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オトナダケノモノ

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「―――おかえり」

 ニヤつくアイオロスに一瞥をくれながらも、「ただいま」と小さく声をかける。
 アイオロスとサガが独占しているといっても過言ではない、休憩所代わりにしている一室。サガはいつも座るソファーの定位置に腰を沈めると、そのまま仰ぎ見るように身を投げ、脱力した。

「……つかれた」
「はっ?おまえにしては珍しい」

 ほらと労うようにアイオロスがサワーチェリーのジュースが入ったグラスを手渡す。サガは受け取ると、一口のどを通らせた。ほどよい酸味が疲労感を薄くするようにも思えた。アイオロスはソファーの肘掛に腰をかけると、「それで?」と悪戯っぽい眼差しを向けながら、促した。

「また、おまえはそうやって、面白がって」
「実際、面白いじゃないか。なぜ、シャカは道端で干からびたカエルみたいなことになったんだ?」
「干からびたカエル……」

 それはいくらなんでも言い過ぎだろうと咎めたいところだったが、せいぜい言い返せても「カエルじゃなくてオタマジャクシだ」ぐらいしか思い浮かばなかった時点で、とっくにサガの負けである。虚脱感著しい。
 ああ、干物になることが修業だなんて思っているシャカを一体どうすれば、真っ当に矯正できるのだろうか。人の斜め上を行くのは昔からだが、あまりにも突き抜けすぎていて、正直、何も思い浮かばず、今のところサガはお手上げだ。

「―――やはり、あの時、ついていくべきだった」
「おいおい、サガ。それはアウトだろ?」

 アイオロスが手を伸ばし、こつんとサガの頭を小突いた。

「うん……そうだな」

 サガの周りだけ、どよんと空気が澱んでいるような気がするのは果たして気のせいかどうか。アイオロスも困ったような顔を浮かべている。

「仕方ない、こういう時は―――」

 ちょっと気分を変えようか、とコッソリ隠してあったウゾを取り出したアイオロス。時折はこんなふうに落ち込んだりした時、二人で飲み明かすこともあった。年長者として黄金聖闘士の鏡として律してはいたが、アイオロスやサガでもたまには羽を伸ばすことも必要である。
 誰の邪魔も入らぬこの場所でなら、他者の目を気にすることもなく、互いに愚痴を言ったり、馬鹿なことを言い合ったりした。時には辛辣な意見も言い合い、気まずくなることもあったけれども、それでも気のおける友であることには変わりなく、サガにとってもアイオロスにとってもくつろげる場所と時間と相手であるのには変わりはない。

「じゃぁ、皆からの手土産を肴にしようか……これはなんだろうな?」

 聖域へ戻ってきた幾人かから貰った手土産が丁度良い肴になった。中には怪しげなよくわからない物もあったが。酒を酌み交わしながらも、やはり話題はシャカへと戻る。

「―――へぇ、元料理長のところか。彼女なら、安心だな」

 聖闘士や訓練生たちの空腹を満たしてきた厨房の長こと料理長は数年前に引退して、聖域近くの村で暮らしていた。時折は懐かしい味を求めて、アイオロスやサガなどは『元・料理長』という肩書となった彼女のもとへ通った。彼女の料理は素朴だけれども栄養満点、舌に馴染むおふくろの味というところだろう。
 元来の世話焼きな気質はサガの申し出を嫌がるどころか、「腕が鳴るねぇ!」と、むしろ喜んでシャカの世話を引き受けてくれた。とてもありがたく、頭の上がらない存在だ。

「……っていうか、サガ、今度はシャカがプックプクの子豚ちゃんになっているかもよ?」

 楽しげに笑うアイオロスに対して、やはりサガは笑い事では済まないので真剣に答える。

「カエルの干物になるよりは子豚ぐらいのほうがよっぽどいい。ほんとうに。もし、おまえなら、どうだ?アイオリアが長期間の赴任とかで、ガリガリのギスギスになっていたら、たまらないだろうが。まぁ、とにかく……彼女なら任せきりでも大丈夫だろう」
「えー?アイオリアがガリガリ?ないない。あいつに限ってそれは絶対ないな!はははっ。でもさ、ほんとうに任せきりでいいのか?心配性のサガが放置できるわけ?」
「そばで見ているのがつらい……不甲斐無さに毒を吐き散らかしてしまいそうなんだ」
「心配性を通り越して、病んでいるみたいだな……まったく、情けないなぁ、天下のサガ様だろうに」
「面目ない」
「おお〜い、天下のサガっていうのは否定しないのか?」

 軽口をたたき、陽気に笑うアイオロスにつられてサガも笑うが、それでも心の奥では鉛のように重いしこりの存在がずっとあった。


作品名:オトナダケノモノ 作家名:千珠