ずっと一緒に…
「お食事中、ご歓談中の皆さん。」
とふいにマイクで呼びかけるのは
大輝の兄だった。
「今から大輝とすずめさんが、
皆さんひとりひとりに引き出物を
お渡しに回ります。」
「普通、引き出物は出席者同じものですが、
自分たちがこうして幸せな結婚ができるのは
みなさんのおかげだから、
どうしてもそれぞれの顔を思い浮かべて
記念の品を選びたいということで、
みんな中身が違います。」
「というわけで、人のを間違って
もって帰らないようご注意ください。
それから大きさもみんな違うので
あっちの方がでかいとか思わぬよう
くれぐれもよろしくお願いします。」
会場が沸いた。
「みんなひとりひとり違うの?」
「すごい!選ぶの大変だったろうね。」
「でも大丈夫かぁ?与謝野の趣味だぞ?」
壁際で密かに同じことを思っていたのは
獅子尾だった。
過去に寿司柄のネクタイをもらったことがある。
「ご心配の方にひとつ。
プレゼント選びにはすずめさんの
友人、猫田ゆゆかさんの多大なる
協力がございましたので、
え~~大丈夫かと。」
ワッと笑いが起こる。
密かにみんなホッとしている。
「え…今のどういう意味?」
すずめが首をかしげる。
「……知らね。」
笑いながら大輝がつぶやく。
そして二人はひとつひとつ袋を持って、
参加者のところを回っていく。
「保男。きてくれてありがとう。」
保男はこんなに早く
すずめがお嫁に行くとは思わず
ショックを隠しきれなかった。
「うっうっすずめちゃあん。」
しかも相手はあの時の
塩顔アーバン男子!
東京に行ってすずめは
変わってしまったと嘆いていた。
「これさ、保男にいいかと思って。
よかったら使ってよ。」
と渡されたのは毛糸の帽子と長靴だった。
「おばちゃんにもよろしく伝えて。
実家に帰ったときは
カレーよろしくね。」
帽子は手作りらしかった。
「変わってない…か。」
保男は嬉しいような悔しいような
複雑な気持ちだった。
みんなのところに行って、
最後に獅子尾先生のところまで来た。
「先生、来てくれて
ありがとうございます。」
「おめでとう。二人とも。」
昔同じことを言われたときは
胸がズキズキしたけれど、
もうズキっとしない。
年月が経ったんだなぁと
すずめは思った。
「あの、これ。。。」
「なんだぁ?また寿司柄か?」
獅子尾が笑いながら尋ねる。
高校時代を思い出して
大輝がちょっとムッとする。
「いやもう、さすがにそれは…」
すずめが焦る。
「これ、ジッポ?」
「もう持ってるかと思ったけど
やっぱり先生はこれかと…」
「…てゆーか、曹操とかって
書いてあるんだけど??」
「あっはい。先生、三国志好きだし、
ジッポだし、いいかと思って…」
三国志バージョンのジッポだった。
寿司柄ネクタイと同レベル?!
大輝が横を向いて、
必死で笑いをこらえていた。
獅子尾は大輝のほうをじとっと見る。
「この選択に猫田のアドバイスが?」
「いやっゆゆかちゃんは、
先生のは自分で選べというので
一人で買いに行ったんですけど…
ダメでした?」
「えっいや~違う違う。
ありがとう。使わせてもらうよ。」
すずめはホッとした。
微妙な表情の獅子尾に気づかずに。
「じゃあ、先生、最後まで
楽しんでくださいね。」
「ああ、幸せにな。馬村も。」
すずめと大輝が移動しようとするところで
大輝が振り返り、「オイ!」と獅子尾を呼んだ。
獅子尾が大輝のほうを見ると、
大輝が中指を立てて、
舌を出して笑った。
「アイツッ!!馬村!」
仮にも俺は元担任で、年上で!
ブツブツ言っていると、
つぼみが近づいて、
「完全にやられちゃったわね。」
と言った。
「モブは完全にオレのほうだったなぁ。」
「五月!今日は飲み、付き合うよ!」
「ハハ、ありがとうございます…」
獅子尾は乾いた笑いを浮かべて
貰ったジッポを眺めながら
煙草を一本吸った。