魔法少年とーりす☆マギカ 第三話「ジュネーヴ・ルビー」
錆付いたフォークリフトやがらんどうのコンテナ。 此処にあった会社は夜逃げでもしたのだろうか。 廃業や移転をしたにしては、中は瓦礫と化した建材や荷物で溢れていた。 終わりの時を待つのみだったであろう
廃工場に月の明かりが射し、ガラクタを照らす様を見て、彼は意味も無い筈の侘しさを覚えた。
動かなくなった師を前に、ローデリヒは深々と詫びを入れた。 バッシュの顔は髪に隠れ表情すら窺えない。
これも恐らく、意味の無い自己満足でしょう。 自らの行為に毒づき、レンズの欠けた眼鏡の奥で、彼は涙を堪えていた。 先まで殺し合った相手であろうと、彼にとっては未だ教えを請うた家庭教師であり、魔法少年としての友である事実は変わる筈も無い。 眼鏡をかけ直し、彼はライラックの魔石を構える。 惨たらしく折れ曲がったバッシュの左膝を、卵を掴むかのように丁寧に、本来向いている筈の方向へ戻し、修復の魔法を紡いだ。
「憎んだ時も有りました、でも、死んでほしいとまで恨んだ事なんて。 私は、有りませんよ」
答えが来る筈の無い問いを投げ掛けた。 奇跡は起きない。 魔法少年とて万能ではない事位は彼も知っていた。でも、心が理解する事を拒む。 祈っていなければ、自分の身が張り裂けてしまいそうな苦痛。 いつか誰もが痛感する痛み― だが、まだ幼い学生が受ける謂れ等有る筈が無い。
彼に本当に別れを告げる事になるとは、夢にも思っていなかったのだ。 自分が殺した様なものだ。 ローデリヒはこれまでの半生で最も深く自分自身を呪った。 そして師の顔に、徐に手を伸ばす。 せめて最期の別れをしっかりと執り行い、せめて過去に自身が憧れた、孤高で美しい生き様のまま…
ローデリヒの時間が止まった。 伸ばした手に感じる、握力。 目を、見開いた。 あまりの力に、自らのソウルジェムを握った手が力を失う。 其れを、血塗れの手は、死んだ筈の存在は、撫でる様に掴み取った。
「我輩も、貴様に死ねとまで、恨みを抱いた事は、無い」
弱った声が暈けて漏れる。 ローデリヒは声の主をただ見つめる他ない。
「だが、許しては… おけない。 理解、出来ないのか。 あの日教えた事を、ホワイダニットを、忘れたか」
声が出ない。 そうだ。 殺すつもりなら、こんな回りくどい決闘を選ばずとも、あの狙撃で急所を打ち抜けば済んだ話ではないか。 鼻血を流し額から流血しながらも、自分のソウルジェムを手にした師の姿を目の当たりにし、教え子はようやく気付く。
自分は最初から大きな読み違えをしていたのだ。 ホワイダニットが有効であるのは、動機を推理する相手が、予想した通りの行動原理で動き、最善の行動に出た時だけだ。 態と次善策を取った場合や、そもそも予想した行動原理が的から外れていては何の役にも立ちはしない。
(私は… 最初から負けていた… バッシュ、貴方の目的は、十字軍の皆でも、私の命でもなく…!)
「暫くここで、反省して…いるがいい。 この、馬鹿が」
ローデリヒの時間が、狂った。 彼のソウルジェムが、彼の命が、彼の意識が、何もかもが遠のいていき、
やがて、全てがフェードアウトした。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第三話「ジュネーヴ・ルビー」 作家名:靴ベラジカ