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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第四話 「ピジョン・ブラッド」

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 「―この、環状の空間には魔女はいないようですね」
それを耳にすると、淡いウェーブを靡かせ、魔法少女は眼鏡の少年に告げる。
 「使い魔も見当たらないですね。 …ちょっと不気味なくらい」
エリゼベータは柄から平行に伸びる刃を乱雑に鷲掴む。 乱雑、とは少々雑な受け取り方だろうか。 取り付く島もないと言った、拠り所の無い不安を紛らわせる為の手付き。 或いは感受性の豊かな年頃の少年達にはそう取れたかもしれない。 複数の駆け足のステップ音は安アパートのバラック階段の様な薄い金属を思わせた。 湾曲した外壁の所々に巨大な五角形の金網から浅葱の光芒が差し、意匠の差異こそあれ、すべて十字の形をなした瓦礫がその穴を塞いでいる様相を呈している。 ソウルジェムは持ち主の戦装束と学生服を煌々と照らす程の強い光量で輝いているが、結界全体を照らす程の浅葱恒星には敵う筈もない。
 緋のソウルジェムは卵型のままトーリスに伴うように彼の肩程の高さを追い浮遊している。 大人と大差ない体格の人間一人を背負い何処に向かうでもなく、只管に階段を上る事は予想以上に彼の身体を消耗させていた。 疲れ切った親友の我儘を渋々聞き、自身も疲弊した身で幾度と同年代の人間を背負った経験のあるトーリスであるが、意識があり負担を掛けまいと微細な体重移動が利く人間と、力尽きただの物体と化した人間の死体では、体感する重さがイコールとなる筈も無い。
 トーリスは彼自身も気付かぬ内に、いつの間にか右肩に背負った筈のバッシュを負んぶし両肩で背負っていた。 時折先のローデリヒとエリゼベータが彼と後に続くフェリクスを伺うが、二人が横並びになって尚余裕があるほど階段の幅が無く、四人の内誰かに背負う彼の事を頼む事も出来ない。 先鋒のローデリヒは彼らが登る螺旋階段の維持と延長にほぼ全神経を注いでおり、周囲への警戒はエリゼベータが引き受けている格好だ。
 何処に使い魔や魔女がいるかも知れないこの場で、ソウルジェムの力が尽きればどうなるか分からない。危険極まりないこの結界に新しく魔女を生んでしまうかも知れない― 徐々に冷たい赤に染まる両手。 必死にこの場に居た中学生達は皆、茶髪の少年の思考回路もまた、間近で死を目撃してしまった恐怖を少しでも紛らわすには、安全に魔女を倒す方法をがさつに探るしか手立てはない。