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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第三話「ジュネーヴ・ルビー」

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 手元を完全に隠すクロークの下、締まった上半身を強調する、ベストと一体化したキュロットの様に、ゆったりとした膝丈の釣鐘型ハーフパンツ。 浅葱とオフホワイトを基調に焦げ茶の厚手なタイツ、踝を覆い隠す堅牢なエンジニアブーツ。
 魔法少年の戦装束というファンタジー一色の衣服でありながらも、バッシュの其れは何処となく機能性への執着を感じるものである。 同じく戦装束を纏ったローデリヒの目にライラックの光が宿る。 ―弾道予測の為だ。
 静まり返る視界。 かかる強烈なスローモーション。 ライラックの瞳は首を傾ける。 頬を弾丸が掠め、軌道に浅葱が散った。 バッシュの足下に空薬莢が力なく転がり落ち、地面に弾かれた途端浅葱の塵を残し霧散した。 【まだ】一発。 しかし背後で流線型がヘアピンカーブの軌跡を残し、再びローデリヒに迫る。 左膝目掛け螺旋状に飛ぶ燻した銀色。 身体を右に傾け往なすが、既にローデリヒの眉間に向けて新たな弾丸が放たれていた…!
 腰の両端に備わるホルダーから羊皮紙を引き出し構えるが、僅かな強度不足で止める事は叶わず、彼の左側頭部から一筋の赤が走る!
 「づぅっ…!」
得手不得手こそあれ、何かしらの自己修復の力を持つ魔法少年達にとってこれしき傷の内にも入らない。 問題は被弾した事ではないのだ。 既に彼自身の調子は崩され、敵となったバッシュがこの場を掌握し始めている事、嘗ての師が想像以上に腕を上げ、油断ならない強敵として自身に立ち塞がっていると言う事実! 殺す気でなければ殺される!
 彼の腰に備わる羊皮紙は元々魔法的組成の代物だが、胸ポケットに収まったペンによる音楽的筆記によって初めて強靭な魔法の五線譜となる。 幾つ辺りを飛び回ったかも判らない弾丸が、何処から何処を狙い発砲されるかを予測するのに手一杯な少年にはペンを走らせる余裕もない! 弾切れを起こした小型リボルバーを捨てたバッシュのクロークから黒金と木目調が二丁飛び出した。 浅葱の魔法少年が両腕で構えると同時に、作動音を上げセーフティレバーは完全自動の位置へ固定された。 ここからが本番とでも言わんばかりに! 

自動小銃から異質な浅葱の銃火が花開く。 何とかソウルジェムを守るべく、ローデリヒは光を放つ左手に左腰から伸びる羊皮紙を巻きグリッサンド【滑るように】記号を刻み付けた。 文字通りペンを波状に滑らせただけの簡易なもの。 だがこれで彼の得物はようやく揃った! 放たれる小銃弾にリズムを合わせ振り下ろされるライラック!
 引き潰され転げ落ちる弾丸。 しかし全てを無力化出来ず右の脇腹に一発、左外脛に一発! 調律の魔法少年は小さく悲鳴を上げるが視線は外さない。 上半身を反らし前方をバッシュ諸共薙ぎ払う! 乱射を止め両の得物で頭部を庇うも、摩擦力を削ぎ落とされた五線は鋭利な剃刀状に空間を削り取る!
 浅葱の魔法少年は歯を食いしばり衝撃に耐えたが、両手に持った小銃は無残に磨り潰され最早銃火器として機能しない。 残骸を即座に捨て去り新たに大型拳銃を構え直す。 この隙を見逃す程ローデリヒも未熟ではない!
間を置かず右腰から引き出した羊皮紙にグリッサンドを刻み、両の五線をクロスする様に薙ぐ! 迫る風切り音、背後は廃工場の外壁、逃げ場は無い! だがバッシュは外壁を掛け登り間一髪でライラックの斬撃を避け、拳銃のセーフティを外す。
 彼の持つ独自の【軌道操作】の魔法は、運動や力学など何かしらのエネルギーを持つ物の軌道を自在に操るもので、エネルギーがゼロ、即ち静止した物体をこの魔法の力のみで動かす事は出来ない。
しかし単純ゆえ魔法に因らない更なる強化も簡単だ。 例えば、運動エネルギーに重力エネルギーが加わる様…高所から低所へ発砲する。 其れだけで弾丸の操作可能な距離は伸び、破壊力も増す原始的な力である。 その特性は教え子のローデリヒも承知の内だ。 高所を取られては不味い! 下方へ、自身へ向けて発射される弾丸を薙ぎ払いながら彼も外壁へ駆け登る! ローデリヒは最低限の防衛で五線を振り回し、バッシュはゼロ距離射撃で応酬!
 生身でない浅葱とライラック、廃工場を昇り詰めていく魔性のラッシュが沈黙の世界に響き渡る! うら若き叫号と共に、非現実の妖光が幾度と無く激突し、一人は殺人レーザーサイトの森の中、一人は曲線ウォーターカッターの只中で、戦場となったコンクリの外壁へ弾痕と裂傷が大量に刻まれ、少年達の額、腕、脇腹、脚、ありとあらゆる傷から血という血が散っていく…!
 双方は対峙する魔法少年のジェムを見やる。 明らかに、何れも輝きは弱りつつあった。 足下は三階相当のガラス窓。 応酬を返したのは、ひび割れたレンズの奥で覚悟を固めた少年、ローデリヒであった。 視界が、発砲音が、火薬臭が、生温い風が。 あらゆる要素がフェードアウトしていく。
 それでもなお、彼は嘗ての師、嘗ての仲間の懐へ飛び込み、胸倉を掴み、呟いた。
 「ウォルスト・ディゾナンザ【最悪な不協和音】」
仄かな光球が広がった。 直後、目が潰れる様な光芒。 耳が引き裂かれる交響楽の轟音が光の中を攻め立てた。
 「ぐあぁあああああああぁああぁあぁっ!!!!!!」
熟練魔法少年も悲鳴を上げる他にない。 ローデリヒが隠し持っていた切り札。 全ての知覚を捨て去っての、馬鹿馬鹿しいほどに単純かつ豪裂な直接的魔力放射の魔法。 床となっていたガラス窓は粉々に砕け散り、魔力と知覚の暴力に直撃したバッシュは目を見開き、電気を流された蛙の足の様に痙攣しながら、重力に身を任され、廃工場の中へと教え子諸共投げ落とされる。 床に血とガラスが尾を引いた。