ずっと一緒に…
「さて、宴もたけなわ、
ここで新郎大輝から、みなさんに
一言あいさつをさせてください。」
パチパチと拍手がおこり、
シンッとカフェ内が静まり返った。
「えっと、あの、オレ…こういうの苦手で
うまく言えるかわかんね、、ないですけど、
今日は俺とすずめの結婚を
こんなに祝ってもらって
ありがとうございます。
俺の母は小さい頃に家を出て、
それ以来、俺は女の人が苦手で、
それで余計親父も苦しんでるって
わかってたんですけど、
どうしようもなくて、
女の人に優しくもできなくて、
そんなときにすずめが
同じクラスに転校してきて、
どんなに冷たくしても
友達になれだの、言われたら傷つくだの、
こっちの気も知らないで
勝手なことばっかり言いやがって
と思ってたんですけど、
なんかいつの間にか
すずめのペースに巻き込まれてて…」
ゆゆかが、大きく首を縦に振って
うん、うん、とうなずいている。
「気づいた時には、もうどうしようもなく
大切な存在になっていました。」
獅子尾はじっと馬村のほうを見つめていた。
「ただ不器用な自分だけだったら
すずめを大事にしたくても
ちゃんとできなかったと思うので、
この場にいる皆さんに改めて
感謝の気持ちを伝えたいと思います。
父さん、犬飼、猿丸、それから
すずめの友人達、すずめのお父さん、お母さん、
そしておじさん…
獅子尾…先生。
オレ達の周りではいろんな人が
オレ達を支え、助けてくれた。
色んなことがあったけど
本当にありがとう。」
大輝が深く頭を下げたので、
すずめも慌てて深く頭を下げた。
会場に参加してる誰もが
大輝の素直な気持ちに
感動していた。
「たぶん、、もう二度と言わねえし、
恥ずかしくて言えと言われても
言えないと思う。
でもこれがオレの気持ちなので…」
少し間が空いて、ザワザワと
どうしたんだ?という空気が流れる。
「オイ、すずめっ。交替!
なんかまとめろ!」
すずめが急なバトンタッチで
言葉を紡ぐ。
「あっえっあのですね………
私も大輝と同じ気持ちです。
何を返していけばいいかわからないくらい、
みんなに感謝しています。」
「父ちゃん、母ちゃん、
東京に出してくれてありがとう。
初めて言われたときはショックだったけど、
大輝や友達、かけがえのないものに
出会えることができました。」
「諭吉おじさん、東京に出てきてから
ずっとお世話してくれてありがとう。
悪い点をとって阿修羅化したおじさんは
本当に怖かったです。
でもおかげで留年せずに済みました。」
会場から笑いが起きる。
「ゆゆかちゃん、カメちゃん、ツルちゃん。
私をいつも支えてくれてありがとう。
ずっとずっと友達でいてください。」
「感謝の気持ちが伝えきれないので、
さっき渡したプレゼントの中に
ひとりひとりに手紙をつけています。
そちらも読んでくれると嬉しいです。」
「これから私は、馬村すずめとして
大輝の奥さんとして生きるわけですが、
たぶんまだまだ皆さんに支えていただかないと
ダメなところがあると思うので、
これからも夫婦ともども
よろしくお願いします。」
ふぅ、と大きな一息をつくと、
会場から大きな拍手が起こった。
「どう?まとまってた?」
すずめがドヤ顔で大輝を見る。
周りがドッと笑う。
「まとまってねーぞー!
チューしろ、チュー!」
猿丸の掛け声が会場を沸かせる。
式の時も人前は恥ずかしいからと
誓いのキスはしなかったのだ。
「えっいや、それはちょっと…。」
「猿丸!余計なこと言うんじゃねえ!」
と久々に大輝が真っ赤になっている。
「馬村ぁ!男でしょうが。
ここはひとつ見せつけて、
俺のもんだとしとくべきでしょ。」
カメちゃんが追い討ちをかける。
「そうそう、中途半端してると、
また盗られかねないわよ?
離婚なんて簡単にできるんだから。」
ゆゆかちゃんが縁起でもないことを言う。
「またって何??」
周囲がざわつく。
「は?猫田、てめぇ…」
ゆゆかちゃんは舌を出して
そ知らぬ顔をしている。
大輝があきらめたように
すぅ、と息を吸う。
「すずめ、やるぞ。」
「は?」
とすずめが聞き返した瞬間、
大輝の唇が、すずめのそれを塞いだ。
「これで文句ねぇだろ?」
「もうどこにもやんねえぞ!」
ワーーーッと会場が沸いて、
ヒューヒューと口笛が鳴る。
大輝も、そしてすずめも真っ赤だった。
熱が出そう…すずめは思った。
隅でショックを受けている
保男とすずめ父。
獅子尾はもう覚悟を決めていたのか
仕方ないなと笑っていた。
こうして大騒ぎのまま、
パーティーはお開きとなった。