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オトナダケノモノ

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「……という感じでわたしは修業していたのです」

 ここは一体どこなのだろうという疑問を抱きつつも、必要以上に畏まった物の言い方になってしまうのは無言の圧力に耐えかねたからとも言えた。
 シャカは今、ふかふかのベッドの中にいた。あの後、教皇を見舞うことさえ許されなかった。驚愕の眼差しで凝視していたアイオロスとサガ。うち一人は気付けばシャカの前にいて、有無をも言わせぬ勢いでヘルメスの使者の腕から、その者の腕へと移されていた。サガである。
 その時にはサガからは何の感情も感じられなかった。それこそ「無意識」といった具合だ。一瞬だけサガは以前となんら変わらぬ柔和な微笑みを浮かべたあと、すっと表情を失くした。正確に言えば「無表情」を取り繕っているようにシャカは思えた。
 そして、相反するようにサガから滲み出る感情の気配は凄まじいものだったのだ。サガの腕にちんまりとおさまったシャカだけではなく、茫然と事態を見守っていた周囲の者たちもまた恐縮するほどだったのだ。

「――あとは頼んだぞ」

 アイオロスに向けて発せられた言葉を最後にサガはずっと押し黙っていた。シャカを握り潰しそうなほどの雑多な感情を身に纏いながらも、あくまでサガは壊れ物のように、優しくシャカを見知らぬ村へと運んだ。
 すれ違う村人にサガは軽い挨拶のことばと一瞬だけ笑みを浮かべてみせては無表情、いや若干怒りを滲ませた表情へと戻していた。
 サガは灰色がかった石造りの家に前に着いた後、不用心に開け放されていた玄関の前に立った。すると中から人が出てきた。皺くちゃの笑顔が印象的なふくよかな中年女性である。そして短い会話ののち、サガは家の中を勝手知ったるように進んでいった。
 シャカは連れてこられた場所が何処なのかとずっと疑問に思っていたが、軽々に口を開いたりはしなかった。
 サガの成すままに陽だまりのように温かなベッドの中へと収められながら、引き摺りこまれそうになる眠気と闘い、シャカはサガの様子を窺った。
 ベッドのそばに置かれた座り心地のよさそうなソファーにサガは座っていたけれども、漂わせる空気はリラックスには程遠いものであった。

 七年ぶり、だろうか。サガを見るのは……。

 聖域を離れてインドへと戻っていったあの日から、早いものでそれぐらい時は経過していた。インドに戻れば、戻ったで、聖域からは足が遠退いていたから、サガだけではなく、その他の仲間とも会うことはなかった。だからこそ久方ぶりに会った皆の成長には驚かされたし、年上のアイオロスやサガなどは、以前から大人だとは思っていたけれども、もはや完全に大人の男だ。
 すっきりとした鼻梁に思慮深い眼差しは以前と変わりないようでいて、さらに磨きがかっていた。つまるところ、そこにいるだけでサガは芸術的に美しく、空間に彩りを添えているのだ。残念ながら、綺麗な色彩の両の眼は閉じられていた。シャカを軽々と運んだたくましい腕もぎゅっと胸の前で組まれ、眉間には深い皺を寄せながら、ピリピリとした尖った気を放っていた。やっとサガが口を開いたけれども、それは今のシャカの事態を責めるように問うものであった。
 シャカにすれば、修業することを責められる理由などまったく見当たらなかったので、当然のように説法するがごとく、いけしゃしゃあと説明したいところだったが、今のサガを前にしてそんな余裕もへったくれもなかった。
 激怒する親を前に必死になって言い訳をする子どものようだとシャカは思いながら、慎重に言葉を選びながら、サガにここまで至る経緯を説明した。

「…………」

 一通り説明を終えたシャカにサガは変わらず無言のまま。ただ、地を這うような深い溜息を何度か繰り返していた。サガはがっくりと頭を垂れた状態でようやく口を開いた。

「とりあえず、休みなさい。話はまた改めてしよう」

 サガはそういうと、すっと立ち上がり、シャカを見ることもなく扉へと向かい、去って行った。どこか拒絶的な態度。微睡みを与えるベッドの中で、シャカは無性に腹立たしさと、やる瀬無さを覚えたけれども、長くは続かなかった。ずるずると深い眠りへと引きずり込まれたからである。


作品名:オトナダケノモノ 作家名:千珠