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オトナダケノモノ

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4.
「―――それはサガ、勝手なきみの考えだ。わたしにとって、とても大切なことは一も二もなく聖闘士としての役目を果たすことだ。それに関わるすべてをないがしろにはしたくない」

 慌ただしく息子夫婦のもとへと向かう、元・料理長を送り出したあと、ホッと一息をつきながら、当初の目的でもあった次期教皇選出に関してのことをようやく、シャカに告げた。一大事なのかもしれないが、サガにとってどこか薄ら惚けたことで、実際重きを置いていなかったことなのだが、それに反してシャカは過敏に反応してみせた。
 シャカは真面目だなと思うとともに、それほどまでに聖闘士であることを重く受け止めているならば、どうして自らをもっと大切にしてくれないのか――とサガは歯痒さを覚える。だからこそ、八つ裂きにはしないまでにも自然、言葉尻もきつくなっていった。

「―――そうまでおまえがいうならば、敢えていわせてもらうが。あのような状態までに至り、自分ひとりでは立つこともままならぬ者が、どの口で聖闘士としての役目を果たすなどといえる?関わることすべてをないがしろにしたくなどないというのであれば、それこそ、おまえ自身を危険にさらすような愚かな真似は二度としてくれるな」

 シャカは無垢な子どものようでもあり、練れ者のような大人のようでもあり、危ういバランスを器用に保っているようにサガには思えた。大人のような矜持さえ垣間見えたけれども、サガからすればまだまだシャカは青二才……いや、子どもでしかないと。少し、言い過ぎただろうか。シャカは元来表情豊かな方ではないけれども、僅かに蒼褪め、唇を引き結んでいた。
 キュッと堪えるようにシャツを握り締めるその様は、サガが本気で叱った時に数えるほどしか目にしたことがなかったそれである。今でこそないが、幼少時のグッと涙を堪えるその様はいじらしく、叱る方のサガに罪悪感さえ沸き起こすものだった。
 今もってそれは変わりなく、効果絶大などとシャカは知る由もないことだろう。サガはシャカから視線を反らし、夕闇に染まり始めた外の風景へと視線を移し、思った。

 ―――こんなにも自分は不器用者だっただろうか、と。



 彼女仕込みの凝った料理、とまでにとまでにはいかないが、レシピ通りに作れば、在り合せの品でも、きちんとした夕食にありつけた。シャカは夕方のことを引き摺っているのか、いや、シャカだけでなくサガもまた引き摺っていたから、ふたりとも口数は少なく静かな食卓となった。
 気の利いた言葉なら、普段ならいくらでも言えるはずのサガだが、なぜかそんな気分になれないでいた。きっとシャカも本来なら、インドでの生活をサガにひとつずつ語りかけてくれたことだろう。そんな機会を奪ったのは他の誰でもない自分なのだろうと自己嫌悪に陥り、サガはますます気分を沈ませた。早く夜が明けて、聖域に戻りたいとさえ、思う。シャカとの二人きりの空間に怖気づいている。
 こんな時は早めに床に就くのがいいと、サガはシャカに入浴を促すが「あとでいい」とぽつりと答えるだけだった。ならば、先にとサガが入浴を済ませて、濡れた髪をタオルで拭き取りながらリビングへ向かうとシャカの後姿を目撃した。
 玄関へと向かうシャカに「どこへ?」と声を投げ掛けると驚いたようにシャカは振り返った。どこかバツ悪げに「夜の散歩だ」と告げるシャカに、ならば共にとタオルを置いて向かいかけたが止めた。シャカが眉を潜めたのを見逃さなかったのだ。『―――ついてくるな』そう言わんばかりの表情で。無言の拒絶にサガはまたチクリと胸の痛みを感じた。

「ほどほどにな」

 そうサガは告げるに留まり、逃げるように自分用にと宛がわれた部屋へと向かった。ぼんやりと部屋内を眺める。家の主の息子が使っていたという部屋はもう長く使用者が不在だった証のように、あまり物が置かれていなかったけれども、親子仲睦まじそうな写真がところどころに飾られていてサガは目を細める。
 写真を撮った、いや、正確にいえば撮られたことは幾度かあったけれども、サガの手元に一枚とて存在しない。そのことを今まで疑問に思ったり、特に感じ入ることなどなかったけれども、こうして他人の家で目の当たりにしてみると、やはり特殊な環境の中で自分は生活しているのだなとしみじみサガは思った。
 ふと電話が鳴っているのに気付いてサガは部屋から出る。きっとこの家の主だろう。息子の元に無事辿り着いたら、連絡をすると言っていたからである。のそのそとサガは電話に出ると案の定、彼女であった。捲し立てるように大きな声で話すものだから、サガは受話器を20cmほど離す必要があったけれども、出掛けに何度も言っていたことをまた繰り返す彼女になんだかホッとさせられながら、こちらは大丈夫だと念を押して電話を切った。

「いったい何が大丈夫だというのか……」

 自分で言っておきながら、サガは呆れた。時計に目をやれば結構いい時間になっていたがシャカは帰ってくる気配がない。様子を見に行こうかとも思ったが、シャカは一人になりたい様子であったことを思い出して、サガは今度こそベッドへ潜り込むことにした。
 なんだかんだと雑用に追われたり、色々とくだらないことで悩みを抱えていたものだから、ここ最近はあまり眠れていなかった。明日は重大事項の話し合いが控えているのだし、ここら辺りでスッキリと頭をクリアにするべきだろうと思うに至ったサガである。
 いつもと違う環境では本来サガは熟睡できない性質であるが、こんな時しか役に立たないであろう、教皇から教わった小宇宙の小技のひとつ「教皇直伝睡眠導入方法」を実践することで、ストンと眠りの淵へとサガは誘われたのだった。



作品名:オトナダケノモノ 作家名:千珠