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オトナダケノモノ

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6.
「おや、シャカ、お元気そうで。すっかり具合はよくなられたようですね」
「おお、久しぶりだな、シャカ」
「元々、具合が悪かったわけではないぞ、ムウ。久しいな、アルデバラン」
「そうですか?死にかけていたようにわたしには見えましたけど」
「この前はたいへんだったらしいな。話には聞いたが。ちょうど、おれが到着する前だったから、会わないままで心配したぞ」
「ムウ、それはきみの見間違いというものだ。今のわたしを前に言えるかね?そういえば、アルデバラン、あの時きみの姿は見かけなかったからな……迷惑をかけたなら申し訳なかったが、心配は無用だ」
「まったく素直じゃないというか……はいはい、いまはすっかりお健やかなようで何よりですよ。というより、なんでしょうねぇ……変な感じがします」
「別段、迷惑などかかってないが。変な感じってどういうことだ、ムウ?」

 教皇宮に着くと早速、話しかけてきたのはムウとアルデバランだ。割合に気心の触れた者たちである。自然シャカも笑みながら、歓談する。

「違和感っていうか……そうですね、この前とは違って妙に大人びた感じがします」

 失礼なほどじろじろと観察するムウにシャカはさして厭な顔もせず、むしろ愉快そうに答えた。

「きっとそれは溜め込んでいたものをスッキリと吐き出したせいだろうな」
「なんですか、それ。まるで童貞が初体験でも済ませたみたいな―――」

 バサバサバサっと背後で音がしたので、三人が振り返ると、そこにはアイオロスとサガが立っていた。どうやら、サガの手元から書類が落ちたらしい。やっぱりサガは顔色が優れないままだった。
 やはり具合が悪いのだろうかとシャカは思いながら、手分けして拾い集めた書類をサガに渡し、「大丈夫かね?」と声をかける。対するサガは「ああ」と生返事を返した後、よろめきながら、教皇宮の奥へと向かっていった。怪訝に首を傾げながら、サガが拾い損ねた数枚の書類を拾った後、アイオロスもまたそのあとへ続いて消えた。

「サガ、今日はいつにもまして、おかしいみたいですねぇ」
「そうみたいだなぁ」

 呆れたように見送りながら、ムウとアルデバランが呟いた。シャカが聖域を離れて村に滞在している間のことなど、さっぱりわからなかったため、思わず聞き返す。

「そうなのかね?」
「……まあ、な」

 ぽりぽりとバツが悪そうにアルデバランは頭を掻いた。対するムウは大仰に肩を上下させた。

「心ここにあらずっていう感じで。一応やるべきことはきちんとやってはいたみたいでしたけど、覇気がないっていうか。物思いに耽っているような感じで。かと思えば、すごい剣幕で憤っていたことも。烈火のごとくというものでしたよ、あれは。教皇に次ぐ勢いがありましたね。非がないとは言えないかもしれないですけど、あそこまで強く言わなくてもいいんじゃないかと思ったくらいです。ほら、あなたを抱えて連れてきたヘルメスの使者。サガに叱られて、可哀想なくらい落ち込んでいましたよ」
「あれは……たしかに厳しすぎだな。同情する」

 次期教皇選の最有力候補として精神的な負担でも感じているのでしょうかねとムウは笑ったが、シャカはあっさりと見つかった犯人……ではないけれども、責め立てた張本人がサガだと知って少なからず衝撃を受けたがそれに浸る余裕はなかった。
 しばらくしてから、皆が集ったので次期教皇を決めるに至ったことから、どのような方法でとか、詳しい日程などが教皇付きの従者から告げられた。
 黄金聖闘士全員が資格を持つということだが、それでも資質は問われる。立候補ではなく、推薦したい者を各々が告げることとなった。そして、辞退するかしないかだけはきちんと明白にしようということで話し合いがなされた。
 ただ、のちに遺恨とならないようにということで推薦する者の名を紙に記し、従者によって集められた。ライブラの聖闘士をのぞく11人が静かな緊張に包まれた場の中、各々が推す者の名を書いたわけだが、シャカは紙を前にしばらく考え込んだ。悩んだ挙句、そこには「アイオロス」の名を書いた。
 回収された紙はすぐさま教皇の従者によって開票されて、明らかにされた。結果は数名違う名が挙がっていたが、アイオロスとサガの同票一位ということで、この二人をメインに今後、どちらかを選出しようという話がついた時だった。

「わたしは辞退したいと思う」

 サガがゆっくりと告げた。一斉にサガに注目が集まり、ざわめいた。「どういうつもりだ」とか、「それじゃあ意味がない」とか喧々囂々としたそんな中で、じっとアイオロスは沈黙していた。閉会となったあとも、サガに幾人かが詰め寄ったが、サガはただ謝罪するだけだった。遠巻きにその様子をシャカが眺めていると「ちょっと来い」とアイオロスがサガの腕を掴んだ。  
 サガは驚いていたが、返事をするまえにアイオロスが強引にサガを引っ張っていったものだから、取り残された連中は皆、怪訝に顔を見合わせるばかりだった。

「なんだか厭な予感がしますけど」
「わたしもだ」

 ムウの言葉に応えると、シャカは彼らの後を追おうとしたが、「やめておけ」とアイオリアに腕を掴まれ、制止された。

「なぜ止めるのかね?」
「俺たちが出る幕じゃない。なんていうか、年上で大人な兄貴とサガだけにしかわからないってこともあるだろう?俺たちガキじゃ役不足ってわけだ」
「わたしはきみたちと違ってガキではなく、大人であるし、かれらは仲間であろう?」
「そりゃあ仲間だけどって、そうじゃなくて、おまえはまだガキだろ?なぁ、ミロ」
「え?何だ、ごめん、聞いてなかった……」
「あなたよりはシャカのほうがまだ大人でしょうね、アイオリア」
「おまえに話してないだろう、引っ込んでいろ、ムウ」
「ほら、そうやってすぐ熱くなって……」

 あっという間に周囲に飛び火して一気に騒がしくなったため、シャカは溜息をついたが、今がチャンスとばかりにこっそりとその場から離れた。

「―――こっちか」

 アイオロスとサガの熱量をシャカは追いかけた。たしかにアイオリアのいうことも、もっともだと思いながら。
 アイオロスとサガのふたりの絆はとても固いものだろう。それはふたりから様々なことを教え導かれたシャカら同年代の者たちからすれば、言われなくともわかることだ。ふたりの友情の間に割って入ることなど容易にできようもはずのないことは承知していたし、そんなことをするつもりなど、さらさらない。
 互いを尊敬しつつ、好敵手でもあるというように、時には競い合う姿も見てきた。それでも、今日ほどの緊張を感じたことはなかった。シャカが知らなかっただけかもしれないが、アイオロスの冷えた怒りの波長が鋭い矢のように感じたのだ。とても危険だと。
 向かった先はアイオロスが守護する宮。私的空間だろう場所へとアイオロスはサガを連れ込んだようだった。そのあとを追いかけようとしたが、障壁によって阻まれた。アイオロスの結界だ。シャカは緊張した。黄金聖闘士でも一、二位を争う実力者だ。その結界を破るとなれば相応のリスクが生じた。それでも――とシャカは意を決した。
作品名:オトナダケノモノ 作家名:千珠