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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第三話「ジュネーヴ・ルビー」

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 結論から述べると、ローデリヒの行動は半分正解、残った半分は間違いであった。 視力聴力嗅覚を捨て、魔力の探知に重ねられるだけ強化の魔法を重ねた結果、彼は追跡者の正体と、半日に二度起きた、魔女誕生を仕組んだ容疑者が同一人物である確証を得る事が出来た。 しかし彼特有の【調律】の魔法は、単純な強化魔法よりも強力であるが穴が多い。 限られたポイントをレーダーグラフに振り分ける様に、ある一極に重点して魔力を注ぐには、他の能力が割を食う形で切り捨てるしかない。 その上能力の調律には一定の空想と時間を要し、平常時の安定した調子に戻すにも同様に微調整が求められる。 彼はワンテンポ遅れ、既に察知した直線の先。 前の座席に空いた風穴を見、自身の左肩から僅かな肉と骨の片が、彼岸花の様に、鮮紅を纏い飛び散る非日常が、ありありと脳裏に焼き付けられていた。
 「…!」
 取り繕った声を上げる前に、周囲に皺が寄る程に目が見開く。 左肩口から溢れる生温かい液体。 視界が完全に蘇り、魔力による止血が始まった頃には、彼の座席は血特有の、強い金属臭が車体の臭いを隠し始めていた。浅葱の輝く影。 やはり、そうだ。 ローデリヒは華美な眼鏡を外しながら振り返り、目を見開いた。 
瞳にライラックの光が宿る。 血生臭さと環境音のズームアウト。 同時に彼の視界は未知のジェムを中央に置き高速でズームしていく。 高級望遠カメラの様にブレもなく、調律の魔法少年は狙撃者の姿を捉えた。 この季節に長袖のパーカーを目深に被った同年代の男。 学生が通学鞄を持つかの様に平然と伏射姿勢で狙撃銃を構えていたが、少年がトリガーから指を離した途端、小銃は浅葱色の輝く塵となり霧散した。
 うら若き狙撃手がいた高層ビルの屋上から標的、ローデリヒまで短く見積もっても二キロメートルはある。 刑事ドラマで時折見る様な、あのチャチな小銃の口径では精々有効射程は五百メートルほどだろう。 この長距離から発砲しても当たる筈が無い。 ―魔法でもない限りは。
歓楽街のネオンにうっすらと照らされる金髪。 切り揃えられた短い前髪。 一瞬見えたジェムと同じ色の瞳。 信じたくないが、彼だ。 自分達を阻むように魔女を仕組んだのも、一度は雇い入れ、尊敬の師だった、
 「…貴方ですか、バッシュ」
嘗ての師の狙いは想像できた。 此処に居れば、一般人に危害が及ぶかも知れない。 両目のライラックは消え、
答えを期待するまでも無く、ローデリヒは眼鏡を掛け直し、トロリーバスの二階から飛び去った。 数滴、鮮やかな赤が宙を舞い。 わずかに後、星空に浅葱が流れた。

 どれだけ辿り、どれだけ町外れに向かっているのか。 眼鏡の少年にそんな事を考える余裕はない。 自宅のある住宅地を西に行った工業地帯。
 再開発の決まったこの地域にあった町工場は廃業や移転で既に一つも無く、完全に廃墟としか言いようのない沈黙の世界。 不法投棄された粗大ゴミの山を越え、廃油の水溜りを踏み越えて来たローデリヒの制服は其処ら中に機械的な汚れを浴びている。 くぐもった【美しく青きドナウ】のメロディ。
 良家育ちらしく、放課後友人と少しお茶に行く約束すら、事前に家族から承諾を得ていたローデリヒの元、息子の帰りが遅い、と通学鞄に入れられた携帯へ両親から引切り無しに不在着信が届いているのだ。 その習慣に、露ほども不満を感じて来なかった事をローデリヒは今更に悔いる。 自分はその習慣のせいで自宅と学校以外は好みのコーヒーショップ周辺ぐらいしか土地勘がない。 ただ当ても無く、少しでも高所からの視界が遮られる道を走って来ただけだ。
 何処に居るのかも判らない敵と、自ら見ず知らずの土地に紛れ込んでしまった不安感。 中学生の急拵えの冷静さを掻き乱すには十分すぎる状況だ。
見慣れた街路灯の整列とは違う、所々に設置されている電球の切れかかった、古ぼけた電柱の灯りが揃って、しかし巨大ホールで素人が合唱した様な、微妙なずれを持って奇妙に明滅する。 電灯の明かりが取り戻されるとともに、突き当たり正面に廃工場の影。 開け放しの入口の前に、輝く浅葱を携えた影。 光は幾度と見た卵型となってその手元へ降り立つ。 ローデリヒは決意を持って歩み寄り、卵型に姿を変えた自身のソウルジェムで応える。

 「再会を教え子の血で飾るとは。 随分な挨拶ですね」
浅葱のジェムの頂点に二重剣標が煌めく。
 「貴様は随分と変わったようであるな」
グラスレンズに浅葱が反射する。 ローデリヒの警戒心が僅かに揺らぐが、反して歩調は速まった。
 「仲間の魂を削り落し、自身の命を引き延ばすのが貴様の友誼か」
ライラックが明滅する。 バッシュの表情は変わらない。 眼鏡の少年は眉間に皺を寄せた。
 「それが彼の望んだ道です」
 「貴様に、【魔法少年十字軍】に利用される事までも望んだか?」
廃工場が間近に迫る。 師はパーカーのフードを脱ぎ、短いボブカットの金髪を晒し出す。
 「抜けた貴方に、出せる口などありませんよ。 とうに最後通牒を突き出した貴方になど」
 「聞いて呆れる。 最早アレクサンドリアの商人となった身で」
 「…話になりませんね。 二の轍は踏みませんよ。 貴方抜きでも十字軍は回るのですから」
 「ならば脱退は正しかったと言う事だ。 貴様らの祈りはサルディニアにでも沈むであろう。 ならば」
眼鏡のランタン持ちは遂に敷地を踏み越え、
 「貴方とは此処でさよならです」「貴様とは此処でさよならだ」

 ライラックと浅葱が木霊した。