二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

INDEX|11ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

 ―…気付かれたか。そう思う。
 大きく目立つ釣り具は扉の外側に置き、館内の越野が見咎め、呆れられぬようにと見えないようにしている。
 目を外へと向け何者かと気配を探る越野に、自分は気付いて欲しくなかったのだろうかと、長身と美貌の持ち主―…仙道は自問する。
 ―…こうして最近は。
 ……今日も部活は勿論あったが、自分が釣りをしたいからそこに行くのだと、そうして気の赴くままに海辺へと出て、一人で釣りを楽しんだ。
 その帰りに、結構な頻度でここに―…陵南体育館へと戻っている。
 しかしバッシュは持ち合わせていない。それに例え寒い時期であった時でも彼は娯楽の戦利品―…なまものを持ち運んでいる身だ。
 だからここに戻った際に既に白色の灯りは消え……それに多少、満たされない何かを感じても、釣竿をボールに持ち替え、何人も敵わぬバスケットを行い始める訳ではない。
 大柄に反しとろとろと、やはり心の赴くままに無人のグラウンドをのんびりと歩み、階段の上に見える向かい最右に建つ体育館に未だに灯りが灯っている―…それを見ると、ただ穏やかに笑み、ここまでやって来るのだ。
 そしていつもそこに居る……黒の美しい前髪の子供のような少年が練習を重ね、シュートを放ち、その結果に喜び、何を思うのか時に悔しげに俯き、やがて負けぬと凛とした瞳で向かい……そう言った一挙一動をただ、眺めている。
 跳び、空中で静止し、ただひたすら無我にシュートを打つ姿、
 その細身の体が着地し、美しい髪が舞う様、
 始め見た時からずっと変わらない―…子供と少年の狭間に迷い込んだかのような、それを未だに留めている愛らしい出で立ち。
 独り練習を続ける彼がスリーポイントラインからリングに向かうその姿が特に好ましいものだと、そう思っていた。だから。
 ―…ゴールとそれに向かい挑む少年。
 一つ、またたきをすれば次にはもうなくなっている僅か一瞬の美しさ。―…例えばそれは定まらない海の青であり泡沫の波のような。
 そこに自分であっても何かを介在させたくない。その思いと、逆にこの子供に今自分が思っている形容し難い心情を全て見せ、示し押し付けてやったらどういう顔をし、彼はどう言う思いに囚われ続けるのだろうと。
 ―…後者の空想は誰にも言えぬ自分だけの密やかな、快感。
 相反した思いが仙道の胸中を過ぎる。
 ……いつもそうだと思う。
 ただ眺めているだけである程度は満たされる心と、気が強く大抵の物事では屈し、膝を付く事はないだろう少年と子供の境のほんの一瞬を切り取って、それを具現化したような少年に、後少し、少しだけ、もっと、もっとと自分を植え付けたい。
 ―…ゴールに向かうその姿を見ていたかったから、いつも通り気付いてくれなくても良かったのに。
 でも俺はそれとは真逆の思いも持っていると、目が合った越野に俺は今こんな事をお前に対し思ってしまっているんだと心中で訴えながら片手を僅かに上げる。
 何でお前がここにと、一瞬大き目の丸い目を見開いた後、それがきりりと吊り、すぐに呆れたものへとなる―…自らの心の赴くままに外出し、部活に出ない仙道を咎めているのだ。くるくると変わるその表情を心地良さ気に見ながら、曖昧な笑みを浮かべた。

 入部後に勿論仙道には及ばないが、出た練習試合で起こった多種のパターンを越野は質問し、仙道はそれに丁寧に応じ、答えて行く。
 ―…例えその本質が冷めたものであっても、こういう所がこいつの良い所だと越野は思う。
 受ける質問に全て分かり易く、ノートに走り書きをしていくその速さに合わせ話す仙道に、つい、お前は中に入って打っている時が特に凄えよなと呟く。
 はっと口を閉じた越野に対し黙ったまま肯定の笑みを浮かべ、やっぱ陵南で強い相手と対峙して、DFを躱してインサイドに攻めて、最後自分が勝つ。だから好きだと仙道は笑う。その様は時折容姿の幼さをからかわれる越野よりも余程幼く……しかし行き過ぎた才を持ち得て、それを思うがままに振るい回す子供のようにも見えた。
 俺が勝つから好きなんだと、そう言う仙道は越野の質問の真意に気付いていない。
 気付いていないのなら、それで良かったのに、その先も……お節介と思われても構わねえと越野は続けてしまった。
 「お前さ」
 既に一年の初戦にしてスターティングメンバーとして参加し、コート全てが自分のものであるかのように立ち回る同輩、―…それを、ずっと見ていた。ただ圧倒され、見惚れ、力の差を悔やみ、それらと共に段々と強く感じるようになっていた―…温和と冷徹、穏順と高慢が共存したこの男の本質。
 「魚住先輩も池上先輩も、福田も植草も……俺もいるからさ。皆、お前に支えられて、こうして教えてもらって」
 ―…波。青い波のような男だと思う。近くにいても届かず、手を伸ばし、掬おうとしても直ぐに離れ行ってしまう。
 「だからどこまでも一人で行くな。」
 ……部活にやって来ないのは大抵の事、それを咎める事よりも遥かに大事な……今コイツに言っておかなければならない言葉と思い、迷いはあったが越野はそう言った。
 自分達を頼れとは未だ言えない。だが、時に同じ戦法で相手へ向かって行く者同士として、約一年弱、そしてこれからも彼を参考にし、見続け、同じ舞台で動き、その中でいつしか気付いてしまっていたこの強く美しい同輩の本質に形容し難い憐みや悲哀を―…この気丈な自分が抱いてしまっていたから。
 だから行くなと、そう越野は口にした。
 (……)
 俺や植草、福田と同じように尊敬しているだろうに。その魚住先輩達の忠告も聞いているように見えぬ時すらあり、どこ吹く風よと流すような奴だ。ようやくスタメン、シックスマンになった自分の言う事を聞くだろうか。
 言い終えた後越野は眼前の男の整った顔をじっと眺めていたが、ありがとうなといつもの穏やかな表情のままの仙道は、越野への説明を再開した。

 ……色々いきなり聞いて悪かった。でも本当、ありがとうなと。
 最後にそう言われて―…自分は到底真似出来ない、彼の裏表のない表情の中で特に良いものだと思う笑顔。それにはっと我に返り―…礼を言われたのだからある程度は上手く説明出来ていたのだろうと思い、仙道は体育館を後にした。
 立て掛けていた釣り具一式を抱え―…幾らまだ気温は上がり切ってはいないと言え、この学生の小遣いでとりあえずと買った高くはないクーラーボックスと言う事もあり、中(戦利品)はもう喰えねえかもなと思いながらも、特別急ぐことなくそれを持ち上げる。
 外は暗くなった。外灯も着かず手摺も何もない体育館外階段を、落下しないようにと注意し下りる。
 そのまま無人の、ただ暗い運動場に出てふと空を見上げると、黒の空に星がたった一つ。
―…唯一つ。それだけきらきらと一つ光り輝いて。美しくはあるが黒の闇や灰の雲に覆われ、時折消え去りそうになる。
 ―…俺は特待生として陵南に招かれたのだから、チームの勝敗に対し必要以上の責任を取る覚悟は入部前から出来ていたし、監督から指示が飛べば、それが自分の責務だから、やる。
 だが俺も……(お前は失望するだろうが)流石に得手不得手があって。
作品名: 作家名:シノ