うそついてごめんね
「おっはよー、庄左ヱ門!
忍術学園に到着した伊助は忍たま長屋の自室で先に登校して待っているであろうクラスメイトに向かって挨拶した。
やはり同室は既に着替えを済ませ、机に向かい書き物をしていた。
「……。
「あれ?
こちらに背を向けている庄左ヱ門から返事はなかった。
余程集中しているのかと思い、伊助は庄左ヱ門の背後から机の書き物を覗き込んだ。
庄左ヱ門は筆を握っていたが、机に置かれている紙には何も書かれていなかった。
しかも墨すら用意していないので、これでは何も書けない。
「庄左ヱ門?
「…、はっ!伊助っ!?
肩に手を置いて声をかけたらようやく気付いて、弾かれたように振り返った。
そして伊助は見逃さなかった。
庄左ヱ門が振り返る直前の
表情を。
「お、おはよう…。
「おはよ。何か辛いことでもあったの?
ギクリと触れている肩が揺れた。
それは普通なら気のせいで片付けられてしまいそうな、ほんの僅かな動揺。
他人から隠そうとして、抑え込んだ証。
「う~ん。辛いってわけじゃないんだけど……。
視線を敢えて合わせてくる。
おかしい。
「学級委員長の仕事?
「うん。まあ…そうだね。
ウソだな。
でも、
(庄左ヱ門、すごく辛そう。
伊助が聞き出そうとすればするほど、庄左ヱ門は「何か」をひた隠し、傷付いていくように思えた。
庄左ヱ門の為にと思ったが、これでは逆効果だ。
賢い同室には、弱みを見せまいとするところを何とかしてほしい。
(登校日で、クラスのことで悩んでないとすると…考えられるのは……。
「ねえ庄左ヱ門。今朝は誰と登校したの?
「えっ…?
こうなれば周囲から攻めてみよう。
情報収集も忍者の大切な仕事の一つだ。
ところが、この質問が思わぬ誤算を生んだ。
「……。
庄左ヱ門の動きが止まった、いや
泣きそうな表情を浮かべていた。
これは、
(一緒に登校したやつが、庄左ヱ門を……?
「庄ちゃん?
「団蔵だよ。ぼくは学園長先生に呼ばれたから、来てすぐ別れた、んだけど…。
(団蔵ね…。
「そういえばさ伊助。ちょっと学級委員長の仕事、手伝ってくれない?新学期早々仕事いっぱい振られちゃって!
「ふぇ…?あ、うん。何?
「まずマラソン大会。日程は聞かされてないんだけどクラス対抗で選抜メンバー五人選ばなきゃならなくて。その後は委員会対抗……。
庄左ヱ門は突然話を切り替え、完全に学級委員長モードに入った。
こうなるともう彼の言動はぶれない。
どこにも隙を作らず庄左ヱ門のペースに乗せられた。
(学級委員長の仕事が辛いのも…強ちウソじゃないのかも…。
しかしあの庄左ヱ門の反応は明らかに何かあった。
都合のよいことに今日の夕食当番は団蔵と一緒だ。
その時に聞き出そう。
団蔵が、何故庄左ヱ門を傷付けたのかを。