま、ぽつりとアンバーが呟いた。涙の跡の残る両目が赤い。
「薄々分かってはいたんだ。でもさ、やっぱ、そんな急にパッて死んじゃって、墓だけ、建ってもさ、
信じたくなんかなくて」
 少しだけ笑い、また地面に視線を戻す。目を閉じ、吐き出すように続けた。
「俺、駄目な兄貴だな。我侭言ってたのは俺の方なのに」
「そんな事ないさ」
 ぽんと軽くその頭に手を置き、ジャウロが応えを返した。
「親代わりにちゃんと弟の面倒を見て、守ろうと頑張ってる」
「……うん」
 そういえばこんな風に誰かに頭を撫でてもらったのはいつ振りだったろうと、
アンバーはぼんやりと傷だらけの腕を眺めた。両親が死んでから、随分と強がりばかりを重ねていたと思う。
「ジャウロ、俺さ、オーカーと中央に行くよ」
 その言葉は、自然と口をついた。自分でも不思議だったほど、するりと、アンバー自身が納得をしていた。
「……そうか」
 ジャウロは短くそれだけ返す。手を離し、アンバーの座る傍ら、地面に座り込む。
「やっぱ昨日みたいなことがあると危険だし。……今の俺の力じゃ、オーカーはもちろん、自分さえ守れない」