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オトナダケノモノ

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7.
 庭先に植えられていたアーモンドの花が、朝の凛とした空気に誘われて、蕾を緩め、ぽつりぽつりと花開かせていた。腰掛けにちょうどいい岩椅子には数羽の小鳥が戯れ、囀っているのをシャカは窓から眺める。すこし冷えた心地よい風が開け放った窓から迷いこんで、シャカを撫でる。薫風にすっきりと頭の中は冴えわたり、シャカは朝食後のひと時を堪能していた。

「これでは謹慎にならぬな」

 ふっと小さくシャカは笑いながら、窓枠に腕を枕に顔を乗せくつろぐ。じつは、ただいまアイオロスとの一件でみっちりと謹慎中のシャカなのである。
 あの時、正直なところシャカはアイオロスと手合せできるということを喜んでいたのだろう。けれども余力は少なく、最低な状態。結果、シャカが決断したことは―――。

「シャカ、出かける準備はできたのか……ってまだ、寝起きのままじゃないか」

 あきれたように声をかけてきたのはサガである。サガもまたシャカ同様に謹慎中の身である。とばっちりなのか、元凶なのか微妙なところであるが。

「少し休憩していただけだが。支度が早すぎるのだよ、サガは」

 もそもそとシャカが窓から離れる。晴れた空の色をした瞳をサガに向けるとサガはあきれ顔を作りながらも微笑した。サガの「早く支度しておいで」という声を聞きながら、自室とした部屋へとシャカは向かった。
 アイオロスとのあの瞬間、シャカが最後の手段とばかりにとった行動は開眼したこと。
 ありったけの小宇宙でアイオロスにぶつかった。結果、アイオロスは多少手加減するつもりだったのだろうが、急きょ変更、真剣モードとなり、そんなぶつかり合いをサガもまた黙って指を咥えてみているわけなどなく、三者の小宇宙が一度に爆ぜたわけである。
 実力者ふたりと、プラス未知数の小宇宙は軽く、人馬宮を木端微塵に破壊するに至った。イコール、教皇はおかんむりという、わかりやすい事態とあいなったわけである。

『おまえたち若造にはまだまだ任せられぬわ!!』

 捨て台詞を吐きながら、下された罰は人馬宮を破壊した三人の当面の地位はく奪と謹慎。と、いっても毎日教皇宮に登庁させられ、事務処理をさせられる。追加事項として、アイオロスは自分で自分の宮を修理し、聖闘士たちの訓練相手をすること。
 シャカは閉眼・修業禁止でサガの監視のもと「普通の生活」の送り方を学ぶこと、そしてサガはシャカの世話をしつつ、雑用を押し付けられるというよくわからない懲罰を受ける羽目になった。
 そして次期教皇の話もスッパリと消えてなくなった。教皇曰く、「まだまだわしは現役である」ということで。ほんとうに人騒がせなのはあなたの方だとシャカは教皇に言ってやりたかったが。
 そして、シャカは考える。あの騒動直後のアイオロスとサガのやり取りの意味を。

『―――もう、いっぱしの聖闘士じゃあないか、シャカ。なぁ、サガ。おまえもわかっただろう?シャカの成長を。子ども扱いするだけじゃなくて、大人として接していけば?自分の気持ちを騙したまま、逃げてないでさ、ちゃんと向き合って、答えを出せよ』

 見通しのよくなった人馬宮で天を仰ぎ見たアイオロスはいつも通り破顔してサガに告げた。サガは憑き物が落ちたように茫然としていたが、じっとシャカを見たあとに安心したような柔和な笑みを浮かべ、『そうだな』と答えたのだった。
 聖域に通いやすくて、普段の生活を送るにふさわしい場所をサガはシャカに提案した。シャカは一も二もなく承諾した。
 場所はあの心地よい風の吹く小さな村。
 仮宿は女主人が住まう場所ではなく、修繕中だったあの古民家だ。まだ多少手直しが必要だったけれども、住むことが不可能なほどではなかったから、住みながら手を加えていけばいいだろうとシャカは生活を始めた。もちろんサガの監督つきで。

『もう一度、一からやり直そうか』

 そんなサガの言葉に『一からは面倒だから、五あたりではどうかね?』と返し、サガに小突かれながら、スタートを切った新たな生活。
 サガはまだまだシャカを子ども扱いばかりするし、相変わらず何を考えているのかわからなかったりするけれども。大人の味がするビターチョコを口に入れたような、苦みだけではない仄かな甘さをシャカは感じながら、いろいろなことを知っていきたいと願った。

「シャカ、急いで。そろそろ時間だ」

 サガの催促の声が届き、「すぐに出る」とシャカは答えた。
 鏡の前できちんと確認したあと、サガのもとへ向かう。すっかり玄関で待ちぼうけのサガが上から下までシャカをチェックしたあと、うんとサガは軽く頷いた。

「じゃあ、行こうか」

 すっと自然に伸ばされたサガの手。当たり前のようにシャカも手を伸ばし、重ねた。子どもだけの特権が、まだシャカには許されている。ふうわりと花風を受けながら、ゆっくりと二人で道を歩く。
 子どもの頃と同じように繋がれた手の温かさを感じながら、子どもだけの特権が許されることが喜ばしいことなのかは微妙なところで、シャカとしては複雑であったが、大人の場合、それはとても特別で、大切な気持ちを示す行為なのだとシャカが知るのはまだもう少し先の話―――である。






FIN.


作品名:オトナダケノモノ 作家名:千珠