大地の初恋 回想編
「すずめの靴?」
なんだ来てんのか。
具合が悪くてただいまも言えなかった。
まぁいいや、部屋で寝てよう。
大輝の部屋の前を通り過ぎようとすると、
「あっ」
という妙な声が聞こえた。
「んっ大輝っ…はぁっ」
すずめ?いや、なんか違う。
「すずめ…」
んっんっと、
押し殺すような声と
甘い囁き。
「あぁぁぁぁっ」
我慢できなくなっただろう
嬌声が聞こえて、
俺は全身の体温が高くなるのを
感じた。
慌てて部屋に入り
布団を頭までかぶる。
なんだよっあれ!
あれがすずめ?!
あの甘い声が大輝?!?!
こんな時間から
こんなとこでするなよっ!!
さすがに中1だから、
そういうことに興味があって、
友達とワーワー話したり、
そういうビデオを親父には内緒で
みんなで見たりしていた。
けど、いつも冷たそうな大輝が
愛を囁いてるのも、
ゲームと魚貝の話ばっかりで
てんで色気がないと思ってたすずめの
そういう声が聞こえたのも、
俺はすごいショックを受けた。
その日からしばらく、
大地ともすずめとも
うまく目が合わせられなかったし、
道行くカップルや、
じーさんばーさんまでも、
家ではそういうことしてんのかな、
と想像をして、そのことで
頭がいっぱいになった。
そして何より、
すずめが女に見えてしょうがなかった。
好きかどうかというのは
今考えると、たぶん初めて
会った時からだと思うけど、
そういう対象なんだ、
と意識したのは、
この時からだと思う。
だからうちに来て、
無防備に後ろを向いて
尻を突き出し、
ゲームをセットする姿に
ムラムラすることもあった。
大輝の彼女とわかっていても
時々衝動にかられることがある。
俺はなるべくすずめに
会わないようにした。
大輝がうちに
すずめを連れてきたら
俺は出かける。
女はすずめだけじゃねえ。
欲求不満なだけだ。
そう思った。
俺はモテた。
部活でサッカーをしていたので
ボールを蹴ればキャーキャー言われる。
俺も大輝みたいに彼女をつくれば
すずめみたいな色気のないやつに
ムラムラすることもないだろう。