オトナダケノモノ
2.
シャカが聖域に到着し、そして使者に抱きかかえられながら教皇宮へと辿り着いたとき、すでにほとんどの黄金聖闘士たちの顔が揃っていた。久しぶりの再会である。皆それぞれたくましく成長していて、幼い頃の面影はあれど、立派な青年へと姿を変えていた。
そんな中、ただひとりシャカだけは真逆のような姿であることに、今回のタイミングの悪さにシャカは呪詛の言葉さえ吐きそうになる。
ただでさえ、重たい空気だった場の雰囲気が一瞬にして変わる、というのはおおよそ良くはない場面が多い。自らが招かれざる者なのだろうと認識するのはシャカが現在、必要以上に精神を研ぎ澄まされた状態だからではなく、一目瞭然といった状態だからだ。
聖闘士の中でも極めて優れた力を持つ黄金聖闘士が聖闘士でも雑兵でもない、いち使者でしかない者に抱きかかえられて、それこそ瀕死にも見える、いや、瀕死にしか見えない状態ならば、彼らが言葉を失うのも無理のない話である。
居た堪れない気持ちを抱くシャカとは違って、何故だかシャカを抱えたヘルメスの使者は逆に威風堂々としているのが癪に触らないでもなかったが、それは逆恨みといったところだろう。
背にバルゴの聖櫃まで背負っていればなおのこと、一瞬、その場に集まっていた誰もが使者のことをシャカだと勘違いを起こしていたほどだ。いっそそのまま勘違いさせておいても良かったかもしれないけれども、目ざとい者がすぐに訂正をかけた。ムウである。
「シャカ、あなた、なんていう有様ですか!?」
見た目は終わっているが、必要以上に五感だけは無駄に研ぎ澄まされているのでシャカはその言葉の端々に乗せられた感情を受けるだけでも疲弊する。「うるさい」と返すのが精一杯だ。その言葉を軸に遠巻きだった同年代の仲間がワッと群がった。
ざらついた感情の風がどっと吹き寄せて、さながら、つむじ風のようにシャカの周囲を取り囲み、シャカは不快に眉をひそめた時である。
「なんだか、賑やかだな、どうしたんだ?」
「騒々しいぞ。おまえたち、場をわきまえないか」
人垣の向こう側から懐かしい声が届いた。涼やかで優しく頬を撫でるような風が、つむじ風を打ち消す様に吹いた。さっとシャカの前にできた人垣が割れて見通しが良くなる。
シャカと同年代の黄金聖闘士たちも敬う、輝かしいばかりの双璧。そんなふたりから、ものの見事にことばを奪ってみせたことはある意味、修業の賜物であったのかもしれない。