トラウマスイッチ
その頃すずめは…
リビングのドアの外で
入るには入れず立っていた。
バン!とドアが開いて、
「何やってんだよ。」
と大輝が出てきた。
「あ…えと、空気読んでました…」
「覗きかよ!」
大輝が笑って言った。
すずめは大輝の笑顔が嬉しくて、
「あのね、ほら!いい海老があってね。
それから貝柱!奮発してしまったよ。」
興奮気味に話し始めた。
「貝柱ぁ?グラタンには
もったいねーな。」
「フフ、いいんじゃない。
グラタン、大輝好きでしょう?」
大輝の母は、
微笑ましい二人のやりとりを見て
ニコニコしていた。
「でしょう?
お義母さん、座っててください。
私、おじさん直伝のすっごいの
作りますから!」
「あら、私すずめさんと作りたいわ。
お嫁さんと台所に立つの、夢だったの。
一緒に作りましょ?」
すずめは一瞬大輝の顔を見ると、
「勝手にすれば?」
と後ろを向かれる。
大輝の耳が赤い。
「大輝、嬉しいみたいです!」
とすずめが言うと、
「ちょっ!言ってねぇし!」
と大輝の怒号が飛ぶ。
大輝の母を囲んだ食事は
ぎこちなくも嬉しくて、
大輝が子どもの顔になっているのが
なんか不思議で、
高校時代の話とか、
つぼみさんが作ってくれた
結婚式の写真集を見せながら
どんな結婚式だったとか、
横で大輝が慌てていたけれど
大輝とお義母さんが
会えなかった15年を
埋め合わせるような
濃い時間を過ごした。
「ありがとう。すずめさん。
すごく楽しかったわ。」
「いえ…また来てください。
今度は大輝の小さい頃のこと
聞きたいし。」
「聞かなくていい。」
「いたっ!」
ゴツっと大輝に頭を小突かれる。
「大輝…ありがとう。」
母が言うと、
「ん…大地にも会ってやって。」
「大地にはもう会ったのよ。」
「えっ」
「大輝がすずめさんにメロメロだって
ずっと聞いてたわ。」
「大地っアイツ、コロス!!」
耳まで真っ赤になっている。
「幸せなのね…本当によかった。」
「オレは親父達みたいな失敗しねぇ。」
「言うわね。」
クスクス笑って
大輝の母は帰っていった。
よかった…本当によかった!
大輝の顔を覗き見ると、
それに気づいた大輝に
グーッと顔を背けさせられた。