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 魚住がその分厚い手で軽々と持ち、今まさに開けて中を飲まんとしていた持ち運べる500ミリリットルのペットボトルは―…流行の関連に疎い魚住ですら、幾度か宣伝で見掛け、部員や同じクラスの者達からその人気の程を聞かされている商品である―…特に口にする物は滅多な事では購買部では買わない魚住が、昼休みに切れたノートを求めそこへ行った際には既に完売している程の品だった。
 それだけのものを、日が落ちた時間まで部室で粘っていた魚住達をこき使っていた教員が、まず買える品物ではない。(だからと言って生徒の為にわざわざ校外まで出て買ってやる教師などもいない。)
 大きな掌の中のボトルは、僅かだが冷たさがある。しかしそれは買ったばかりの冷涼感ではない。恐らくは―…存外に新しい物を好む池上が、午前の休み時間等に早目に―…魚住と、いずれ、この所毎日残り練習を行っている細身で小柄な一年坊にと、急ぎ購入し、部のクーラーボックスを拝借等、何かに長時間入れて置いた物だろうかと思う。
 ―…嘘を吐いている。そう、魚住は思った。
 確かに用件を終える際に教員と池上は何か話していたが、教員から飲物を渡された形跡はなく、恐らく運んだ資料の枚数等の確認の為の会話であったのだろう。
 池上は時に平然と嘘を吐く事もあったが、それは全て部にプラスとなる時だけである。
 魚住は眼前の戦友が、部の為に蛇にも鬼にもなり切る事を知っていた。
 その池上が何故、意味なくまた何の利にもならぬ嘘を吐いているのか。
 考えつつふと見ると、目的の為には魚住が躊躇する事々についても幾度かその手で実行してここまでやって来た―…魚住にはその大胆さが実は、心底では羨ましかった戦友が目の前の、子供のような一年を見て―…ぼんやりと、僅か緩やかに笑んでいる。
正しく幼子のような、渡されたボトルを目を輝かせて取り、旨そうに飲む邪気のない姿にそうしているのだろうか。
 ―…少しそれは違う。直感で魚住はそう思った。
 また、別の理由に拠って池上は口許を綻ばせているのではないか、魚住はそうも思ったが、では戦友が何故そうしているのか、その理由については少し考えたが魚住には分からなかった。
 ただ―…本人は気付いていないだろうが、部室やコート上で同輩や下級生達を……時折物を見遣るようなひどく冷えた目で、何かを量るかのように見据えている同輩が、こんな表情をするのだと。
 ただ、魚住はそれが強く印象として残った。
作品名: 作家名:シノ