オトナダケノモノ
身を抉るような衝撃に耐えて、飛び込んできた光景はアイオロスが容赦なくサガに拳を振り上げていたところだった。そしてサガは甘んじて受け止めているように見えた。
アイオロスが激高しているところなど初めて目にした衝撃もさることながら、やはりアイオロスの結界は頑強で、そこを無理やり侵入したシャカは手ひどい歓迎を受けた。見た目はさほど大きな傷はなく、聖衣に覆われていない剥き出しの肌の部分が少々抉られて流血していたぐらいであるが、あまり使うことなどしない小宇宙をありったけに近いぐらい使ったものだから、立っているのもやっとの状況だった。
だから、彼らの間に割って入るなど到底かなわなかった。そんなシャカができることといえば、叫ぶぐらいしかできなかった。
「アイオロス、もういい!やめてくれ!」
「シャカ……?おまえ、なんで」
ぴたりと空中に拳を止めたアイオロスが振り返り、サガもまた驚いたように見ていた。
「なぜきみがそこまで怒る必要がある?辞退しようが、しまいがそれはサガの自由なはずだ」
きりきりと全身が悲鳴を上げていたが、シャカはなんとか踏み止まり、アイオロスを説得しようとした。すると、アイオロスは大きく一つ息をして、シャカに向かってきた。まだ収まりきれてはいない怒りの感情を漂わせながら、シャカの前にアイオロスが立った。
「アイオロス、ダメだ」
サガの悲壮な声が聞こえた。スッと伸ばされたアイオロスの指先がシャカの顎を捕らえる。つがえた矢の先の照準がさだめられたような気がした。
「おまえには関係のないことだ、シャカ。邪魔立てするなら容赦しない」
うっすらと笑みすら浮かべてみせながらもアイオロスは強い圧力をシャカに加えた。ほとんど本能的に小宇宙を高め、シャカは身構えた。
「―――いい機会だ、シャカ。修業の成果とやらを見せて貰おうか。サガ、そこでよく見ておけ」
「やめろ、アイオロス!」
サガの叫びよりも早く、アイオロスの小宇宙が激しく燃えあがった。そのさまは聖河を染める夕陽よりもなお美しいとシャカは見惚れた。