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 暫くの間、胸中を過ぎる色々の事について考え込んでいた。
 越野は明朗な性質であろうが、どうしても、何れも……とくについ今思っていた同輩の事については、不安が残る。
 俺らしくねえ、そう思い立ちあがり、しかしどこか晴れぬ気持ちのまま練習を再開しようと、歩き出そうとする。
 ふと離れた入口に気配を感じ、認めた存在に対し、越野はボールを置き丁寧に頭を下げた。
 二名の―…特に片方はほぼ入口の扉に頭が付く程の長身の影。
 それは後一ヶ月で新三年、部長と副部長に就く事が決定した先輩の魚住と池上であった。

 先程から越野が……彼だけでなく、福田、植草も“先輩”、“先輩方”と言い、それ以外を仙道が“奴等”と言う、つまりスターティングメンバ―及びシックスマンとなった現一年生の四名が心から“先輩”と思い呼ぶ者達はこの魚住と池上のみである。
 ―…デカいだけ
 眼前の新主将となった魚住を裏に表に、部室で練習中にそう囁いていた現三年と現二年の部員達。
 しかしその現三年達の中に紛れ、決して劣った動きなぞしていなかった―…口数が多い方でなく、どうであっても同輩達、同じ部活動で汗を流す者達全てを悪く言いたくなかった―…そうやってただ言い返す術を持ち合わせていなかった、その名の通り純朴な彼の、その性質故他との疎通を若干不得手とする魚住と、超名門の監督として時折ついきつい態度となる田岡との遣り取りの中継を見事に果たし、実力についても備わっていた池上―…どちらも決して驕ることなく、半年以上前から上級生達に混じり練習試合に出されていた越野達を全く嫌う事なく、迎えた。
 そんな二人を先ず越野が、勢いのある彼に呼応するように植草と福田も、……二人以外の上級生達に“天才様”と妬まれ誹られていた仙道が魚住と池上に従う事は自明の理であった。
 今現在も少数派である魚住達に明確に従う意思を示した越野達に上級生達の風当たりは―…クソ生意気な一年坊共、と非常に厳しいものとなり、彼等四人が練習試合に出始め、スタメン、シックスマンの地位を獲得した際には、その仕打ちは苛烈と言える程―…「先輩方にもっと深く頭を下げろ」から、軽い“しごき”まで、激しいものとなっていた。
 まあ、超名門の陵南であればこう言う事が起こっても不思議ではない―…そう、入学以前から薄々と思っていた事である。
 彼らの仕打ちに怒りが満ちる反面、どこか魚住と池上以外の上級生達を侮蔑する冷えた思いも、その愛らしい顔の下に越野は併せ、秘めていた。
 そして、実力を持ちながらも驕らず、何事も悪く言わないこの二人に自分達四人が従う事の何が悪いのだと、憮然として越野は思う。

 体育館にやって来た魚住と池上はどちらも陵南の他の部員達と比べても大柄な方であり、想像を絶する練習を誰よりも忠実にこなしていた事を裏付けるように筋肉質な体をしている。
 頭を下げた後笑みを浮かべながら、越野はせめてこの二人の内の一人の先輩―…池上程の上背を持っていればと幾度か思っている事と、それにまつわる以前の出来事を思い起こしていた。
 ―…ある日。部活の後だった。
 帰る支度で慌しい、部員のひしめき合った部室で側に居た池上と福田に俺も池上先輩や魚住先輩、福田や仙道みたいに背が欲しいんですよと二人を羨んでそう言った。
 その越野に対し、見下ろしながら180までは難しいかもしれないが伸びるだろ、とぼそりと呟いた福田と、そのままで良いんじゃないか、お前は?と直ぐに返した池上。
 他の下級生達のネガティブな発言をフォローする事が多く、何より陵南の為にはやはり長身の選手である方が利である。なのに何故、池上が自分に対し即座にそう言い放ったのか、越野には理由が分からなかったが、支度を終え帰る間際となった池上の表情に悪意が全くなく、また、魚住と並び尊敬する先輩が自分に悪意を持っているなど考えたくなかったので、越野はそれ以上を考える事を止めた。
 ……その羨ましい上背と、どちらも非常に男性的な風貌をしている二人に近付き、この時間にどうしたんすかと問う越野に、少し口下手ながらも主将の魚住が応じる。
 ……打ち合わせをしていた。それはすでに三十分以上前には終わっていたが、帰りの廊下で―…生徒を使う事で有名な老年の教員に会った。何やら明日の授業で、視聴覚室で教材を使用するらしく、スライドやら生徒用の藁半紙をホチキス止めした粗末な冊子等を運び、終いにはこの時間となった……と話してくれた。
 その横で魚住がでかいから荷物運びには最適だと目を付けられて、俺まで巻き込まれちまったと、笑いながら言う池上。
 ―…お二人共大きくて、体がしっかりしているから、必要以上の用を頼まれたんじゃないでしょうかと、話を聞き終えすぐに越野は思ったが、池上に言い返されそうなので、敢えて心中を言わなかった。

 お前だって十分大柄な方だろ、と……越野と同じ事を思い、それを表情に出している、しかしやはり言い返さない魚住に気付いているのかいないのか―…全く意に介す事無く、やっているんだろう、こっちは良いからそのまま練習を続けていろと言い返す。
 それに素直に頷き、ボールを拾いスリーポイントラインに駆け出す越野を見ながら、池上はある事を思い起こしていた。
 先刻の“打ち合わせ”については、新部長と新副部長として、下級生の―…主にスターティングメンバーとなる者達についてを話し合っていた。
 ―…仙道はもう良い。むしろ……恥かも知れんが、部長である俺があいつから学ばんと足りん物、あいつの動きから得る物学ぶ事が沢山ある。
 ―…5番として、自分が―…自分達が一年後、ここを去った後も陵南が陵南である為にセンター―…菅平の育成と、実力はあるがまだ未熟な福田を主に見て行きたい。
 古びた椅子に巨躯を預け、先ず魚住が呟く。
 ならば俺は変わらんな、と池上は思う。必要以上に話す事を良しとしない魚住を掲げ―…少数でも良い。可能性のある一年をこちら側……魚住を罵り彼と監督に意を通じる池上を邪険にしている他の同学年達との日和見でなく。出来れば完全に―…自分達に従う者達が欲しい。
 彼が一年以上前から考え抜き、新入生入部の際に目を付け意図的に接近し、こちら側への好感を持たせる為に仕向けた“可能性の芽”……越野、福田、植草そして仙道を引き入れた。しかし、やはり少数でも構わんと思っていた従う者達の人数に対し、欲と……全ては部の統制の為だと、一層の望みが湧く。
 現状のこの四名……一見池上達に従順そうに見え、真実は四者四様に生意気盛りであるクソガキ達以外にもまだ少数派である自分達の現状を徐々に改善していくために、なるべく彼等以外の現一年と喋り、繋がりを築くようにしていかなければならない。
 あの子供達……いや巨大な犬と小雀二匹と二羽達とも“親密”な関係を続け、また、自分達が4番、5番を取った事で理由欄に“大学受験の為”と記入し何割か出て行った同輩達の届出を何の事は無いと、どこ吹く風と言った平常の態度で構えている事。
 (……しんどいが、平然と構えていれば、それで良い)
 それがただの虚勢や偽りの心であっても。
 こう言う事は魚住には向かん……部の為だ。ならば俺はどんな事でもやる。
作品名: 作家名:シノ