Ich liebe dich
「何故私まで日本に行かなければならないのですか!?」
オーストリアはポコポコと怒りながらドイツに当たり散らした。
今は日本に遊びに行く気分ではない。むしろ、外にも出たくないのだ。
「遊びに行くのではないと先程から言っているだろう・・・。上司命令なのだ・・・。」
やれやれ、とドイツは怒るオーストリアを諫めながら言った。
無論、上司命令などではなく、日本のよく分からない計画―――「ラブラブ作戦」の一環である。
「しかし、それならドイツだけで十分でしょう!私までついて行かなくても・・・。」
よほど外に出たくないらしい。しかし、ついてきてくれなくては何も始まらないのだ。
それに、オタクモード全開の今の日本に怒られるのはドイツであったとしても怖い。
「ああ・・・ほら、あれだ・・・。兄さんとお前を二人にすると喧嘩するだろう。・・・・・・だからだ。俺がいないと仲裁に入るものもいないからな。」
昔から因縁のあるオーストリアとプロイセンは、三人で同居することになってから、毎日のように喧嘩をしていた。
そして、毎日のようにドイツがそれを止めていたのである。
オーストリアも、プロイセンと二人という状況を想像して、ようやく観念する。
「うっ・・・・・・・・・・・・。わかりました・・・・・・・・。プロイセンと二人でいるなら、日本に行った方が100倍ましですね・・・。」
こうしてドイツとオーストリアは日本に向け出発した。
なんとかオーストリアを日本につれてくることが出来たドイツは胸をなでおろしたのだった。
「あー。こちらドイツ。日本、イタリア、聞こえるか?オーストリアとこれからそちらへ向かう。ほぼ予定通りだ。」
自宅にいる日本と、何も任務を与えられなかったイタリアに連絡をとる。
日本も日本で、現地で準備があるようだ。
「ドイツさん。聞こえますよ。こちらも予定通りです。引き続き作戦を続けて下さい。」
ドイツとの連絡が終わると、イタリアがヴェーーと駆け寄ってくる。
「ねぇ。日本〜。オーストリアさんは予定通りこっちに向かってるけど、ハンガリーさんはどうするの〜?」
ハンガリーの方は独立やら何やらで、今は忙しかったような気がする。
イタリアは、俺つれてきてって頼まれたっけ〜?と首をかしげた。
しかし日本は、簡単なことですよ。と携帯(らくらくフォン)を取り出して、迷いもせずにハンガリーに電話をかけた。
RRRRRRRRRR・・・
「もしもし、ハンガリーさんですか?日本です。お久しぶりです。・・・夏コミの新刊について打ち合わせしたいのですが・・・・・・・・・ハイ。はい、そうです。私の家で。・・・・はい。お待ちしていますね〜。」
受話器の向こうから、ハンガリーの興奮した声と、おそらく彼女の、急いで支度をする音が聞こえた。
「ああ、イタリア君。ハンガリーさん、明日にはお着きになるそうですよ。」
ふふふ、と微笑う日本に、イタリアは始めて恐怖を覚えたのだった・・・。
―――次の日―――
夏コミ新刊のために日本の家に来たハンガリーは、何故かイタリア、ドイツ、オーストリアの面々が集まっていることに驚いた。
オーストリアは逢いたいと願っていた相手が目の前にいることに嬉しくなる。
しかし、何を話せば良いのか、どう接すれば良いのか分からなくなっていた。
「オーストリアさん・・・。」
「ハンガリー、久しぶりですね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「はい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。すみません・・・・・。失礼します。」
結局対した会話もせず、オーストリアは用意された客室に戻ってしまった。
(最近逢いに行ってなかったから、オーストリアさん怒ってるのかも・・・。)
しかも日本に来たのはオーストリアのためではなく、夏コミの新刊のためなのだ。
怒っていてもしょうがない。
ハンガリーはしょんぼりと肩を落とした。
近くでその光景を見ていた枢軸は小声で作戦会議をし始める。
「どうしよ〜!日本〜。二人とも何にも喋らないよ〜。」
「あれほど逢いたがっていた筈なのに・・・。何故だ・・・?」
不安がるイタリア、ドイツをよそに日本は一人ニコニコと微笑んでいる。
「あれでいいんですよ。いよいよギャルゲっぽくなってきましたね・・・。さぁ二人とも、次のプランを始めますよ!」
オーストリアを元気付けるための作戦なのに、日本が一番イキイキしている・・・・・・。
ドイツとイタリアは、ふとそんなことを考えたが、怖くて口に出来るはずも無かった・・・。
「オーストリアさん、日本がお風呂の準備ができました、だって〜。えっと、疲れを取るのにお風呂に入ってください、って言ってたよ〜。」
イタリアは客室で一人悶々としているオーストリアに話しかけた。
日本が考えたセリフを間違えないように、間違えないように、と念じながら。
「イタリア・・・・・・。」
「えっと、日本の家のお風呂はすっごく大きくて、ろてんぶろ・・・・・・?があって、だから、すごいんであります!」
日本にこう言うように、と言われたセリフはもうよく覚えていない。
しかし、以前日本の家で入ったお風呂に、イタリアは感動したことがある。
「何が言いたいのか分かりませんよ。イタリア。・・・・・しかし、日本の露天風呂というのは少し気になりますね・・・。あなた達は入らないのですか?」
ちょっぴりギクッとして、日本の言っていたことを思い出しながら、続ける。
「わたしたちはあとから入りますので・・・、えっと、なんだっけ・・・?」
「お客人には、一番風呂に入っていただくのが我が国の礼儀です、と言っていたぞ。」
あとから来たドイツが補足する。セリフを忘れてオドオドしていたイタリアは途端に元気になる。
「だから、いちばんぶろ・・・?に入って下さい!オーストリアさん〜。」
そこまで勧めるのなら・・・とオーストリアも立ち上がる。
「日本に、お先に失礼します、と伝えておいてください。」
浴場に向かうオーストリアを見て、イタリアはドイツに親指を立てて合図をするのだった。
露天風呂はとても気持ちがよかった。お湯につかる、という習慣がないオーストリアは少々戸惑いはしたものの、一度入ってしまえばそんなことは気にも留めなくなった。
(メガネを持ってくれば良かったかもしれませんね・・・。)
普段メガネをかけているオーストリアは、入浴の時は当然メガネを外す。
しかし、露天風呂の周りはオーストリアの見たことが無い植物で囲まれていて、とても美しかった。
メガネが無くても多少は見えるが、あったほうがきっと更に美しく見えただろう。
(これが、日本の“風情”というものなのでしょうか・・・。)
そんなことを考えていたら後ろの方から物音が聞こえた。
(そういえば、イタリアとドイツも後から入ると言ってましたね。)
「あなた達も来たのですか。とても気持ちが良いですよ。」
ドアの開く音に、振り返ってみると何故かハンガリーが居た。
作品名:Ich liebe dich 作家名:ずーか